「みんなっっ大変よ!」

 クラウンでのんびりお茶をしていたら
 美奈子ちゃんがすごい勢いで駆け込んできた


「どうしたの?そんなに慌てて」


「今、そこの十番公園でアレやってるのよ!」

「・・・アレ??」



「ドラマのロケよっ

しかも、スリーライツの!!」

「もしかして、ホームズ少年のZファイル!?」

「うそっ
あたしあれ大好き!!」



「・・・何それ?
すりー・・・らいつ??」

「うさぎちゃん知らないのかいっ!」

「スリーライツよ!スリーライツ!!」

「ふ・・・ふーん;
そうなんだ?」

 ずずいっと両側からせまられて
 その迫力にちょっと逃げ腰になる



「スリーライツ・・・
今をときめく3人組の人気アイドルグループよ

主演のドラマ『ホームズ少年のZファイル』は
平均視聴率35パーセントの超人気番組なのよ」


「・・・ほおー」

「亜美ちゃんたら・・」

「相変わらず抜け目無いわね」


「!?
あっ・・・あんまり詳しいわけじゃないのよっ」




「ちょっとワイルドで危ないカンジの星野」

「近寄り難い美しさの夜天君」

「知的で大人な大気さん・・・」


「いいわよねー!」


「ああもうっっ声揃えてため息ついてる場合じゃないのよ!

とにかく行くわよっっ
話はそれからそれからーっ」









 ものすごい勢いでみんなに引っ張られて
 公園まで連れて来させられた

 でも、着いた時にはもう時既に遅しで・・・



「何!この騒ぎ」

「遅れを取ったか!」


「すっっごい人だねー」

 公園の周りをぐるっと一周
 見渡す限り人だらけ

 見れないと思うと余計見たくなる
 人ごみの後ろからみんなと必死にジャンプして覗き込んだ



「中々見えないわねっっ」


「あーっ大気と夜天みっけ!
本物だーーっっ」


「あっ!あの噴水の前の子
共演のいつきアリスちゃんよ!!」

「本当だ
かわいいなーっ」


「アリスちゃんは知ってる!
どれどれーーっっ

・・・みっ 見えないよう;」


「あんたみたいなチビ
いくら飛んだって見えやしないわよ!」

「レイちゃん!
どうしていつもいじわるな事しか言えないのっっ」


「二人ともっ喧嘩している場合じゃないでしょ
スリーライツがこんなに近くにいるなんて・・・

こんな機会、滅多にないのよっ」

「亜美ちゃん・・・燃えてるねー」


「とにかくっっ

こんな所じゃらちが明かないわ!
みんないくわよっ」






「はあー・・・だめだあ;全然見れない
どこからか回り込めないかなあ」

 辺りを少し見渡してみる
 どこまでいっても全然観客が途切れそうにない


「ねえー
もう諦めて帰ろうよ・・・


・・・あれっっ?」

 いつの間にか人ごみの中、ぽつんと一人きり
 ・・・みんなは?

 軽く慌てて探し回る



「それにしても、すっごい人気
ロケ・・・見たかったなあ」

 いつの間にか公園の外れまで行き着いた
 結局みんなどこ行っちゃったんだろ・・・


「・・・あれれ?」

 目の前の広場に大きなトラックが何台も止まっていた

 看板が立っている
 『関係者以外立ち入り禁止』だなんて・・・スタッフの休憩場所?


 ・・・!!
 頭の中に良からぬアイデアがぱっと浮かんできた

 立入り禁止って事は・・・
 ここなら誰にも邪魔されずに
 アリスちゃんとかに会えちゃったりするわけね!

 こっそりとお邪魔して道に迷ったとか言っちゃってさ
 もしかしたらちゃっかりとサインなんか貰えたりするかも!


「うっふっふ・・・あたしってば超ラッキー?」

 悪魔のしっぽと角を生やして
 抜き足で立て看板に近づいていく




「そーっと・・静かに
・・・別に怪しいもんじゃないですよー?」


「・・・そっから先は立ち入り禁止だぞ」

「ぎくっ」

 どこからか掛けられたその声に心臓が凍りつく


「ごごごめんなさいっっつい出来心でーっ」

 声の主を探しつつ頭を下げた
 近くのベンチに横になっていたらしきその主が
 ゆっくりと姿を現す

 長い黒髪を後ろで束ねた、男の・・人?
 ぱっと見スラッとしていて
 まあまあかっこいいかも・・・

 あたしの顔を見るや、大きく目を見開いた


「おまえ・・・
あの時の!?」

「???」

 濃いブルーの瞳と目立つ金髪のおだんご頭に
 あの時の記憶が鮮明に戻ってきた

 空港ですれ違った瞬間
 彼女から強い星の光を直感した
 なんだか、少しあの方に似ているような・・・
 新しい風が胸の中を吹き抜けていったのを覚えている

 そいつが、どうしてこんな所に・・?

 きょとんとした顔でこっちの反応を伺ってくる
 オレの事・・覚えてない?


「あのー・・・どこかで会いました?」

「!?」

 覚えていないとかそういう以前の話だろ


「もしかして、俺の事 知らない?」

「うん」

 平然と言われた何気ない一言に
 地味に傷ついている自分が情けない



「おまえのうち・・・テレビないの?」

「あるけど?」

「あっそ・・・
俺って思ってるほど有名じゃないのかな」


「あーっ分かった!

新手のナンパでしょっっ」


「・・・なんだそれ」

 得意げに指を指して
 一人で勝手に話を進める


「そんなことしてもだめよ
あたしにはちゃーんと
将来を誓い合った彼氏がいるんですからね!」


 ・・・なんだこいつ
 落ち着きなくてうるさくて
 どうしてこんなやつにあの方を重ねたんだろう
 全然イメージが違うのに


「あのなあ、・・・おだんご頭」

 目立つおだんごにひかれて
 ついその言葉が口から出た


「なっっちょっと!!
何!その『おだんご頭』って

失礼じゃない!?」

「だって・・・おだんごじゃん?」


「あんたこそ!人のこと言えないじゃない
変なちりちり頭しちゃってさ」

「!?
ちりちりって何だよっ」

「大体、初対面なのに
『おまえ』とか『おだんご』とか
ちょっとなれなれしくない?!」


「おまえ・・・いくつ?」

 むっとした顔が横を向いたまま
 ぶっきらぼうに答えが返ってきた


「16よ、高一だけどそれが何?」

「なんだ、俺と一緒じゃん?
だったら『おまえ』でいいだろ」

「あのねえっ!」


「第一、なんでここに入ってくるんだよ
関係者以外立入り禁止って書いてあるだろ

おまえ、字読めないの?」

「ばっ馬鹿にしないでよっ
いくら毎回テストが赤点ばっかりでも
あれくらいの漢字読めるわよ」


「へー・・赤点なんだ?」

「!?
なによそれっ!誘導尋問?」

「勝手にべらべらしゃべってるのはそっちじゃん」

「・・・っ!」

 顔を真っ赤にしてこっちを睨んでくる

 こいつ、おもしろい
 言うことにいちいち反応してむきになって
 くるくると表情が変わる



「字が読めてるのに入ってくるって
もっとタチが悪いやつだな」

「だってそれはっっ
・・・ちょーっとアリスちゃんに会いたいなって
思っちゃっただけなのよ

あわよくばサインなんかも貰えたらいいなー・・・なんて」


「なんだ
そんなにサインが欲しいならオレのをやろうか?」

「はああ?なんであんたなんかのをっ」

「・・・変わったやつ」

「どこがおかしいのよっ」

 どこがおかしいって・・・
 人気アイドルのサインだぜ?


「・・・普通の女の子なら、おれと話すると泣いて喜ぶぜ?
ほら、おれっていい男だからさ」

「どーこがっ」

 何、この自信家
 いちいちえらそうにしてっ


「おれと話できてラッキーだったな

お・だ・ん・ご頭」

 小さい子を構う感じに
 頭をぽん と叩かれた


「だからっ
そう呼んでいいのはまもちゃ・・・

あたしの彼氏だけなのよ!」

「じゃあ、おまえをおだんごって呼ぶのは
あとはオレだけなんだ
そりゃいいや、はははっ」

「何が可笑しいのよっ
色々と失礼な人ね!」


「おまえも、次オレと会うまでには
少しテレビ見ておけよ?

・・・また会おうぜ、おだんご」

「はい?
もう会うわけないでしょ!」

 なぜだろう・・
 次の会う機会なんて決まってなかったのに
 不思議とまた会えると思った

 空港ですれ違って、今またここで再会して
 次はどこで巡り合うんだろう

 その未来を予想したら顔がふっとほころぶ


「じゃな」

「待ちなさいよっ
そっから先は関係者以外立ち入り禁止なのよ!」

「オレ、一応関係者だから」

 背を向けたまま
 ひらひらっと手を振って消えていく


「何よあれ、なれなれしい人っ

またなって・・・そうそう会えるわけないじゃん」

 変なやつだった
 あたしの事おだんごって・・・

 そういえば
 最近まもちゃんにもそう呼ばれてなかった
 少し懐かしい、その響き


 後姿を見えなくなるまで見送って
 戻ろうとした正にその時だった



「きゃーーーーーーっ」

「!!」

 向こうの方から女の人の悲鳴?
 何か、あった!?

 ・・・まさか!!

 その声の方向に急いで駆け出す



 胸のブローチを握り締めて・・・