「ねえ、ルナ
本当に火川神社に今から行くの?」

 小さい先導に導かれ
 夜の仙台坂をひたすらに進む


「・・・ええ」

「もう夜も遅いのに、明日じゃダメなの?」

「みんな集まっているのよ
ずっと前からね」

 後ろも向かずに声だけが答えた

 ずっと前から?
 何かあったのかな・・・

 通信機を置いて出掛けちゃったから
 一日中あたしと誰も連絡取れなかった訳だし
 これは・・・怒られるかもしれない
 少し気構えつつ付いて行く


 やがて目的地に到着し、境内に入ると
 みんな勢揃いであたしを待ち構えていた
 一斉に体をこっちへ向けて姿勢が止まる

 亜美ちゃんも
 レイちゃんもまこちゃんも美奈子ちゃんも
 みんな、すごく真剣な顔つきだ
 暗くてはっきりとは見えないけど何となく分かる
 いつもとは違う重々しい雰囲気に
 今にも呑み込まれてしまいそう・・・

 そんな様子をガラッと変えようと
 わざと明るめに声を掛けた

「ごっめーん!お待たせっ
遅くなっちゃった、あはははっ」


「・・・・・・」

「あたしが最後、だよね?
相変わらずの遅刻魔でみんな呆れちゃったかな

うさぎちゃん、反省!」

「・・・・・・」
「・・・・・・」


「もしかして、・・・結構怒ってる?」

 顔色を伺いながら恐る恐る聞いてみる
 それでも、誰からも反応が返ってこない

 手応えの無い会話ばかりが続き
 じわじわと気まずい空気が浸透してきた
 そんな状況を、一人の声が打ち破る


「うさぎちゃん、」

「え、なあに?美奈子ちゃん」

「どうして今まで音信不通だったの?」

「あ、あたし今日はちょこっとお出かけしてたんだけど
通信機をうっかり置いて家を出ちゃってたの
ごめんね?」


「・・・本当に、忘れただけ?」

「え、そう・・・だけど」


「そう・・・」

 何かを含んだような曖昧な返事
 明らかにあたしの答えに納得していない
 だからって、本当の事は到底言えないよ
 わざと持っていかなかったなんて話したら
 それこそ何を言われるか・・・

 不利な状況を乗り切ろうと話題を変えてみる

「えっと、どうしたの?
何かあった?」

「そうね、大変な事があったわ」

「それって・・・あたしだけまだ知らない感じだよね
教えて?」



「して、ないのね」

「え?」

「指輪よ、まもるさんから貰った
いつもはしているのに」

 こっちの返答には答えず質問を返された

 指輪、してないって
 今日はデマンドと一緒だったから
 外して行かざるを得なかった訳で・・・
 家に着いたらすぐルナに呼び止められて
 部屋に戻る時間も無かったから取りには戻れなかった

 こんな小さい変化に気付くなんて
 美奈子ちゃん、目ざとい・・・
 さっきからずっと
 その指を責めるように見つめられている
 決まりが悪くて左手を覆い隠した

「あっ、これ?
指輪は家に置いてきちゃったの
大事な物だからさ、無くすと大変だし」


「そんな言い方・・・うさぎちゃんらしくない」

「美奈子・・ちゃん?」

「いつも、学校でも肌身離さずつけているのに
どうしてそんな風に言い訳するの?

それも・・・今日に限って」

「今日に限ってって・・・
別に深い意味はないよ?
やだなあ、変な事気にするんだからっ」



「ねえ、うさぎちゃん」

「なあに?」


「あたし達に何か
隠している事、無い?」

「・・・え・・と・・・・・」

 真面目な面持ちで
 あたしに何かの真相を問いかける

 どうして・・・
 何でいきなり隠し事なんて聞いてくるの?
 今までこんな風に言われた事、一度も無かったのに
 あたし何か怪しまれる事したのかな

 隠し事は、確かにある
 数え切れないくらいの秘密をみんなにしているもの
 それは仲間内ではあってはならない事だけど
 今まで、どうしても話せなかった
 もしかして
 今が打ち明ける時なのかもしれない・・・


 揺らぐ心臓が、急激に鼓動を強める
 それに合わせて速くなっていく呼吸をぐっと堪え
 外に出さないよう浅く吐き続けた


「あの・・・・・みんな」

「・・・・・・」

 動揺で声が上ずっている
 じわじわと額から嫌な汗が滲んできた・・・
 湿った手の平を握っていると
 自分がかなり戸惑っているのが手に取るように分かる

 みんなに全て打ち明けないと、なのに・・・
 どうしても言葉が出てこない
 少しの勇気を大きな罪悪感が包み込んでいく

 ・・・言えない、言えないよ
 何て説明すればいいかも分からないし
 時間をかけて溜めてしまった秘密の量が余りに大き過ぎて
 軽く告白なんて出来る訳が無いんだ

 どうしよう、このまま黙っていたら怪しまれる
 何か話さないと


「何も、 ないよ・・・?」

 震える声で精一杯の言い訳をした
 無理をして作った笑顔を
 みんなが不審そうに眺めている


「今日は、どこに言ってたの?」

「え、・・・ちょっと近くまでお買い物に
ショッピングがどうしてもしたくて
最近色々大変だったから、気分転換したかったの」


「一人でかい?」

「う、うん・・・」

「どうしてあたし達に言わなかったの?
ショッピングくらいいくらでも付き合ったわよ」

「だって、突然決めた事だったし
せっかくの休みなのに
みんなを付き合わせるのは悪いなって」


「うさぎちゃん、あなたは敵に狙われているのよ
単独行動は危険だってあれだけ言ったのに」

「ごめんなさい・・・」

「通信機も忘れるなんて・・・
連絡が取れなくて、みんなどれだけ心配したか」

「本当に、ごめんっっ
あたしちょっと自覚が足りなかったよ

謝るからもう許して、・・・ね?」



「やめて・・・」

「え?」

「もう、そんな言い訳・・・聞きたくない」

 俯いている向かいの美奈子ちゃんの肩が震えている
 そんなに怒っているの・・・?
 ゆっくりと上げた顔を見て
 それは間違いだと気付いた

 やり切れない、悔しそうな瞳
 今にも泣き出しそうな勢いでこっちを見つめ
 あたしを睨んではひたすら責め続ける


「できたら
うさぎちゃんの口から真実を聞きたかったわ」

「真実・・・って」

「最後の最後まで、信じていたかったのに・・・」

「そんな・・・ねえ、どうしたの
あたし、何かした?」


「知っているのよ、みんな
あたし見かけたの

今日、うさぎちゃんを」

「!?」

 見かけたって
 それはつまり、そういう事・・・よね?
 彼と一緒にいた所を、美奈子ちゃんに見られてた

 そうなのね・・・
 だからさっきからこんな風に問いただされているんだ
 戦いの真っ只中なのに緊張感も無く遊びにいってしまって
 それも、誰にも言わないで二人きりで
 一人だったなんて嘘までついて・・・

 自分の立たされている状況をようやく把握した
 これは、怒られても仕方が無い
 責める言葉を正面から受け入れようと
 覚悟を決めて前を向く


「だから、隣に誰がいたのかも見ていたわ」

「それは・・・」


「一日、会長と一緒だったんでしょ?」


「・・・うん」

 誤魔化しようが無くて頷いた
 これから、どう取り繕えばいいんだろう
 とにかく謝ろう
 それで、何でもないんだって弁解しないと


「ごめん、黙っていた事は謝るわ
でも本当に何でもないのよ?
言い辛くて言えなかっただけで・・・」

「どうして言い辛かったの?」

「だって・・・っ・・ほら、
美奈子ちゃん、先輩のこと気に入ってたし
こんな事言ったら抜け駆けだ!って
怒られちゃうかな、なんてね?」


「・・・・・・」

「あのねっ
あたしがちょこっと気分転換したくて
付き合って貰っただけなの
だから何もやましい事は・・・」

「気分転換したくて、どうして彼を選んだの」

「選んだんじゃなくてさ

・・・成り行きで偶然だったのよ、ただそれだけ
気分転換できるなら誰でも良かったから」

「そんなの違う
会長とだから、行ったんでしょ?」

「そんな事・・・っ
どうして、分かるのよ」

 上塗りしていく言い訳が
 いつの間にか意地に変わっていた
 そんな言い合いの平行線に横から干渉が入る


「あのね、うさぎちゃん」

「何・・・?亜美ちゃん」

「あたし達、もう全部知ってるの」


「全部って・・・?」

「今日の事もそうだけど
それ以外の事も、全てね
昼休みどこかへいなくなってしまうのも
家への帰りが遅いのも

みんな、会長に会いに行ってるからでしょ?」


「え・・・っっ」

 予想もしていなかった問いかけに
 一瞬思考が停止した

 血の気が一気に引いていき、目の前が真っ暗になる
 ふらつく足を何とか保って霞んでいくみんなを眺めた


 全部知ってるって
 それは今日だけの事じゃなく
 今までの行動全てって事・・・なの?

 昼休みの事も放課後の事も、とっくに知れ渡っていた
 どうしてそこまでバレているの・・・
 ずっと気付いていたのに言わなかっただけなのかしら
 あたしは、そうとも知らずに今まで彼と?

 ・・・違う、みんなはそんな事絶対にしない
 きっと今日の事が知れて
 それでどうしたのかって相談したんだろう

 そうか、だからココに早急に呼ばれたんだ
 みんな早くあたしの口から真実が聞きたかった
 なのに、あたしったら・・・


「やっぱり、そうなのね」

「ごめん・・なさいっ
ずっと隠してて、こんな風になるまで言えなくて・・・
でも、言えなかったのには理由があるの

あの人ね、実は」



「プリンス・デマンド、
・・・なんでしょ?」

「・・・っっ」

 そこまで、もう・・・
 図星をつかれたこの顔を
 みんな呆れた様子で眺めている


 あたしってば最低だ
 ずっと、自分の事しか考えていなかった

 自分から話さなければいけなかったのに
 何一つ打ち明けられなかった
 辛いこと全部みんなに押し付けて
 一人だけ逃げようとしていたなんて・・・


「ごめん、本当にごめんなさい・・っ」

 いくら謝っても足りない
 それでも謝ることしか今は出来ない
 信頼を回復する事は難しくても、努力だけはしようと
 何度も同じ言葉を呟いた


「うさぎ、あんた
自分が何をしているか分かってるの?」

「レイちゃん・・・」

「彼がどう言う人なのか、忘れたなんて言わせないわ
敵だった人と、どうしてこんな事をっ」

「・・・っ待って!違うのっ
確かにあの人は、30世紀の世界では敵だったわ
でも、この時代ではまだ何の力も無い普通の人なのよ」

「だからって、こんな事続けていいと思ってた?
続けられると、本当に思っていたの?!」

「それは・・・っ」

 ずっと続けられるなんて、自分でも思ってなかった
 だから言えなかったんだ
 終わりがあると知っていたから
 少しでも長く二人の時間が欲しかった・・・

 そんな
 言い訳にしか聞こえない理屈をぐっと呑み込む



「いつから、こんな風にしていたんだい?」

「高校に入ってすぐくらいから・・・
偶然学校の中で顔を合わせて、それ以来

始めは知らなかったの、あの人だって
しばらくしてから本人に打ち明けられて」


「彼自身は、30世紀の事を覚えているのね?」

「うん・・・」

「記憶を未来の世界からそのまま引き継いでいる
それなら、この時代の人間ではなく
未来から来た人物・・・つまり、
あたし達と戦った本人と言う事にならないかしら」

「自分は転生したって言ってたわ
そして今の自分には、まだ力は芽生えてないって」

「過去の世界に転生?どうしてさ」

「どうしてかは本人も分からないって・・・」


「時間軸を逆に移動して転生なんて
そんな事、可能なのかしら?」

「良からぬ企みをしている気がするな・・・
本当は未来からやって来たのに
その事実を隠しているだけなのかもしれないぜ」

「そんな・・・」

「何か目的があって
うさぎちゃんに近づいている可能性もあるわ
本人の言葉を鵜呑みにするのは危険よ」

「でも・・・っ
もしかしてそうかもしれない、けど
それでもあたしは信じたいの、あの人の事

彼が時折見せる寂しそうな横顔が
あたしには嘘に見えない・・・」


「うさぎちゃん・・・」

 目的も思惑も何も無いんだって
 ずっと彼に触れてきたあたしだから分かる
 どうしたらそれをみんなに伝えられるんだろう

 分かって貰えるまで説得するしかない
 あたしが、みんなを・・・


「思い出してみて
みんなも先輩と色々な事をしてきたでしょ」

「・・・・・・」

「前の、敵だった頃の彼とは違うって思わない?」


「実際の彼は確かに、前の人とは印象が違うわ
それに生い立ちを見る限り
この時代を生きてきたって言うのも事実かもしれない
なぜ未来の記憶が残っているのかは分からないけど・・・

でも、だからって
こんな事続けていて良いって理由にはならないのよ」

「それは、分かってる・・・」

「あなたを守りたいのに隠し事をされたら、困るわ
どうして今まで黙ってたの?」


「・・・・・・」

「きっと、会長が言ったんだろ?
あたし達には何も言うなって

あいつよくも・・・うさぎちゃんをたぶらかしてっ」

「ちがっ・・・違うの!」


「会長を責めてもしょうがないわ
例えそうだったとしてもね

・・・うさぎ、
フラフラしているあんたが、悪い」

「・・・っっ」

 ズバリときつい言葉で指摘された

 あたしが悪いって
 本当に、その通りだ・・・
 いくら二人でいたかったからって通信機を置いて出かけたり
 みんなに何も言わないで好き勝手ばかりして
 こんなの、戦士として失格だと言われても仕方ない


「戦いも大事な時だって言うのに
そんな風で、どうするつもりなの?」

「大事な時なのは分かっているつもりだった
だけど、戦士としての自覚は足りなかったわ
すごく反省してる」

「それで
どうするのよ、これから」


「これからどうするか・・・
あたしの話を、聞いて欲しい」


「・・・・・・」

 みんなの視線が無言のプレッシャーとなり
 こっちに突き刺さる
 それを迎え入れて決意の眼差しを向けた



「あたし
戦士としての戦いを今以上に頑張るわ
そして、デマンドとの事も大切にしたい
だから・・・

どっちも、諦めないよ」


「・・・どう言う事よ」

「あなた達一体どんな関係なの?
まさか、友達以上の・・・」

「それは違うのっ
デマンドの事
みんなと同じ位大切に想っているって事よ」


「愛情じゃなくて、友情・・って事かい?」

「そうだと思う・・・あたし、彼を
この世界で幸せに暮らさせてあげたいの

ずっと、願ってた
あんな風にあたしを庇って死んでしまった彼と
次もし巡り会えたら色々な事をしようって
その奇跡が叶ったのよ」


「それは奇跡なのかしら・・・
何かの陰謀だって、そうは思わなかったの?」

「思いもしなかったわ
だって、とにかく嬉しかったから・・・もう一度会えて
それで頭がいっぱいで何も考えられなかったの
今までずっと秘密にしていたのも
邪魔・・・されたくないって
ついそんな風に考えてしまって」

 罪を懺悔するつもりで
 不利になりそうな事実も暴露する

 もう、自分の中に隠し事は何もない
 すべて打ち明けて
 熱い気持ちを理解して貰おうと精一杯努力した


「こんな時間、ずっと続くとは思ってなかったけど
少しでも長くと思っていたら
どんどん言いそびれてしまったわ

・・・ごめんなさい」

「その気持ちは分からない事もないけど・・・
やっぱり早く話して欲しかったよ
だって仲間だろ?
今まで、何でも話してきたじゃないか」

「うん・・・」


「うさぎ・・・あんたそんなに
あの人の事を信じてるの?」

「彼、あたしをたくさん支えてくれたの
悩んでいる時も慰めてくれたり
あたしの力になりたいって言ってくれて・・・

それで、
気が付いたら大きな存在になっていた」


「・・・・・・」


「決して悪い人じゃないわ、だって
あたしを助けたいって言ってくれたのよ
でもその力が無いから・・・それが悔しいって
あの言葉は真実だと思う、とても嘘には聞こえなかった

ねえ、みんなも話してみて
そうすれば前とは変わったって分かる筈」

 半信半疑の瞳達に力強く訴えかける
 そんな切実さがじわじわと伝わり
 みんなの空気が少しずつ柔らかくなっていった


「あたしにとって戦いも、この問題も
比べられない位大切なの

だから、お願い・・・っ」


「うさぎちゃん・・・」







「甘いな、子猫ちゃんたち
そんな言い訳で彼女を許す気か」

「っ!?」

 出来上がりつつある雰囲気を壊すように
 背後から制止の声がかかる

 振り返るとそこには、月光を背負った二つの影
 その長い影法師で月明かりが陰った
 コツコツと靴音が響き、目の前で止まる


「はるかさん、
・・・みちるさん」


「彼は敵、今は力が目覚めていなくても
その事実は揺らがない
信用なんて・・してはいけないわ」

 抑え付けるような厳しい言い方で場を静まらせた

 どうして二人がこの事を知ってるの?
 ・・・そうか、もう全てが
 どこまでも知れ渡っているのね

 他人にも、自分にも容赦ない彼女達が
 あたしの醜態を嘲るように見下ろしている
 そんな非難する視線にも耐え、負けずに言い返した


「敵だなんて、言わないで
今までたくさんの人達と戦ってきたけど
本当に悪い人なんて一人もいなかったわ
それはみちるさんだって分かってる筈よ」

「どこまでも甘い子ね
その甘えが、毎回周囲を危険に晒しているのよ
いい加減気付いて頂戴」

「覚醒してない今だけだ、あいつが大人しいのは
未来の地球を侵略しようとする危険な存在に
情けをかけるんじゃない」

「デマンドは危険な存在じゃないよっ
確かにかつて、そうだった時もあった
だけど心を通い合わせたら、彼も変わったの
今のあの人だったらきっと
未来の世界を支配しようなんて思わないわ」


「そんなの、ただのあなたの理想でしょ?」

「何よ、それ・・・」

 冷酷な眼差しが
 ひたすらにあたしを蔑む


「だって、うさぎ
あなたはその目で見て来た筈よ
30世紀の世界が彼等によって
どんな姿になってしまったか」

「それは・・・っそうだけど、でもっっ

あたしは、今の彼を信じたいの
どうして信じたらいけないの?」

「明白な事実をつき付けても認められないのか?
現実を直視せず、感情で動こうとする
おだんごの悪い癖だな」

「くだらない感傷に
いつまで浸っているつもりなの?

早く目を、覚ましなさい」

「そんな・・・」

 有無言わさない迫力で意見をぶつけてきた
 強い意思に押されながらも何とか堪え
 ひたすらに二人を見つめ続ける


「はるかさんもみちるさんも、厳しいよ
そんなに強情だと見えるモノも見えなくならない?」

「だってわたし達は、使命を持つ戦士だもの
自分達の信念を貫き通す為に戦っているの
困るのよ、
プリンセスがそんな風に揺らいでいるままじゃ

余計な手間を、かけさせないで欲しいわ」


「手間・・・って」

「あなたが好き勝手に行動した後始末、
とでも言えば分かる?」


「まさか、
デマンドに何か・・・?!」

「まだ手は出していないさ
軽く、忠告をしてきただけだ」



「・・・彼に、何て言ったの」

「おだんごには近づくなと、
警告を無視するのなら身の保障はしないと付け加えてね
だからおだんごも、もう会うな
分かったな・・・?」

「・・・・・・」

 デマンドに、忠告をしてきたって・・・
 そんな事後報告を聞かされても
 到底納得できない

 胸の奥が、ゆっくりと発熱していく
 不服な態度を知らせようと、思い切り二人を睨んだ


「どうして、会ったらいけないの?」

「そこまで言わないと
本当に分からない?」

「分からないわ」


「彼に惑わされ、戦士としての誇りも捨て去り
そんな無様な姿をした人が
わたし達のプリンセスだなんて、思いたくないからよ」

「あたしは、何も変わっていない!
あなた達って、どうしていつもそうなの?
横から口を出して、見えない所で勝手に動く

・・・そうよ、星野の時だってそうだった
あれもこれも全部、駄目ってばかり

あたしの問題なのにっっ」

「これはもう、あなただけの問題じゃないの」


「ねえ、あたしってそんなに頼り無い?
どうしてみんなから引き離そうとするの?

どうして、そっとしておいてくれないのよ!!」


「おだんご、君はいつも
話せば分かり合える筈だと言うけど
いくらそうした所で両者の決定的な溝は
埋める事なんて出来ないのさ

あいつと
穏便な解決法を相談してやろうと思ったのに
全くお話にならなかったよ」

「どうせそうやって
一方的に押し付けただけでしょ?
そんなの話し合いじゃ無い!」

「わたし達には時間が無いの
今がどういう状況なのか、お分かり?

恋なんかに夢中になっている場合じゃないのよ」


「!?
何を、いきなりっ
ち、違うっっそんなんじゃ・・・っっ」

 いきなり突きつけられた言葉に責める姿勢が一瞬怯む
 すぐに全力で否定をしたけど
 慌てる態度が
 動揺をより強調しているようにしか見えなかった


「誤解よ・・・っ勘違いしないで!
これは、恋とかそういう事とは全然関係なくて

あたしは、お友達として彼を・・・っ」

「そこに、特別な感情は無い
そう言いたいの?」

「当然よ
だって、あたしにはまもちゃんがいるのよ?
変な勘繰りは止めてっ」

 ひたすら強い言葉をぶつけるけど
 しどろもどろな様子は変えられない
 そんなあたしを眺め
 みちるさんが小馬鹿にするように微笑んだ



「うさぎって
友達にキスをするのね?」


「・・・・・・え、」

「それも見せ付けるように、あんな公衆の面前で」


「見て、いたの・・・?」



「キスって、どういう事?」

「あんた・・・
そんな事したの?」

 みんながざわめき出す
 決定的な証拠を突き止められて遂に反論の口が閉じた

 味方が一人もいない空間で周囲を取り囲まれ
 みんなの視線に全身を縛られて・・・一歩も動けない


「あまりの自堕落ぶりに失笑して
声も掛けられなかったよ
あれで友情とは、聞いて呆れるな」

「・・・っ」


「友人にキスなんて、どう言うつもりだい?
本命の彼が戻って来るまでの
単なる慰めのつもりかな」


「そんなんじゃ・・・ないわ」

「あなたって、
戦士としての責任感も自覚も無いのね
遊んでいる場合じゃ無いって
あと何回言えば分かるのかしら」

「遊んでいる訳じゃ、無い

あたしは本気で・・・」




「本気で、・・・会長が好きなの?」

「え・・・・・・?」

 三人の会話に別の声が混じった
 今までひたすら沈黙していた美奈子ちゃんが
 ゆっくりと顔を上げてあたしを凝視する


「うさぎちゃん
そんなに、彼の事が好きなの?」


「それは・・・
そんな、事はっっ」

「じゃあ、やっぱり遊びなの?
おふざけなの??」

「ふざけてなんていないもんっ」

「なら本気なのね?
そうなんでしょっっはっきりしてよ!!」


「美奈子ちゃん・・・っっ」

 激しい感情を全力でぶつけられた
 その様子に唖然としたまま立ち尽くす

 怒りを通り越して憎しみにすら見える眼差し
 こんなの・・いつもの美奈子ちゃんじゃない



「さっきから違うとか散々言っておいて・・・
何も違わないじゃない

見苦しい言い訳はもう止めてっ」


「・・・美奈子ちゃんまでそんな風に言うなんて

何よ、もしかしてヤキモチ?
狙っていた人とあたしが仲良くしていたから
ヤキモチ妬いてるんでしょっっ?」

「そうよ!ヤキモチ妬いてるわっ
嫉妬してるわよっっ!悪い?」

「悪く、なんて・・・っっ」


「自分でもこんなに嫉妬するなんて、驚きだわ!
それも、うさぎちゃんにじゃない


会長によ・・・っ!」

「えっっ」

 彼にって
 デマンドに、嫉妬を?

 それってどう言う事・・・



「どうして
あたし達に何も話してくれなかったの?

彼に悩みを相談していた?
それを、どうして言ってくれなかったのよ・・・」

「それは・・・だってっ」


「会長には何でも話せたの?
あたし達に・・・

あたしには、話さなかったくせにっっ」


「美奈子ちゃん・・・」

 激情が悔しさに変化してより厳しくあたしを責める
 そんな辛そうな彼女を見ているのはすごく辛い・・・

 胸が、張り裂けそう


「いつでも、何でも相談してきたのに
今回だけどうしてそんな風にしたの?
うさぎちゃんにとって
あたし達はどこまでも頼り無い存在だったのね・・・」

「それは違うわっ!
そんな事全然・・・っ」
「何が違うのよ!!
訳が分からない言い訳ばかりしないでっっ」

「・・・っごめん
何も気付けなくて、本当にごめんなさい
でも、頼り無いなんて思ってないわ

誰にも心配かけたくなくて
どうしても言えなかっただけなのよ」

「それで彼に頼ったっての?
そんなの酷い・・・っ

みんなこんなにうさぎちゃんが大好きなのよ
うさぎちゃんを心配してるのよ?
そうやって、何も言ってくれない方が辛いんだから

信用されてないのかって・・・
思いたくないのに思っちゃうの!!」

 悲痛な叫びが深く突き刺さる

 何も話してくれない方が辛い
 その気持ちはあたしにも良く分かる
 分かっている筈だったのに・・・

 あたし、何て事をしたんだろう
 ここまで追い詰めて気付きもしなかったなんて

 その震える肩に触れて慰めたい
 だけど、そんな事する資格はあたしには無いんだ
 何も出来ず彷徨う自分の右手をじっと見つめていたら
 横から亜美ちゃんが手を差し伸べ
 美奈子ちゃんを優しく宥めた


「落ち着いて、美奈子ちゃん」

「・・・くっ・・」



「・・・あの・・」

「うさぎ、今のこの状況ちゃんと分かってる?
こうなってもまだ、デマンドとの関係を続けるの?」


「レイちゃん・・・みんなも、
もうデマンドに会ったらいけないって、言うの?」

「・・・・・・」
「・・・・・・」


「なるべくだったら見守ってあげ続けたかったけど・・・
うさぎちゃん、あなたが思っている以上に
今の事態は深刻になっているのよ」

「深刻・・・・?」

 みんなが一斉に下を向く
 何かを言いたそうなのに口をつぐんだまま
 一気に空間が静まり返った


「事態は深刻だって
知らないのは、あなただけね」

「あたし・・・だけ」


「ここまで仲間の輪を乱しておいて
まだその態度を改める気はないのかい?」


「だって・・・っっ」

「戦士としての戦いも佳境に入り
敵もその力をどんどん増している

あなたの愛しい恋人のまもるさんだって
行方不明になったのにね」

「みちるさんっそれはっっ!!」

「待ってくださいっ」


「なあに?
あなた達が言い辛そうだから言ってあげたのよ」

「いきなり過ぎますっ
もっとタイミングを見て・・・っっ」


「・・・・・・・・・」

「うさぎ、ちゃん・・・?」



「・・・・・・今、
何て、言ったの?」

 何だろう・・・
 記憶が混乱していて正確に思い出せないけど
 今すごく大切な情報が耳に入ってきた気がする

 みちるさんが今、確か・・・


「まもちゃんが・・・

どうしたっ・・・て?」


「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

 みんな気まずそうにして誰もその続きを話してくれない
 視線を合わせてもすぐに逸らされた

 全身が
 どんどん冷えて固まっていく


「教えて・・・
まもちゃんが、どうしたって?


お願いだから誰か・・教えてっ」

「・・・っっ」


「まもちゃんが、何だって・・ねえっっ

黙ってないで教えてよっっ?!」



「今言った通りよ
彼は行方不明ですって」

「っっ!?
嘘っそんなの、信じない・・・っっ」


「本当さ
そんな大変な事も知らなかったなんて

おかしいな、恋人なんだろう・・・?」


「嘘・・・よ・・・っっ!」

 眩暈と共にその場へ膝を落とした
 いつの間にそんな、大変な事に・・・

 まもちゃんが、行方不明?
 行方不明って、いなくなったって・・事だよね
 同じ事ばかり頭を巡って
 思考が中々先に進んでくれない



「どうして・・・

・・・・・・いつから?」

「いつから、か
そこまで知らなかったとは・・本当に呆れ果てるお姫様だ

恋にうつつを抜かしていて、気がつかなかったんだろ?」


「始めからよ
留学なんて、そもそもしていないわ」

「留学・・・していない?」


「・・・留学先のアメリカの大学に、連絡してみたの
そしたら、まもるさんは来ていないって」


「そんな・・・そんなことって・・・・っっ」

 昨日今日の話じゃなくて、
 そんな、最初から行方不明だったの?
 もしかして
 空港で別れたあの後すぐに、こんな事に・・・

 彼の身に何があったって言うんだろう
 あたしは、どうして気が付かなかったの?
 留学してしまってもずっと
 まもちゃんの事を考えていようって思ってた
 そうして帰りを待とうって
 心に誓ったの

 だから手紙も毎日書いた
 寂しい夜は留守電の声を聞いて我慢もした
 貰った指輪も肌身離さず付けて・・・

 そこまで考えて薬指を眺める
 何も付いていない、寂しい左手
 これに違和感を感じなくなったのは
 一体いつからだった?


「そういえば・・・
手紙をたくさん書いて送ったのに

一通も、返事は来なかった」

「その時点で
どうして変だって、感じなかったの?」

「忙しいから、電話もあんまり出来ないし
手紙も出せないかもって・・・聞いてたから」


「単に、忘れていただけだろう?」

「ちがっっ」


「言い訳は不要、
恋人の緊急事態に気がつけなかったのは事実なの
それは、紛れも無いあなたの失態だわ」

「・・・っ」

 確かにそうだ、何も言い返せない
 音信不通なのに怪しみもしなかったなんて
 こんなの、恋人失格過ぎる

 あたし、最低だ・・・


「これで分かったでしょう
あなたの心は傾き始めている・・・
どんなに言い逃れようとしても、明らかにね」

「あたし・・・は」

 この心が傾き出している

 ・・・そうよ、あたしはそれに気付いていたわ
 同じ時を長く共有して、いつの間にか
 隣にデマンドがいるのが普通になっていた
 まもちゃんが行方不明だって
 気がつけないくらいにまでなっていたんだ


「ねえ、うさぎちゃん
あの人の事 好きなの?

まもるさんより・・・?」

「・・・・・・」


「本当に、それでいいの?」



「駄目、・・・なの?」

「あのね、こんなこと言いたくないんだけど・・・
良く考えて欲しいの
うさぎちゃん自身が後悔をしないように」

「後悔って・・・」


「もし、このままデマンドと一緒にいる道を選ぶと
不都合な事態が起きる
それに気付いた時には、もう遅いのよ」

「・・・一体、何が」

 固唾を呑んで次の言葉を待った



「遠い将来、まもるさんとうさぎちゃんが結ばれて
二人の間には
かけがえの無い存在が生まれる筈でしょ」


「・・・・・・ちびうさの事?」

「ええ、
そうならないとちびうさちゃんが生まれない
ずっとあの人と一緒にいたら
そんな可能性だって出てくるのよ」

「っっ!?」


「確かに、それは一理あるな・・・」

「そんなっ
じゃあ、あたし達の見てきた30世紀は
どうなってしまうの?!」

「道が分かれた時点で
違う未来が訪れるでしょうね・・・」


「うさぎ・・・それで本当に、いいの?」


「そんなの、そんなのって・・・・・・っ」

 あたしとまもちゃんが結ばれないと
 ちびうさが生まれない
 そんな事、考えもしなかった

 あたし、どこまで浅はかなんだろう
 どこまで愚かなんだろう



「未来を変えてまで彼を選ぶ気は無いようね
その程度の覚悟で悩んでいたの?

笑わせないで」


「・・・・・・・・・」

 言葉が・・出ない
 もう何も分からない

 何から考えればいいんだろう
 何を考えるべきなんだろう・・・

 一切の思考がストップしたまま
 脱力した全身が重力に逆らえず崩れ落ちた
 そうしてただひたすら
 焦点の合わない淀んだ眼差しで地面を凝視し続ける
 そんな時間を止める人は誰もいない
 どのくらいそうしていただろう・・・

 霞がかった頭の中に、凛と響く声が届いた




「立ち上がって、うさぎさん」

「そのままでは、何も解決しませんよ」


「・・・・?」

 ふらつきながらもゆっくりと振り返る
 あたしの後ろに、いつの間にかその二人が立っていた

 声の主の顔をまじまじと見上げる


「せつなさん・・・ほたるちゃん・・・」

 あたしの声に反応し
 にっこりと笑顔を向けてくれた



「セーラー戦士が全員揃うなんて
珍しいですね」


「どうして、あなた達まで」

「一体、何事だい・・・」

 みんなの戸惑う様子を見て
 柔らかい表情がすぐに真面目なそれに戻る



「世界に
変革の時が訪れようとしています」

「どう言う事?」


「時空の狭間に、歪みが生じました
非常に不安定な状態です
このままでは今ある『未来』と『現在』を
繋ぎ止めて置く事が出来なくなります」

「歪み・・・?
繋ぎ止めておけなくなると、どうなってしまうんですか?」


「未来への移動が、不可能になります」

「それはつまり
このままだと、未来が消えてしまうって・・事?」

「分かりません
ですが、その可能性も充分考えられます」

「どうしてそんな・・・っ
今、未来の世界では何が起こっているんですか?!」

「未来の世界の異変ではありません
だからわたしは此処へ来たのです」


「それってつまり・・・
原因は、この『現在』に?」

「ええ・・・」




「未来が、・・・消える?

止めて、いきなり何を・・・言い出すの?」

 放心状態だった頭にじわじわと血が巡っていく
 それにつれて思考回路が回復してきた
 みんなの会話を少しずつ把握し、考える

 勝手に進められていく話は
 到底すぐには納得できない事ばかりだった

 時空の狭間に歪み?
 未来がなくなる??

 そんな重過ぎる話を何で淡々と言える訳?
 冗談にしか聞こえない・・・


「さっきから、何を言ってるの?
未来が変わるとか、消えてしまうとか

冗談はもう、止めようよ・・・?」


「うさぎさん、落ち着いて
ゆっくりでいいから理解してください」

「落ち着いてなんか、いられないよっ

ねえ、せつなさん
30世紀には、ちびうさがいるんでしょ・・・?
みんなもいて、あたしはクインで

そうなんでしょっ?!」


「それを、貴方が望むのなら」

「何よそれ
そんな突き放した言い方しないでっ

セーラープルートは、時空を司る戦士なんでしょ?
何とかしてよっっ」

「わたしは、時空の扉を守るただの番人
時空を操る事は出来ません」

「そんな・・・事ってっっ」

 未来が消えてしまうかもしれない
 それを知っていて
 誰にも、どうする事も出来ないなんて・・・



「セーラームーン、」


「せつな・・・さん」

「貴方はかつて30世紀の未来を覗き
その一部を知ってしまった
それは本来タブーなのです

未来の記憶、それこそが時空の歪みの原因・・・」

「未来の・・・記憶」


「現在を生き、少しずつ未来へと近づいていく貴方達は
無意識に覗いてきた未来の記憶に従い
同じ道を歩もうとしています
その為に、覗いた未来と違う道を歩もうとすると
進む足が一瞬立ち止まってしまう
その迷いが歪みとなり、時空に影響を及ぼすのです」

「歪みって
あたし達が、作り出しているの・・・?」


「ええ、
それは現時点ではとても小さな亀裂かもしれませんが
少しずつ時空を歪め
未来の世界の脅威へと変化していく

それを止める術は・・・セーラームーン
貴方にあるのですよ」


「・・・・・・あたしに?」

 名指しされ、視線が一気に集中する
 呆然としたまま次の予言を待った


「貴方は今、人生の重要な岐路に立っています
進む道次第では未来も大きく変わっていく事でしょう」

「どういう・・・事よ」


「うさぎさん、あなたの決断が
世界全体の運命に大きく関わってくるんです」

「なっっなんでっ?!
どうしてそんな事になってるのっっ」



「貴方が、世界の未来を作るから」



「・・・え・・・・・・??」

 予想の範囲を大幅に超えた言葉に
 余白の無い思考がショートして再び停止する


 あたしが
 世界の未来を、作る?

 いきなり何を言い出すの
 訳が分からないよ


「ごめんなさい
言ってる意味が、よく・・・」

「セーラームーン、貴方は銀水晶を操れる唯一の存在
そしていずれ、その強大な力で
30世紀の世界を統べるクイーンへと変化する」


「クインに、なるから・・・
世界の未来も背負わないといけないの?」

「貴方の望む未来がそうならば
その覚悟をして貰わなければなりません

ここで迷っていては駄目なのです」


「そんなの、無理だよ・・・・
あたし・・ただの女の子、なのにっ
そんな事しないといけないなら
クインになんてならない・・・銀水晶もいらない

誰にでもあげるからっっ」

「逃げてはいけません、うさぎさん」

「・・・っっ
みんなして、あたし一人に全て押し付けて
それで逃げるななんてっっ酷いよ!」

「大切な存在を守りたいのなら
辛くても考え、決断するしかないんです」


「そんな・・そんなのって・・・・・っっ」

「どうか
選択を誤らないでください

何よりも、あなた自身の為に」


「あたし、自信の為に・・・・・」

 大切な存在を守りたいのなら・・・?

 そうよ
 あたしがクインにならないとちびうさが生まれない
 逃げてしまったら
 そんな未来が訪れるかもしれないんだ


 全身の震えが、止まらない

 あたしは
 なんて恐ろしい存在なんだろう

 あたしの決断で世界が変わる
 望まないだけで呆気なくちびうさの存在が消えてしまう
 選択を間違えば、それだけで・・・


「あたしは、どうしたらいいの
何を選べばいいの・・・?

知ってるんでしょ、せつなさんは」

「・・・・・・」


「ねえ、
お願いだから・・・教えてっっ」

「未来に関する事に、これ以上助言は出来ません
ここまで伝えたのもタブーギリギリなのですよ」


「じゃあ、あたし・・・どうすれば

誰でもいいから、教えてよ・・・・・・っ」



「プリンセスとしての自覚を持ちなさい
そうすれば、自ずと分かる筈」

「みちるさん・・・」

 蔑む眼差しを強め
 より冷酷な態度で見下ろされた


「遊んでいる場合じゃない
これで、やっと分かっただろ?」


「・・・・・・」

 四方から見えない糸で縛り付けられ
 もう、一歩も動けない
 拘束された体がどんどん固くなっていく

 そんな時、硬直して冷え切った肩に
 ふわっと柔らかい温もりが触れてきた

 ゆっくりと顔を上げて、その存在を見上げる


「美奈子・・・ちゃん・・・」

「あたし達を忘れないで
うさぎちゃんは独りじゃないのよ?」

「そうさ、うさぎちゃん一人に押し付ける気はないよ
どんな辛い道だって
みんなで歩いていけば何とかなるさ」

「色々考える事はあるけど
少しずつ解決していきましょう」

「まもるさんの行方だって探し出してみせるわよ
いつものあんただったら、そう言う筈でしょ?」

「みんな・・・」


「ねえうさぎちゃん、あたし達にとって
あなたは何よりも大切な存在なの
だから辛い事もすべてあたし達に教えて欲しい

どうか、みんなを信じて」



「・・・ありがとう」

 温かい笑顔にぽつりとそう呟いた

 みんな、心からあたしを心配してくれている
 そんな頼れる仲間がいてすごく嬉しい

 ・・・だけど、こうして
 みんなから背中を押されて思い知らされた


 あたしには立ち止まっている暇なんて
 一瞬も無いんだって
 もっと頑張らないといけないんだって・・・


 未来を背負った肩が
 よりずっしりと重く全身に圧し掛かっていく