「あーん
また遅刻して怒られたあ;」

 放課後、また先生に職員室に呼び出されて怒られて・・
 教室に戻る廊下をとぼとぼと歩いていた

 最近怒られっぱなしでさすがにへこたれそう;
 少し一人になりたくて静かな所を探した
 ふと、屋上への階段に目がいく


「・・・・・・」

 ふらふらと
 引きつけられる様にそこへ向かう


 重い足取りで中程まで階段を上り
 その場に座り込んだ



「はあ・・・
あたしったら、どうしていっつも寝坊しちゃうんだろ」

 ため息をついて肩を落とす

 深夜のラジオを聞いちゃうから?
 まもちゃんに手紙を書いていて
 気が付いたら遅くまで起きていたりとか
 ついついよく夜更かしはしちゃうけどさ・・・


「ママやルナがちゃんと起こしてくれればいいのよう;」

 人のせいにして一人むくれた





「・・・誰だ?」

「!!」

 いきなり頭上から低い声が響いてきた
 誰も居ないと思っていたから
 いきなりかけられたその声にびっくりして後ろを振り向く

 むくっと人影が起き上がって
 ・・・先客の顔を見てもっと驚いた


「かっ・・会長!
一体いつからそこにっ」

 気だるそうな表情が上からこっちを覗き込む



「・・・なんだ、おまえか」

 またおまえって言った!


「一番会いたくない人に限って
どうしていつも鉢合わせしちゃうんだろ・・・」

 聞こえないように小声でぼやく


「何をぶつぶつ言っている

せっかくうとうとしていたというのに・・・邪魔者が」

「なっ・・なんでこんな所で寝てるんですか」


「ここは人もあまり来ないし
ほどよく薄暗くてうたた寝には丁度良い

わたしの特等席だ」

「勝手に決めないで下さいよ・・・」



「・・・おまえはどうなのだ
何しにここへ来た
屋上に用でもあるのか?」

「だからっおまえって言わないで下さい
あたしは『月野うさぎ』です!

・・ちょっと落ち込んで一人になりたくて立ち寄ったのに
どうして会長なんかに会っちゃうんでしょうかね」


「おまえの事だ
・・どうせまたくだらない事で怒られたのだろう」

「うぐっ・・」

 図星過ぎて言い返せない;



「なによなによっ
こんな所で寝てないで家に帰って寝ればいいじゃない

今日は生徒会ないんですか?」


「今は、会議中だろうな」

「はいっ?
生徒会長がこんなとこでさぼってていいのっっ」

「さぼっているわけではない

・・・少し休んでいただけだ」

「それをさぼってるっていうんですけど・・」



「・・・わたしだってさぼりたい時もある」

「え?」

 はっとして言葉を止めた
 きょとんとした青い瞳がこちらを見上げている

 ・・・こいつといるとうっかりと余計な事まで話してしまう
 気を抜いているのだろうか



「・・・・・・」

 体を起こして階段に腰を下ろした
 彼女の方を向いてじっと眺める

 他の者と何が違うというのだ
 わたしは・・・何を感じ取っている?
 不思議な印象を持つこの少女にふっと興味が沸いた



「・・・うっ・・」

 何、その今から対話する気満々の感じは・・・
 たじろぐあたしの様子を気にもせず話題を振られた


「どこの中学だった?」


「十番・・・中学ですけど」

「あの成績でよく高校に入れたものだな
成績優秀なお友達と一緒に」

「!!
みんなと一緒に頑張って受験勉強した結果ですよ
あたしだってやる時はやるんですっっ」

 この人と話していると
 ついむきになって口答えしちゃうよ


「ふっ・・・
いつもそのやる気が出ればいいのにな」

「うぐぐぐ・・・」


「いつもバタバタと慌しく廊下を走って・・
おまえの足音は遠くからでもよく分かる

中学の頃からそんなに落ち着きがないのかおまえは」

「あ・・あたしの中学の時の事なんて何も知らないくせにっっ」

「知らなくとも目に見えるようだ
相変わらず遅刻ばかりして赤点ばかり取っていたのだろう?」

「なななっ何でそんなこと知ってるのよ
推測で物を言わないでください!」

「推測ではない
先日ここ数ヶ月の遅刻者リストを確認していたのだが
ちらほらと見たことのある名前が見当たってな

・・・遅刻常習犯の月野うさぎ君?」

「何よっ生徒会長は人のプライバシーまで侵害するのっ」

「侵害されたくなければ
わたしの目につかないように努力するのだな

どうせ深夜ラジオでも聞いていて寝坊したのだろう」

「!!」

 ひたすら見下してくる態度に
 呆れて言葉が出てこない
 赤の他人に、どうしてここまで言われなきゃいけないのよ


「あなたって・・・
あたしの事何も考えてないお気楽娘だって思ってません?
あたしだって悩みくらいあるんだから!」

「赤点ばかり取ることか?
遅刻ばかりすることか?
その程度の事・・・
すべて解決案は出ているではないか

赤点を取らないように頑張って勉強をすれば良い
遅刻の解消は早く寝ろ」

「・・・それが簡単に出来ればこんなに悩んでませんよ」


「万年赤点の遅刻常習犯
おまえ、このままだと本当に留年するぞ」

「ご心配ありがとうございますっ
どうせ遅刻魔の赤点娘ですよ

あなたみたいな頭も良くて何でも出来る人に
あたしの気持ちなんて分からないわ!」



「・・・優等生を演じるのも大変なのだ」

 ふっと 目線を逸らして前を向いた


「・・・え?」


「生徒会長は・・・
生徒の見本になるよう常に成績優秀、品行方正でいなければならない
どこに居ても会長と呼ばれ周囲の目を気にし・・
休まる所などどこにもない

なんと窮屈だ」

「会長・・・」



「時折おまえがうらやましく見える」

「はい?」

「何も考えず好きな事ばかりやって
怒られても一向にめげない

3歩も歩けば怒られた事すら忘れて
また同じ事をして怒られるのだろう?」

「・・それは馬鹿にしすぎです
あたしだって反省くらいするもん」

「・・・はは」

 愛想笑いが漏れる
 なぜこんな事を語っているのだろう・・・
 よく分からないが
 こいつなら聞いてくれる気がした



「・・・・・・」

 遠くを見つめる横顔を眺めた
 今、なんだか彼の本音を聞いた気がする


「あなたの悩みは確かにあたしにはよく分からないけど
会長の役割も大変そうなのね

あんまり根をつめなくてもいいんじゃないですか?」


「・・分かったように言うな」

「なによ、せっかく励ましてるのに・・・」

 優等生を演じているなんて・・・
 会長の仕事って本当の自分を隠してまでやることなのかな
 自分を曝け出すのが怖くて
 わざとそうしているみたいに感じる

 素のあなたが見てみたい・・・
 そう思ってしまうのはなぜ?



「そんなに気取らないでいいんですよ」

「・・・?」

「優等生になりきらなくても
もっと自分を出せばいいのに・・・

ほらっその底意地の悪さを表に出してみれば
意外とウけるかもですよ!」


「・・・何だそれは
オレはそんな性格ではない
勝手に決め付けるな」

「嘘だ、充分歪んでる

っていうか
なんでいつもあたしにだけそういう風に接してくるんですか?
・・・みんなにはもっと優しかったのに

なんだか言葉遣いも変わってるし
今『オレ』って言いましたよね」


「・・・っ・・」

 迂闊だった
 つい一人称が崩れた

 ・・・意外と目ざとくて油断ならないやつ


「・・・・・・」

 じーっと様子を伺っていたら
 ばつが悪そうにふいっと目線を逸らした

 あれれ?
 今、一瞬『彼』が垣間見えた気がする





「多分、最初が悪かったのだろうな」

「最初?」

 横目で軽くこっちを見られた



「月野うさぎ 英語30点

・・・出会いがあれではな」

「なっ!!」

「残念だったな」

 くくっと 笑いが漏れて聞こえた


「むむむっ・・・」

 からかわれてばかりでこっちは腑に落ちない
 でも、なんだか楽しそう

 会話の所々に彼の寂しさが見え隠れしている
 横暴なだけの人だと思っていたけど
 ・・・もしかして強がっているだけなのかな


 先生からも生徒からも常に期待の眼差しで見られ
 どこにいても会長としての自分を意識し続けて

 ここでしか一人になれないのかもしれない



「紫藤・・先輩」

「・・・?」

 少し照れながら言葉を続けた


「会長って呼ばれるの窮屈なんでしょ?
あたしくらいそう呼ばないであげますよ」

 暖かい笑顔がこちらに向けられる
 心の中まで照らされているような・・不思議な気分だ

 懐かしい・・
 なぜそう感じてしまうのだろう


「・・・ただの能天気なお気楽娘かと思っていたが
気遣いの心くらい持ち合わせていたのだな」

「あのねっ
どうしてそういう言い方しかできないんですか!

素直に『ありがとう』とか一言言えないわけ?」


「ははっ」

 こうしているとなぜだか落ち着く
 彼女とくだらない話をしていると
 周りの空気が柔らかくなっていくのが分かる


「おもしろいやつだな、おまえは」

「・・・!」

 人懐こい笑みで微笑みかけられた
 そういう一面は初めて見たかも・・・
 ちょっと意外

 思わず胸の奥がどきっとさせられる





「会長ーっ

・・・おかしいなあ、どこに行ったんだろう」

 生徒会の人が探している声がすぐ下から聞こえてきた



「・・・・・・」

「・・・時間切れだ」

 ぼそっと呟いて静かに立ち上がった
 ふうっと ため息をつき服の埃を落とす
 その様子が少し残念そうに見えた

 ・・・気のせいよね



 あたしの前を無言で通り過ぎる
 すれ違いざまにふわっと頭を撫でられた


「・・・っ!・・」

「・・・またな」

 軽くこっちを見て笑われた
 そのまま軽やかに階段を降りていく

 すぐに姿が見えなくなった



「またなって・・・何よ、それ」

 廊下ですれ違ったら挨拶くらいしろってこと?

 それとも・・・
 またここで会おうって事?



「どっちなのか・・・わかんないじゃん」

 触れられた頭に手をあてる
 ぬくもりから少しだけ彼の優しさが感じられたような

 ・・・なんだか変な気分


 いきなり静かになった空間はやけに寂しさが際立って・・・
 人恋しくなって急ぎ足でその場を後にした