バタン・・・

 閉まる音と同時に雨音が消失する
 静寂の空間で沈黙を守り、じっと時が過ぎるのを待った

「・・・・・・」
「・・・・・・」

 正面の扉に視線を合わせ背後の気配に神経を傾ける
 互いの息遣いを感じ、距離を測って佇んだ
 そうして待てども相手からは全く動く素振りがみられない
 痺れを切らし、軽く横目で眺めてみる

 微動だにしない後姿、上から下まで雨に浸かり色濃くなった影
 その長く垂れた金髪を雫が光り滴っていく
 落ちた露が地面を跳ね、幾度も水音を響かせた

 俯いている状態からは表情が伺えない
 声を掛けるべきか・・・思案していた矢先、ぼそりとその背中が呟いた


「ごめん、もう来るなって・・・言われてたのに」

「あのまま廊下に居られても困るだろう」
「だよね、あはは」


「・・・中へ入るか?」
「ううん、」

「そのままでは風邪を引くぞ、タオルくらい貸してやる」
「ありがと、だけどすごく濡れてるし・・・ココでいい」
「・・・・・・」

 小さく首を振り再びうな垂れる
 計らいを却下され、成す術無く溜め息をついた

 彼女は何をしに来たのか、判断に困る
 慰めの言葉の一つでも欲しいのだろうか
 そんなもの・・・いくら与えられようと虚しいだけと分からぬか

 静かに振り返り、気力の抜けている彼女の様子を
 ひたすら見詰め続けた

「デマンド、」
「何だ」

「あたしって、鈍いのかな?」

 後ろを見せたままこちらへ問いを投げ掛ける

「唐突に何を聞く」
「さっき、星野に告白されちゃったの
ずっと・・・初めて会った時から惹かれてたって

あたし、びっくりしちゃってさ」

「何も、知らなかったと?」
「何も・・・知らなかったよ」

「呆れるな、誰が見ても分かるだろう」
「そうだね、今思えば気付く瞬間はいくらでもあった気がする
なのにあたしったら、鈍感過ぎだった

・・・ううん、何となくは感じていた気がする
その視線に、あたしを見詰める熱い眼差しに
だけど、考える事が出来なかった」
「その気が無いのならば、拒絶しても致し方ないだろうが」

「・・・違う、」
「違う?」

「あたしに考える余裕が無くて気付けなかったの
その理由がこうなって、やっと分かった
いつの間にか、自分の事でいっぱいいっぱいだったんだね」

「・・・・・・」
「戦いの事とか他の事とか・・・今のままじゃ全然足りなくて
もっとたくさん頑張らないとって必死だった
それで周りが見えなくなって、こんな事に

それに気付いた途端心の中から何かが切れる音がして・・・
あっという間に動けなくなっちゃった」


「星野への返事は・・・?」
「何も、うん・・・ともごめんねとも言えなかった
そのまま場を後にして、此処に来たの」

「なぜ、わたしの元へ来た」
「分からない、どうして此処に来たのかな
ぼうっと歩いていたらマンションに辿り着いて
・・・ドアの前で、途端に動けなくなった」


「それで、ああしていれば答えが見つかると」
「・・・・・・」

「追い返されるとは思わなかったのか」
「それならそれで、良かったのかもしれない」

「おまえは・・・一体わたしにどうしろと
慰めを求めるか、それとも懺悔を聞いて欲しいのか」
「何も、して欲しくない・・・
ううんそうね、きっと叱られたかったのかな
こんな不甲斐ないあたしを、デマンドなら怒ってくれると思って」

 微かな失笑に肩を揺らしゆっくりとこちらを振り返った
 ようやく彼女と対面叶い、その顔を見下ろす

 地を見詰める虚ろな視線、潤む瞳の具合から
 泣いているのかとも思ったが・・・
 もはやそんな力も残されていないようだった
 憔悴しきった無の表情が切なる想いを訴えかける

「ねえ、怒って?もっと頑張れって・・・
逃げちゃダメだって言ってよ
こんな、自分らしくないあたし嫌なのよ
止まっている暇なんてないのに、一歩も・・・動けない」
「うさぎ・・・」

「ちょっと前のあたしはこんなに臆病じゃなかった
考える前に体が動いて、無鉄砲に前だけ向いて戦えてた

・・・プルートに、世界の未来を作るのはあたしだって言われて
急に全てが怖くなったの
今のあたしの些細な行動で未来が変わるかもしれない
そんな事あったらいけない
悩んで、悩み過ぎて道が見えなくなって
それでも迷ってばかりで・・・一人じゃ何も出来なくなっちゃった

だから、こんなあたしを誰かに叱って欲しいのよ」

 小刻みに震える肩、それを自ら抱き締め宥める様子に
 何の口添えも出来ずじっと場を見守った
 焦点のぼやけた視線の先には、一体何が映し出されているのか・・・

 ふっと、その眼差しが空を見る
 遥か遠くを見通すような振る舞いに惹き付けられ
 一瞬で釘付けにさせられた

「あたしは、どうしてこんなに弱いんだろう
心も体も・・・もっと強くなりたい
きっと、あたしが強ければみんなを支えられる
あたしが迷わなければ未来だって開けるんだ

大切なみんなを護りたい、だからその為の力が欲しい
どうしたら、強くなれるの・・・?」


「・・・・・・」

 順を追い伝えられていく強い想い
 憂う瞳のその奥に、一筋の光を垣間見る
 その輝きに強い衝撃を覚えた

 彼女は、何からも逃げてなどいない
 漠然とした未来への不安に惑い、目前に迫る強大な力を恐れつつ
 それでも立ち向かい進もうとしている
 迷いながら道を探し、辿り着こうとしている

 ああ、そうなのだ・・・彼女はやはり彼女だ
 わたしの知っているままの人だ
 己の限界に突き当たり、弱さに打たれ悔しさに唇を噛み締めて
 どんな逆境にも耐え抜き・・・そうして
 誰も届かぬ遥か先へと走って行く

 人としての心の脆さと、その全てを乗り越える強さが
 おまえを何処までも成長させていくのだな

 共に戦う仲間は、確かに大きな支えになっているのだろう
 だが背中を押す者ばかりで誰も彼女を立ち止まらせてはくれぬ
 万人の平和を願う彼らには、うさぎを止める事など不可能なのだ

 戦友には出来ない・・・唯一人、彼女だけを考えられる者に出来る事
 無力なこの身でもその心は救えるのだと
 今だからこそ、気付けたのかもしれない

 紅い皇女殿の予見は、間違いでは無かった・・・


「おまえの、何を叱れと」
「だってあたし・・・弱虫でしょ?怖がって大事な事から逃げてばかり
こんなんじゃ誰も、何も守れないよ」

「逃げてなどいないだろう?」
「逃げてるよっ!やらなければいけない事いっぱいなのに
ココから、一歩も動けないのよ
あたし・・・このままじゃ何もかも失ってしまいそうで、怖い」

「うさぎ、おまえ大事な事を忘れていないか
その身はまだ高校生・・・全てを一人で背負う事など到底不可能だ」


「・・・あたしは、普通の女の子じゃない」
「分かっているよ、
他の者とは比べられない程の宿命を持っているのはな」

「あたしには、あたしにしか出来ない事があるのよ」
「だからと走り続けなければならないのか?
一瞬も立ち止まらず、全力を尽くしていれば人ならば必ず疲れる
時には止まりたくもなる、それを責める事など誰にも出来ない

おまえは人だ、間違いなくな
少し特別な力があろうと、そうなのだよ
だから、あまり分不相応な事で悩むな」

「優しいんだね、デマンドは
叱って欲しくてきたのにそんな事言われたら、あたし・・・」


「・・・違うだろう?」
「え?」

「おまえは此処へ、ほんの一時休みたくて来た
ならばそうすれば良い、言い訳など必要ない

だから、おいで」

 静かに右手を伸ばし迷える彼女に差し出す
 それに戸惑う身体が一歩後ろへ引き、固まった

「何を、言って・・・」
「この手を取れば慰めもしてやろう
お望みのまま、何でもしてあげるよ」

「あ・・・」
「さあ、早く」


「・・・・・・駄目、」
「何故?」

「だってそんなコトしたらあたし、もう・・・
涙が、溢れて止まらなくなっちゃうよ」
「泣けば良いだろう、この胸の中で好きなだけ」

「・・・っ・・・・・・」
「何を恐れる、わたしが怖いか?」

 その言葉に彼女の肩が小さく振れる
 怯む瞳が葛藤を映し、こちらを見上げた

 一呼吸置き、微かに頷く

「怖いわ・・・あたしは、自分が怖い
一度止まってしまったらもう、動けなくなりそうで」

「今のおまえに必要なのは説教でも叱咤でも無い
人の温もりだ・・・そうだろう?
雨に打たれ、こんなに凍えているのだから」
「デマンド・・・」


「何も考えるな
そうして、わたしに心を預けろ」

「・・・・・・」

 彼女の心を救いたい、真摯な願いを言葉に乗せ訴えた
 その想いが、頑なな拒む姿勢を少しずつ崩していく

 虚ろな瞳に光が宿りすぐ先の右手をじっと眺めた
 つられて、震える指先がわたしの元へ引き寄せられる
 躊躇いながらも前へ進み、掌の上へ辿り着いた


「うさぎ、」
「っっ」

 乗せられた指先を強く掴んで捕まえる
 そのまま引き入れ、小さな身体を腕の中へ呼び込んだ
 瞬間、その肩が強張り硬直する
 すくむ背中に手を回し、精一杯の力で抱き留めた

 冷え切った互いの身体が僅かな温もりを感じ合い共有する
 雨に濡れた彼女の頭を胸元へ埋め、柔らかく撫で摩った


「あ・・・の・・・っ」

「良く、頑張ったな」
「え・・・?」

「わたしはおまえをずっと見て来たから、知っているよ
今までどれだけの苦労を乗り越えてきたか・・・」

「デマ・・・ンド」
「挫折も、何度も味わったのだろう?
そうして此処まで来れたのだ、それだけ頑張れば充分だろう」


「・・・っく・・・っっ」

「今日は気が済むまで泣けば良い、付き合うよ」

 静かに頭を撫で続け、震える肩を強く抱き締め囁く
 石のように硬かった彼女の身体が少しずつ解きほぐされ
 脱力して胸の中へ収まった
 空を彷徨っていた両手がわたしの背後へ落ち着き
 か弱い力で抱き返される


「あたし・・・は・・・っっ・・・あう・・・
ふええっ・・・うあああっっっ!!」

「うさぎ・・・っ」

「デマ・・・ン・・・っ・・・ふえええっっ」

 胸に響く悲痛な声
 絶叫が高まるにつれて両手に力が加わり、背中に指先が食い込んでいく
 その強さを返し、こちらも抱擁の力を強めた

 うさぎが、わたしの腕の中で泣いている
 怯える肩を抱いていると、どんな重圧に独り耐えてきたか
 痛い程に伝わってくる
 如何なる敵にも果敢に立ち向かい、遥か未来まで戦い続けていく少女

 おまえは、こんなに小さかったのか・・・


「顔を、見せろ・・・」
「・・・く・・・っ・・・ひっく・・・っっ」

 掌で頬を包み上を向かせる
 そのまま暫く、しゃくる声を聞きながら彼女を眺めた

 辛さに耐え忍ぶ唇が空を食べ何かを求める
 憂愁を含む瞳からは宝石のような涙が止め処無く溢れ零れて落ちた
 有りのままの泣き顔に、なぜだか愛おしさが込み上げていく

 これまでわたしは、彼女の色々な表情を見守ってきた
 誰よりも凛とした瞳、無邪気であどけない仕草
 数え切れないおまえと出会い、そして今
 こうして・・・弱さに打たれ嘆く姿にも遭遇してしまった
 どの彼女も美しい、知る度に尚一層惹きつけられる

 非力なわたしに出来る事など些細だろう、それでも
 潰れそうなその心を一時でも慰めてあげられるのならば・・・


「こんなに冷えて・・・」

「・・・・・・寒い」
「それだけ濡れれば寒いだろう、顔も真っ青だよ」

 涙を軽く拭い、色の抜けた頬を摩り温める
 その温もりを感じるように目の前の瞼が閉じた
 指先で輪郭をなぞり、滑らかな肌の感触を確かめる

 張り付く前髪を掻き分け額を解放し、其処へ唇を落とした
 雨に浸された表面からは体温など微塵も感じられない
 温かさを分け与えようと溜め息を吹き掛け唇を移動させる

 白い頬にも同じ様に接し、もう片方は右手を宛がい温めた
 少しずつ馴染ませ、最後にキスを待つ唇を覆い塞ぐ

「ん、」
「・・・・・・」

 寄り添い重なり合う二つの影
 触れる唇に圧を加えても腕の中の彼女は抵抗する様子を見せない
 反応を返し、応えてくれた
 微かに漏れる息遣いが狭い空間に篭り溜まる
 そのまま身を寄せ合い、互いを一心に求め合った

 息の合間に悩ましい吐息が小さく呻く
 貪る速さを緩め、呼吸を与えて更に深く潜り込んだ
 絡まる舌先の感触に酔い、没頭して中を温める
 愛おしいその唇を食べ尽くす勢いでそれを蠢かせた

「・・・はあ・・・っ・・・んっ・・・」
「口の中だけは温かいな・・・」

「デマンド、あたし・・・っ
・・・全身が凍えて、動けない」

「分かっている、すぐに温めてやろう」







 彼女を部屋へ誘い、中に通す
 扉の閉まる音を確かめ後ろを向いた

「・・・・・・」
「おいで、うさぎ」

 何も語らない背中へ声を掛ける
 その呼びかけにも身体は微動だにしない
 固まった状態で立ち尽くす影へと近づき、身を寄せた

 彼女の凍えて震える肩を優しく引き寄せ、腕を前へ回す
 微かに振れる反応を感じきつく抱き締めた
 華奢なその身は、あと少し力を加えれば潰れてしまいそうで・・・
 加減をしつつも想いの強さは抑えきれない
 力を緩めずに絞め続けた

 じっと抱擁を受け入れていた彼女が静かに腕を動かす
 そうして、わたしの固い両腕に冷たい指先を絡み付かせた
 か弱い力がすがるように手首を握る
 うな垂れた様子でしがみ付き、拘束を自ら強めてきた

 その仕草が、余りにも愛おしい
 露出した首元に惹かれ、其処へ唇を落とす


「ん・・・」

 小さく反応する声を聞き愛撫を続行した
 弱い部分を攻め貪り、唇で肌を温めてやる

 キスを与えながら頭を撫で、濡れた彼女の髪を解いた
 波立った長い金髪が肩へと下り、瞬間甘い香りが放たれる
 隠れたうなじを掻き分け、耳筋まで唇を伝わせた


「このまま、共に温まろう」

 軽く押すとその身体は呆気なく倒れ、前のベッドへ沈み込む
 肩を掴み転がして上を向かせ正面から見下ろした
 青い瞳を覗き、その奥の意思を見定める

 彼女は瞬き一つせず、こちらの視線を真剣に受け止め続けていた
 その意識は確かに今此処にある
 わたしと彼女の眼差しは
 何処までも深く繋がっているのだと、そう実感した

 雨に濡れ色濃くなった制服へ目を落とす
 白いシャツに肌が透け、彼女の艶めきを一層に引き立てていた

 徐に手を伸ばし胸元のリボンを解く

「・・・・・・」
「中まで濡れているのだろう?全て外せば良い」

 こちらの忠告に、無言の同意が為された
 自身の上着に手を掛け、重い衣を剥がし出す

 それを手伝い下着の留め具を外した
 静寂の空間に衣擦れの音が響き、白い肌が晒されていく
 一つ、また一つと濡れた服が床に落とされ見る間に全てが露となった

 月明かりに照らされ輝く金の髪
 シーツの一面へ広がり、その美しさを誇示している
 一糸纏わぬ姿はこの上なく艶めかしい
 まるで女神のような存在を、暫く見惚れて眺め続けた

「とても綺麗だ・・・」

「・・・寒いよ」
「今、抱いてやろう」

 閏う瞳に柔らかく笑み頭を撫でる
 そのまま、目の前でボタンを外し胸元を解放した
 上着を脱ぎ床に重ねて落とす
 公平に全てを取り払い、わたしを待つベッドの中へ忍び入った
 身体を重ね、下の彼女と見詰め合う

 熱のこもったその瞳に何処までも深く吸い込まれていく
 二人の間に、もはや言葉など要らなかった
 こうしているだけで全てが満たされる
 穏やかで静かな時が、果てしなく遠くまで流れているようだ


「デマンド、」
「うさぎ、手を・・・」

 まずはと左手を取り指を絡ませ、掌にキスを与えた
 そうして、端から順に指先を唇でなぞり温める
 芯まで凍えた先は一度熱を加えただけでは
 直ぐに冷えて戻ってしまう
 幾度か往復し、時間を掛けて体温を移した

 される事を見守り、ただ止まっている彼女に行動を促す

「おまえも、触れてご覧」
「あ・・・」

 空いた右手を胸元へ引き寄せ押し当てた
 互いの肌の温度差に、宛がわれた指先が軽く振れる

「温かいだろう」

「・・・心臓の音」

「伝わるか?」
「うん、すごく落ち着いた音が聞こえる」

「おまえも、聞かせろ・・・」

 ゆっくりと倒れ込み、肩を抱いた
 擦り温め、身体のラインに添って両手の掌を撫で下ろす
 腰元を摩ると背筋が過敏に反応し、喉が軽く呻いた

 重なる肌同士が感触を味わい、互いをじっくり確かめ合う
 シーツの滑る音がその動きを引き立て熱情を盛り上げた

 艶やかな髪に指を通し解きほぐす
 溶かされ、酔いしれた様子で彼女の瞳が閉じた
 その瞼に優しく唇を落とす


「・・・ん・・・っ」
「どうして欲しい・・・?」

「キスが、・・・もっと欲しい」
「何処までも、望むままにしてやろう」

 淡い朱色の唇へ、所望され口付けを送った
 触れた瞬間に反応が戻り食べ返される
 相手の速さに合わせ、何度も重ねて熱を注ぎ込んだ

 求められたキスに、我を忘れ溺れてしまいそうになる・・・
 欲望を呑み込み堪え、首筋へと唇を移動させた
 軽く食み、舌先で肌を確かめる
 それも半ばで止め、より下へと移り進んだ

 胸元に潜り、顔を埋め愛撫を続ける

「あ・・・っ・・・やっっ・・・」
「感じるか?」

「っっ」
「身も心も、全て溶けて良いのだよ・・・そうして身体の内側から温まれ」

「デマ・・・ン・・・っ・・・あう・・・っっ」

 弱い部分への侵略に身体が小さく反応を示した
 膨らみを揉み解しその先へ吸い付いて、より強い刺激を与えてやる
 舌先で転がす度に悩ましい溜め息と甘く蕩ける声を届けてくれた
 極上の嬌声を求め、没頭して攻め込む


「んっ・・・んん・・・っ・・・ああっっ」
「鼓動が・・・速いよ」

「はうっ・・・・・・っ・・・痛い・・・」
「強くし過ぎたか・・・?」

「違うの・・・どうしてだろう、さっきからこの胸がずっと痛い
優しくされると、辛くて・・・」


「うさぎ・・・」
「抱き締めて、温もりまで分けてくれて・・・
デマンドは、どうしてそこまでしてくれるの?」

「それを今更・・・・・・聞くか?」

 愛撫の手を止め、身体を起こし様子を伺った
 真摯な瞳が答えを待ち望み、こちらをじっと見詰めている

「・・・うん」

「わたしの心が知りたいと?」
「知りたいよ、」


「おまえが、果てしなく愛おしい・・・
この想いが止め処無く溢れ、もうどうにも止められないのだ
それ以外に、どんな理由があると言う」
「デマンド・・・」

 真に迫る告白、それを聞かされおまえは何を思うのか
 目立つ態度では教えてくれなかった
 それで良い・・・わたしにとって、目の前の今が唯一つの真実だ

 うさぎが、わたしの腕の中に居る
 それ以上何を望むと言うのだろう

「これ程までに愛した者はいない
わたしが出来る事など限られているが
こうして寄り添い、身体を温めてやる事が出来るだけで・・・」

「デマンド、すごくあったかいよ・・・
見詰め合っていると心の中まで照らされていくみたい
あたしはそれだけでいい、充分なの
今一番欲しかったモノ、貰えて嬉しかった」


「・・・愛している、」
「もっと聞かせてデマンドの気持ち・・・深く、強く抱き締めて」

 小さな身体が胸元へすがり抱擁をねだる
 その愛らしい仕草に一層熱い想いが込み上げた
 出来得る限りの力で受け止め慈しむ
 わたしの後ろへも力が返され、互いに温もりを貪り合った

 思考が・・・一切働かない
 もう彼女以外何も感じられない、考えられない
 胸の内側全てが満たされ、果てしなく深く侵食されていく

「愛している、うさぎ
おまえの為ならこの体温など・・・全て与えてしまっても良い」
「じゃあ、全部頂戴・・・貴方はあたしが温めてあげるわ」

 彼女の指先が肌を弄り髪を撫でる
 その心地良さに集中し、一心に締め上げた

 これだけでは到底足りない・・・情熱が燻りもどかしさが募るばかりだ
 唇を手繰り寄せ、全てを奪う強さで息を封じ込める
 僅かな隙間すら与えず、舌先で痺れる感覚を味わい続けた

「・・・ん・・・っっ」
「んっ・・・んん・・・っ・・・ぷはあっ・・・デマ・・・ンド・・・っ」

「うさぎ・・・」
「あたし、もう分からない・・・いっぱいいっぱいで
何をしないといけないのか、何処に行けばいいのか

全然、考えられないよ・・・っ」
「いつまでも此処にいれば良い
何も考えず、温もりを感じ合いまどろんでいよう」

「ずっと、こうしていてくれるの?」
「ああ、おまえの望むように」

「・・・離さないで
あたしを、独りにしないで」
「独りになどさせない、今までもうさぎの傍に居ただろう
だから、安心してお休み」


「ふ・・・ええっっ」

 腕の中の身体が震え、再び咽び出す
 その頭を優しく、あやすように撫でて慰めた

 すする息を逃がしながら何度も唇を交わし、実感させる
 確かに今、おまえは此処に居るのだと

 彼女は今漠然とした恐怖に恐れつつも
 自分の内で弱さと向き合い、足掻いて立ち上がろうとしている
 脆さの中にも輝く、凛とした姿
 そんなおまえだからこそ美しい

 うさぎ、こうしてほんの一時でもおまえを捕えておけるのなら
 わたしはもう思い残すことは無いよ

 閉じたその瞼に唇を落とし、最後の涙を拭った