「・・・疲れたな」

 午後の授業まで少しでも気だるい体を休めようと
 いつもの空間へ足を向けた

 階段に腰を下ろし壁に身を委ねると
 唐突にだるさが襲ってくる


 学園祭運営の疲れがまだ残っているのだろうか
 いや、この疲労感はそれだけでは無い
 単純に体だけの事では・・・



「・・・悩み過ぎだ」

 週末は散々だった
 少し思い返しただけでまだあれこれと考える事が浮かぶ

 懐かしかった
 久しぶりに感じた、あの戦いの渦中の緊迫感
 平凡な日常に舞い戻っても未だ余韻が離れない



 あの、未来の彼女と同じ瞳をした紅い皇女
 中々にしたたかで抜け目のない女だった

 彼女との会話が頭の中を駆け巡り
 耐えずこの心を揺さぶってくる


 銀河をかけた戦い、か・・・

 うさぎの過酷な使命
 それが今後激化していく
 止める事も助ける事もわたしには出来ない

 今回戦いを目の当たりにして分からされた
 いくら彼女を守りたい気持ちがあったとしても
 相応の力が無ければ結局は足手まといだ
 止めようにも同じ事・・・
 いずれにせよ、この手に力が必要なのだ


 己の掌を陽にかざして眺める


「戦いに加わらなければ、あいつを守ることは出来ない
その為の力が欲しいと願ってはならないのか」

 そうせずとも
 支える方法はある、と彼女は言った


 戯言を・・・
 彼女にオレの何が分かると言う?
 力の無い今の己に一体何が出来る
 自分独り
 蚊帳の外に追いやられているこの状況が腹立たしい
 星野も同じ戦いをしていると知ってしまって尚そう感じた


 うさぎの本心は良く理解しているつもりだ
 わたしを、過酷な目に遭わせたくはない
 自分の戦いに巻き込みたくない
 そう願っていると

 その厚情が
 どれだけわたしを蔑ろにしているかも知らずに・・・


 頑なに拒絶し、遠ざける
 そうしてこの想いはとり残されたままになるのだ




「力強い星の輝き、か」

 彼女の謎めいた微笑と共にその言葉がよぎる



『あなたにも感じたから

力強い、星の輝きを・・・』


 この身から
 戦士と同じ程の輝きを感じたと言うのだろうか
 力の戻らない今だからこそ、と『今』を強調された
 それは、わたしにもいずれ力が戻る
 という暗示か・・・?

 すべてを悟ったようなあの口ぶり
 語られた筋書きはどこまでが真実か
 それとも、何もかもデタラメなのか・・・

 だが、
 あの前を見据える瞳は真剣だった



 彼女のすべてを信じるわけではないが
 勿体付けられたあの言葉が気にかかる


 時が来れば、分かる・・・

 今はいくら考えても答えは出ない
 そう言う事なのだろう

 この思い悩む時間は無意味だと告げられても
 それでも考えてしまうのだ
 必要とされずとも
 うさぎに、してやれる事は何も無いのかと


「全く・・・

最近のわたしはあいつに振り回されてばかりだな」

 わたしの心は何人にも侵す事など出来ない
 その筈が、
 なぜあいつだけいつもいとも簡単に侵入して来れるのだ


 温かい光が眩しく照らし耐えずこの心を惑わす・・・

 わたしを脅かす唯一の存在
 それからほんのひと時でも開放されたいものだ



「やれやれ

この心は休まる暇も無い、か
大変だな・・・」

 このまま、今しばらく瞑想に耽ろう









「・・・うーーーん」

 さっきから
 もう何分こうしているんだろう

 屋上へ向かう階段の一歩手前で止まり
 上を眺めて立ち尽くしていた


 学祭であんな大変な事態に遭遇してしまったデマンドに
 大丈夫だったかって一言声を掛けようとやって来たのに
 いざここに立つと足が固まって前に出ない・・・

 怪我は無い?とか
 そんな軽い話題をすればいいんだから
 あんまり緊張しなくていいのよ



 ・・・あれ?

 あたしはどうしてこんなに緊張してるの?
 さっきから胸がドキドキし過ぎて苦しいくらい


 心配だから、様子を見に行く
 ただそれだけの事なのに・・・
 何でか分かんないけど、心配してるとか気になるとか
 そういう事を彼にはあんまり言えない


 それに・・・
 あの屋上での光景
 重なる二人の影が未だ胸の奥にしこりとして残っていて
 それを思い出すとモヤモヤしている感情が
 イライラに変化してしまう
 顔を合わせたら喧嘩腰になってしまいそう

 あたしったら、あの人にはどうしていつも
 こんなに意地を張っちゃうんだろう・・
 会わずに教室に戻ろうかな

 でも、このまま帰ったらそれはそれで
 悶々とした状態で午後の授業が始まり
 放課後までずっとそんな感情が付きまとうんだと
 簡単に想像がつく

 そっちの方がきついよ・・・


「どうしてこんなに
あの人に振り回されてんのよ」

 言葉にして気が付く
 あたしは、あの人に振り回されてるの?
 そう考えると忌々しくて尚更会いたくなくなった



「はあ・・・・・」

 自分が、どうしたいのか分からない
 分かんないけど・・・

 行かないと、きっと後悔する



「・・・・・・あーもうっっ
行けばいいんでしょっ行けば!

どうせこんなうつうつとしたままじゃあ
何も出来ないんだもんっ
文句の一つでも言ってすっきりして帰ってやるわよ!!」

 やっとのことで覚悟を決め
 何かに言い訳をぶつけつつ階段を上がった





「デマンド・・

・・・・・いるの?」

 いなかったら拍子抜けして余計悶々としそう
 今度、いつ会う機会が出来るんだろう
 明日?
 明日も会えなかったら・・・

 そんな行き過ぎた心配は
 その姿を見たら一瞬で掻き消えてしまった
 見上げた瞬間
 胸の奥がざわめき、平静を装う心が揺れ動く



「・・・・・・」

 いつもの場所に彼はいた
 階段の上の方で
 足を組み、壁にもたれて目を閉じている

 ・・・寝ているの?


 気配を消して
 一段ずつその距離を縮めていった
 微動だにしない顔をそっと覗いてみる

 穏やかな寝息が
 銀色に輝く前髪を揺らしてここまで届いた


 本当に寝ているみたい
 何だあ・・・緊張して損した

 ホッと一安心した心が好奇心を助け
 あたしの行動をより大胆にしていく
 近い距離のまましばらくじっと眺めてみる事にした

 いつもこの横顔には隙が無い
 だからこうして
 じっと観察できるのは結構貴重な機会かも



「意外に、まつげが長いのね
髪も悔しいくらいさらさらだし」

 ・・・不思議
 ずっと見つめていると、どこまでも惹き込まれていってしまう
 ここで、時が止まってもいいかもしれない

 操られた体が磁石のように引き付けられて
 吐息がかかりそうなくらい近づいた








「・・・・・・何だ」

「!?」

 突然目先の瞳が開く



「何を・・している」


「えっ・・・あ・・・ちょっと・・・っっ


・・・・・きゃっっっ!!」

 慌てふためき急に立ち上がったら
 バランスを崩して足を踏み外した

 下まで転げ落ち、ドスンと大きな尻餅をつく



「いったーーーい!!
あーんもうっっ何すんのよ!」


「騒がしいヤツだな・・・」

「誰のせいだと思ってんの!
いきなり目を開けてびっくりさせないでよっ

ほら見て!
玉の肌に傷が出来ちゃったじゃないっっ」


「勝手に騒いで転げ落ちて
それを人のせいにするな」

「何ですってー!」

 腕まくりをして怒るあたしを見て
 呆れた顔がため息を漏らした


「全く・・・」

 ゆっくりとした足取りで階段を下り
 目の前に手を差し伸べられる・・・
 少し戸惑いつつもそれを取った



「・・・ありがと」

「ああ・・・」

 あたしを起こすと
 すぐ横の壁にもたれて腕を組む


「起きてたのね
目を閉じてたから寝てるのかと思った」

「考え事をしていて、気が付かなかった」


「考え事・・・って?」




「・・・色々とな」

「ふーん・・・」

 含みを残されると気になっちゃうんだけど・・
 その先は言う気が無いみたい



「おまえはどうした
何か用か?」

「え・・・っ・・と・・

あ、ほらほらっ
学際の時色々あったでしょ?
それで怪我とかしてないかなって・・・」

「心配してくれたのか?」

「そっそんな事は・・・っ
・・・まあ、そうかもだけど

大丈夫、なの?」


「ああ、どこも怪我などしていない」

「そっか、
なら良かったけど・・・」

「・・・・・・」

 会話が途切れた
 何だかずっと気を取られていて
 あんまり話す気が無いみたい・・・

 遠い目で前を見てばかり
 そのまま
 こっちの視線を一切気にしない横顔を見つめ続けた
 あたしの事なんて、全然眼に入ってないのね


 もしかして
 あの人のことを考えてるの?
 嫌な可能性に気が付き、胸の傷が更に抉られる

 あの女の人と何を話していたのかとか
 あたしが立ち去った後どうなったのかとか
 気になる事はたくさんあるけど
 何も、聞けない
 聞きたくない
 聞くのが・・怖い


 こんな事ばかり考えていたらダメ・・・

 今の自分にはやらなければいけない事がたくさんある
 戦士としての戦いも深刻になってきていて
 別のことで心をいっぱいにしている余裕なんて無いのに






「ずっと、上の空だな」


「えっ・・・」

 囁く声にハッとして前を見た
 佇む横顔がいつの間にかこっちを向いている



「デマンドだって・・・
何だかぼんやりしてるわよ」


「・・・そうだな」

 そうだなって何よ
 やっぱり上の空だったんだ





「おまえ、


・・・学園祭の日の放課後」

「・・・っ!?」



「いや、
・・・何でも無い」

「ちょっと・・・っ
言いかけておいてやめないでよ!」


「気にするな」

「気になるわよっ」


「・・・・・・」

 まただんまりを決め込むし
 話してくれるのかって、一瞬期待したのに


 この人は
 あたしに何も言ってくれない
 あの人としていた話の内容どころか
 二人きりで屋上に居た事実すら隠して・・・

 話して貰えない事が、こんなに辛いなんて知らなかった


 まさか
 あたしが眠っていたから気付いていないと思ってるの?
 何も告げずに帰ったのに・・・それすら忘れてるみたい

 蔑ろにされた感じがしてムカムカしてきた・・・

 何か言いたそうに口篭ってさ
 最後まで言いなさいよっ意気地なし!

 べーーだ!!




「怒っているのか?」

「・・・そうですねっ」

 あたしの心のあかんべに気が付きましたか
 何にも分かってくれないその態度に
 むしゃくしゃしてますけど?



「嫌なら
ここへ来なければ良いだろう」


「・・・別にそんなんじゃない」

「ならば、なぜ睨んでいる
わたしが何かしたか?」


「だからっ


・・・してないもんっっ
したけど、してないもんっ」

「どちらだ」



「・・・言わない

何もしない人に、言ってなんかあげない!」

 捨て台詞を吐き、全力で視線を逸らした

 もうダメ・・・
 目が合わせられない
 心臓が握り潰されそうなくらい痛くて死んでしまいそう


 あたしは、どうしたんだろう
 ・・・どうしたいんだろう





「・・・うさぎ、」

「!!」

 唐突に
 後ろから肩を抱き寄せられた



「・・・どうした?」


「いっ・・いきなり何するのっっ

触らないでっ!」



「・・・・・・」

「あ・・っ

・・・ごめん」

 つい
 いつもの癖で逃げちゃった・・・



「わたしに
何をして欲しいと?」


「・・・言いたくない」

「おまえ、今日は特に機嫌が悪いな」

「そそそんな事
・・・・・ないもんっっ


あーんもうっ!!」

 頭を掻き毟って混乱している脳内を落ち着かせようとしても
 逆にどんどん深みにはまっていく
 このむしゃくしゃはどうしたら消えるの?



「はあ・・・

ぱーっと遊びたいなあ」

 そういえば
 最近みんなと会っても戦いの話ばかりで
 全然楽しい事してないよ

 大変な時期だから仕方ないけど・・・


「遠くに、遊びに行きたい
遠くなくてもいいから・・・
はしゃいだり楽しいことがしたいよ」


「・・・おまえは狙われているのだろう

敵側に正体もバレていて
出かけたいなど呑気な事を良く言えるな」

「何よっあたしは遊びにもいっちゃいけないわけ?
戦う戦士だって女の子だもんっ
おしゃれして気分転換くらいしないとやってらんないわ!」

「己が今どれほど大変な境遇に立っているのか
全く自覚していない
もう少し事の深刻さに気づけ」

「・・・ふんだっ」


「まあ、
仲間とつるんでいる限りは安心なのだろうがな・・・

行って来い」



「はあ?
今、何て??」

「だから、そんなにしたければすれば良いだろう
護衛の友人達とな
気が済むまで遊べば良い」


 ・・・むむむっ

 確かにそのつもりで話をしていたけど
 何だろう、この放り投げられた感じ
 適当な扱いされてるみたいで腑に落ちないんだけど

 会話を続けるほどにどんどん不満ばかり溜まっていく



「デマンドって・・・

日曜とか、休みの日は何してるの?」

「特には、何も」


「・・・今度の日曜も?」

「予定は無い」


「ふーん・・・」



「なぜ人の予定を聞く」

「さっきから

気分転換したいって言ってるじゃん」


「それで?」



「・・・あなた
もう少し乙女心を研究しないと
将来ひっどい男になるんだからねっ

あー、もう遅かったかしら?」


「おまえ、


構って欲しいのか?」

「・・・っ!」

 図星をつかれて心が怯んだ


「べっ別に
そこまで言ってないわよ

暇なのかなーってちょっと思っただけで・・・」


「・・・わたしのマンションへ来るか?」

「誰がっっっ

もう、あなたのマンションなんか絶対行かないって
決めたんだからねっ
敵のアジトよりもよっぽどの危険地帯よ!」

「そうか・・・」

「全くもうっ」



「・・・・・・」

「・・・・・・」

 それで終わり?
 どうしてこんなに話を膨らまさないのよこの人


「・・・それで、いいっての?
どうせどうでもいいんでしょっあたしの事なんて!」

「マンションへ来るかと誘ってやっただろう
それをおまえは断った

・・・どうしろと?」

「別にデマンドの家に限らなくてもいいじゃんっ
外とかさあ・・・
普段、お出かけとかしないの?」


「近場で買い物位する」

「そういう買い物じゃなくて
ショッピングとか映画とか・・・」

「しないな」



「・・・・・・」

「おまえ、先程から何が言いたい?」





「・・・どこか、行きたい

どこかに遊びに行きたいの!」


「行けば良い」

「だから・・・っ
あ・・・


あなたを遊びに誘ってんのよっっ
さっきからずーーーっと!!」

 ついに爆発した感情が言葉になって飛び出した
 特に表情を変えない向かいの人を恨めしそうに睨み
 バクバクする心臓を押さえて息を整える


「はあ・・・っ

もうっ
ここまで言う前に分かってよ!」





「始めから、素直に言えんのか」

「・・・気付いてて
とぼけてたのね」


「己の意思はきちんと言葉で伝えろ」

「何よっ
ワザとすっとぼけるなんて
そんな嫌がらせしなくてもいいじゃない!」

「そう簡単に甘やかすものか
付け上がるのが目に見えている」


「デマンドは
もっと人の気持ちとか考えて行動するといいわよ?
そのまま空気の読めない大人になったら苦労するんだからっ」




「・・・どう言うつもりだ」

「え?」


「突拍子も無い提案を唐突に・・

何を企んでいる」

「別に、何も企んでないわよ・・」



「・・・・・・」

「何を疑ってるのよ
どうしてそんな訝しげな視線を向けるわけ?」


「行きたい所でもあるのか?」

「別に、特には」


「何をする気だ」

「・・・何でしょうかねえ
デマンドとお出かけって、想像付かないや」



「・・・分からん」

「あたしも分かんないわよ!
ぜーんぜんわっかんない事ばかりなんだからねっっ」

 質問攻めされても、何も答えられない
 本当に分からないんだもん
 どうしてこんな事を言っているのか・・・


「目的も無く、外に出る意味があるのか?」

「人生無駄な時間を過ごすのも大事なのよ?
楽しい事はいーっぱいあるんだから

ちょっとでいいから
気晴らしに付き合ってよ・・・」



「・・・あまり騒がしい場所へは行きたく無い」

「だからっ
それがダメなんだって!
少しはお日様の下で光を浴びないと灰になるわよ?」

「アホか」

「・・・っ!


・・・分かりました、アホでいいです
それでいいから行くわよ
少しは慣れるように
デマンドを騒がしい場所に連れて行ってあげる」

「どうしても、外出を強要する気か?」



「あっ
・・・あたしと、出かけるの

そんなに嫌なの?」

「・・・・・・」

 目を細めてこっちを凝視したまま固まっている


 ・・・いつまで黙っている気?
 その間中
 ずっとドキドキしているこっちの身にもなって欲しい

 心臓が耐えているうちにさっさと返事してよ・・・



「やっぱり・・・・・ダメ?」








「11時」


「・・・え?」


「11時に、一の橋公園」

「デマンド・・・」

 たった一言だけ呟いて横を向いた
 それって・・・



「オッケーてこと?」

「・・・ああ」


「そっか、」

 良かった
 やっと貰えた答えに胸がほっとしている
 なるべく素っ気無く返してみたつもりだけど
 ・・・変じゃないよね?

 11時に、一の橋公園かあ


 ・・・・・あれ?
 同じ台詞を前にどこかで聞いたことがあるような



「あ、
ねえ、それってさ・・・

もしかして星野と二人で出かけた時の真似?」

 星野と遊びに行く約束をしていた時に
 そういえばこの人も後ろで聞いていたような記憶が・・・



「良く覚えていたな
万年赤点の鳥頭が」

「なっ!何よそれっっ
あたしを試したりして
誰とでも遊びに行くって言う皮肉?!」


「さあ、どうだろう」

「・・・!!
ふんだっ・・・
どうせ誰とでも遊びに行くうさぎちゃんだもんねっ

いい?寝坊厳禁よっ」

「遅刻常習魔が良く言うわ

待ち合わせ時間が過ぎたら帰るぞ
そのつもりでいろ」

「むっきーー!!
そんな気の短い男は一生もてないわよっ

女の子は支度に時間がかかるんだから
1時間は待ってあげる広い心を養いなさい!」









 長かったような短かったような
 よく分からない平日が過ぎ去り、明日はいよいよ日曜日

 前日の夜になり最大の悩みが襲ってきた


「どうしよう・・・
何着て行けばいいのかな」

 タンスの中をかき回し
 部屋いっぱいに服を並べてみた
 あれこれコーディネートを試行錯誤して早数時間
 早く寝ないと寝不足になっちゃうのに
 どうしても決まらない

 あんまりかわいすぎるのも釣り合わない気がする
 背伸びのしすぎもどうかと思うし・・・
 でも、身長差を考えればヒールは少し高くていいかも?


 釣り合う格好って・・・どんなの?
 デマンドは何を着て来るんだろう



「何だか大人っぽそうなイメージ・・・」

 手元にあった服を手に取ってみる
 これは、みんなで植物園に行った時着て行ったブラウス
 胸元のフリルがこどもっぽいかも

 いつも着ているお気に入りのジージャンは
 組み合わせの服がカジュアルすぎる
 ローファーになっちゃうし・・・
 やっぱりちょっとでも高いヒールの靴が履きたい


 そういえば・・・
 デマンド、あたしの戦う姿が好きとか言ってた
 戦闘服がいいってこと?

 変身していくのはさすがに変だけど
 ミニスカートならいくつか持ってる
 だけどそれって露骨過ぎるかなあ・・・


 これは、星野と出かけた時着て行ったジーパン
 スカートじゃないけどこれだって結構短いショートパンツだ

 今の季節にはちょこっと肌寒そうだけど・・・
 寄り添えば寒くないよね


「・・・ははは恥ずかしい事言わないでよっ

いやーーーっ」

 自分の中の妄想に負け
 ベッドにダイブして身悶える


 はっ・・・
 あたしったらさっきから何考えてるの?
 デートじゃないんだからそんなにはしゃぐ事ないのに
 そうそう、一緒に出かけるけど別にデートじゃないのよ



「でも・・・
傍から見たらこれって明らかにデートだよね

しかもあたしが誘った形になってるしっ」

 そう思ったら段々顔が熱くなってきた・・・
 あの人はどう思ったのかな
 そう思ってる、よね?

 色々と見透かしてほくそ笑んでいる顔が思い浮かぶ
 なんか嫌な感じ



「はあ・・・
それにしても
どうしてこんなに子どもっぽい服ばっかなのよう」

 自分のダサいセンスが恨めしくなってきた


 そうだっ!
 頭の中で電球が閃く


「こうなったら、

・・・変装ペンで変身しちゃう?
そしたら簡単に大人ぽくなれるし
あたしったらあったまいい!」



カチャ


「うさぎちゃん?

・・・って
どうしたのよっこの有様は
部屋の中ひっくり返して何してるの!」


「うふふふ・・・
いい所に来てくれました!


ねールナあ?」


「・・・その猫なで声は
良からぬ企みね」

「そんな事無いってばっ

あのね、
変装ペン、ちょこーっと貸して欲しいの」

「どうしたのよいきなり・・・
何に使うの?」

「別にいーじゃん!減るもんでもないし
ちょっと使うだけだから?」


「あのね、うさぎちゃん

あなた、今どれだけ大変な時期か分かっているの?
浮かれてる場合じゃないのよ」

「それは分かってるわよう・・・

明日だけでいいから、ね?」

「だめです」

「けちー!」


「明日、何かあるの?」

「えっ?あ、うん・・・
お出かけしようかなって」

「一人で?

どこに??」

「えーと・・・
・・・ショッピング?」


「こんな時にそんなのん気な・・・

あなたは狙われてるのよ!
自覚してる?」

「ちゃんと変身ブローチは持っていくもん・・・」

「もうっ
困った子ね」

「・・・・・・」

 こんな時だって、分かってる
 でも、・・・行きたい

 最近デマンドとはすれ違ってばかりで
 まだちゃんと仲直りも出来てないし


 そうよ、
 明日は仲直りに行くのよ
 目的も無く遊びに行くわけじゃない



「出来るといいな

・・・仲直り」

 なんだか気分が高揚して寝れそうにない

 約束をしてから今日まで
 変に意識しちゃって会いにも行けなかった
 久しぶりに会えると思うとそわそわして落ち着かないよ




「わだかまりが、無くなります様に」


 少しの不安と大きな期待に胸を膨らまし
 明日の準備の続きに戻った