「・・・ん・・」

 まだまどろんでいるうさぎを静かに下ろし
 壁へ寄りかけて立ち上がる

 すぐ横の重い扉を開くと
 ひんやりとした外気が中へ流れてきた
 屋上へ一歩踏み出し、先に出て行った彼女を軽く捜す


 少し離れた場所にそれは居た
 フェンス越しに景色を眺める後姿へゆっくりと近づく


「・・・・・・」


「火球皇女・・・」

 こちらの呼び声に反応し
 落ち着いた笑顔が振り向いた



「うさぎさんは、大丈夫ですか?」

「ああ、
よく寝ている」

「そうですか・・・

ここは、素敵な場所ですね」

「誰にも邪魔されず
ゆっくりと話が出来る場所は
ここしか思い浮かばなかったのでな」

「この星の
空と街が一望できるなんて・・・

頬を撫でる微風も、とても心地良い」

 瞳を閉じ
 大気を感じるように右手を空に伸ばす

 さらりとなびく艶やかな髪筋から
 金色の蝶が舞い上がり風に流され消えていった



「・・・・・・」

「あ・・・ごめんなさい

風の囁きに耳を傾けていたら
つい、時間が経つのを忘れてしまいました」

「いや・・・別に良い」



「いつも、
あの子達がお世話になっております」

 軽くこちらへ会釈し、にっこりと微笑む

 流石に
 上辺を繕った表情はお手の物だな・・・


「わたしは何もしていない
あいつらと同じ高校へ通っているだけだ」

「スターライツ・・・

地球では、スリーライツと言うのでしょうか
彼女達は
どのような学校生活を送っているのですか?」

「・・・3人共ごく普通の生徒だ、一見はな
他の者と同じさ」


「そうですか
少しはこの地で、平和なひと時を過ごせたのですね
良かった・・・

ありがとうございます」


「なぜ礼を言う?」

「貴方は
ここの学校を取り仕切っている方だと伺いました
皆が平穏に過ごせるのもそのおかげでしょう」


「別に
わたしのおかげでは無い」

「こんなにたくさんの人々で賑わう様子も
久しく見ていませんでした

盛況なお祭りだったようですね・・・」

「・・・皇女殿
わたしは、世間話をしに来たのでは無い

まわりくどい事は面倒だ
止めて貰おうか」


「・・・・・・」



「本題を聞こう・・・
用件は何だ

『部外者』と何を話す?」

 手っ取り早く話を切り出した

 こちらの機嫌の悪そうな様子を察した瞳が
 柔らかく笑む


「ごめんなさい
あの子達が、色々と無礼な事をしてしまったみたいですね」


「・・・・・・
君に謝られてもどうしようも無いさ」

「いいえ、彼女達の失態はわたしの責任・・・
どうか許してください

スターライツ達も、必死だったのです
星を追われたわたしを見つける為に
そして
自分達の星を取り戻す為に」


「君達はどうして此処へ来た?

数ある星の中から
地球を選んで降り立ったのは、なぜだ」


「この銀河に
セーラー戦士の星の輝きがまだあったから

美しい、
幾多の眩い輝きが・・・」


 セーラー戦士の、星の輝き・・・

 それは
 うさぎとその仲間のセーラー戦士達の事か?


「セーラー戦士とやらは
それ程沢山存在していると言うのか・・・」

「その輝きは、この宇宙に浮かぶ星の数だけ居ります」

 穏やかな眼差しが
 ふっと視線を逸らし遠くを見つめた


「遥か昔から、セーラー戦士達は戦い続けて来たのです
銀河の邪悪の根源

『混沌』と」


「混沌・・・」

「それを
最強と呼ばれたセーラー戦士が倒し、封じ込めました

しかし、長い時を経て今
混沌は再び銀河に現れたのです
セーラーギャラクシアは
その最強と言われたセーラー戦士の成れの果て・・・

混沌を取り込み、強い負の力に支配された彼女は
いつぞやか、破滅の戦士と呼ばれるようになりました
星々を破壊し
セーラー戦士のスターシードをことごとく奪い
野心とパワーを持つ者達を自分の支配下に置いて
全銀河を再び混沌の渦へと呑み込もうとしているのです」

「随分と・・壮大な話だな」


「このままではすべての戦士が滅び
星々も死に絶えてしまう・・・
でも
わたし達にもまだ望みは残されている

全銀河、セーラー戦士の希望の光
シルバームーンクリスタル

それさえあれば・・・」


「火球皇女、

そんな、他所の星々の戦いの歴史など、
こちらには関わりが無い
それこそ部外者極まりない話だ

なぜ
わざわざそれをわたしに話そうと思った?」




「あなたにも感じたから

力強い、星の輝きを・・・」



「わたしにも・・だと?」


「ええ、」

 それはどう言う事だ・・・

 まさか、今のわたしにも
 何らかの力がこの体に秘められているのだろうか
 彼女はそれを感じ取ったのか?


 訝しげな視線を相手に向けるが
 その雰囲気を察知しつつも、話の続きを語り始めた


「この星は美しいですね
大地は緑に溢れ、生命エナジーが漲っている
わたし達の母星も
かつてはこのような、緑に満ちた美しい星でした

それが、ギャラクシアの手で・・・


・・・地球を
わたし達の星の二の舞にしたくはありません」

 毅然とした意志が真っ直ぐわたしを直視する

 先を見据える揺ぎ無い眼差し
 それには見覚えがあった



 似ている・・・未来の彼女と

 あれに比べれば物腰は柔らかいが
 内に秘めた気高いオーラは
 紛れも無い、あの女のそれと同じだ



「・・・・・・」


「いかがされましたか?」

「・・・っ

いや、何でも無い」

 好奇の視線でじっと眺めていたら
 ニコリと愛想笑いを向けられた



「・・・あいつら3人は
君を探し出す為に歌い続けて来たそうだな」

「ええ・・・
あの子達には申し訳ない事をしました
近くに居ても
その叫ぶ声をただ聞いている事しか出来なかった

今すぐにでも飛び出して戻ってあげたい
何度、そう思った事か・・・」


 彼女をどれだけ切望し、待ち侘びていたか
 その悲痛な願いは
 彼らの歌を聴いていれば良く分かる

 これが、スリーライツの
 ・・・星野の探していた女性か


 成程な
 彼女と対面して理解した

 あいつはこの慈愛に満ちた眼差しに焦がれ
 手に入らないもどかしさから
 知らぬ内にそれをうさぎに求めていただけなのだ
 うさぎ本人に惹かれていたのでは無い
 彼女を重ねて映していた
 それだけの事か・・・


 何とつまらぬ結末だ
 納得したと同時に少々拍子抜けしてしまった



「これまでのわたしの旅は
一言では言い尽くせない程に過酷なものでした
強大な力を前に太刀打ちすら出来ず、星を追われ
ただひたすら見えない光を探し続ける日々

でも、やっとそれが報われた・・・
わたし達は、ついに希望の光を見つけたのです」


「・・・・・・」

「セーラームーン、
あの、温かいシルバークリスタルの光
おそらく彼女がわたし達の切望していた
真のスターシードを持っている戦士
ギャラクシアに唯一対抗できる存在です

あの方ならば
きっと共に戦ってくれる事でしょう」




「うさぎならば、そうすると?」

 彼女の我意を通す主張を聞いていたら
 腹の底から怒りが少しずつ湧き上がって来た


「ええ」

「君は、先を見通す力でもあるのかな?

あいつの事を良く知りもせず
戦いに加わってくれるものだと決め付けて話を進めているが
うさぎがそれに乗ってくるかは
本人に聞かなければ分からないだろう」


「その包容力がどれ程のものか
先程のスターシードを見れば分かります

銀河を守る事はこの地球を守る事
その為には彼女の力が必要なのです
戦いを、恐れていては何も始まりません」

「勝手な事を・・・

おまえは、光を見つけて使命を果たしたと
達成感に浸っていればそれで良いだろうが
それを押し付けられた者はどう思うだろうな?

銀河を、守るだと?
一人の人間に背負わせるには重過ぎるとは思わないか
よくも軽々しく言えたものだ」

「・・・・・・」


「そうやって
誰もが彼女を戦いに奮い立たせる
すべての者を守る事を強要する
なぜ
己を犠牲にしてまで他人の為に戦わなければならない?
自己犠牲の精神など・・・くだらないっ

人には、限界と言うものがある
この手で守れる事は限られているのだ
だから、己の大切なものだけは何としても守りきる


その他の事など・・・知ったものか」




「あなたは、

あの方を心から愛しておられるのですね」


「愛する者を・・・
傷つくと分かっている戦いに行かせるものか

万人の平和よりも、うさぎの平穏の方がわたしには大切だ

例えそれで
明日地球が滅んでしまおうとな」

 オレだけだ
 うさぎの事だけを考えてやれるのは

 だと言うのに、なぜあいつはいつもこの手を払い除ける?
 自らすべてを背負い込み
 戦いの渦中へ立ち向かっていく・・・



「・・・わたしの想い人も
星を、わたしを守る為に参戦し・・敗れ
スターシードを奪われました
ですから
愛しい方を戦いに向かわせたくない気持ちは分かります

ですが
彼女こそがギャラクシアの求めていた存在なのです
そうである限り、どうしても狙われてしまう
逃げてばかりではいけません


彼女のスターシードを手に入れた方が、銀河を制する
それ程の力を秘めておられる方なのです」


「うさぎの、秘めた力・・・」

 それは、あの石の事なのか?


 白い月の一族の直系プリンセスセレニティ
 そして
 無限の力を秘めた銀水晶を操る唯一の継承者

 その威力がどれ程のものかは
 遥か未来のココを見た、オレだからこそ分かる



「彼女の秘めた力が魅力的なのは充分知っている
それを我が物にしようと
昔から数多くの者が戦いを挑んで来たようだ・・・」

「それ程の力を支配し、操る事は
並の人には難しい筈
あの方は相当に強い心の持ち主なのでしょう」



「あの恐ろしく巨大な力は
人の心では到底支えられないさ・・・

わたしも
かつて彼女の強さと対峙した事があった

確かにあれはどこまでも強い女だ
いつでも自分の信念を真っ直ぐに貫き、
正面からぶつかって来た
何事にもひたむきで、挫折と言う言葉を知らない
だからこそ、わたしは彼女を
これ以上辛い戦いには送りたくないと願うのだ

それは、・・・罪か?」


「・・・いいえ、決して

人を想う心の、何処を責める事が出来ましょう」


「彼女の力を最大限に引き出すのはその強く人を信じる心・・・
だが、それは諸刃の剣だ

あれはまだ、真の絶望を知らない
それを味わった瞬間どうなってしまうのか
わたしにも見当がつかない・・・

心の奥までズタズタに引き裂かれ
再び起き上がる事など不可能になるかもしれない
内から湧き上がる力を抑えきれず、押し潰されてしまうかもしれない
無鉄砲に突き進み、傷つく事はして欲しくないのだ

そう、思っているというのに・・・っ」



「・・・セーラー戦士とは、星々の生まれ変わり
そして、銀河創世の昔から
平和を脅かす者達と戦い続けてきたのです

それが、持って生まれた星の運命」

「星の運命・・・」


 セーラー戦士である限り戦い続ける
 現世でも、遥か未来までもそうであると

 平穏な時など未来永劫訪れない
 それがあいつの宿命だと言うのか・・・



「そのような言葉・・認めるものか!

過去も未来もすべて、己が決めていくものだ
定められた道筋など無い
運命ならばと、他の者が背負わせる事でも無い」

「彼女は『運命』に選ばれた訳ではありません
運命が人を選ぶのではなく
あの方がそれを引き寄せたのです

彼女自身がそうでありたいと願ったのだとしたら
それはもはや本人の御意志」

 熱くさせられた心に
 冷静な反応が戻って来る

 気にせずそれを睨み返した


「あいつが自ら選んだ道ならば
どんな過酷な戦いも立ち向かって行かねばならないと?」



「それが、あの方の決めた事ならば
貴方にも止める事は出来ません」

「・・・っ」

 知ってるさ・・・
 オレがいくら止めたとしても
 おそらく彼女は立ち向かって行くのだろう
 何度でも、例えその身が砕けてしまおうとも

 あいつを止める事など
 始めから誰にも出来ない・・・


「うさぎさんはおそらく
今回も怯まずに戦う事を選ぶでしょう
地球を、銀河を、仲間を、
すべての生き物達を守る為に・・・

それでも、彼女も人です
時には心が弱ってしまう時もある筈です
貴方の仰る通り
心も体も深い傷を負い、倒れてしまうかもしれません
でも、そうなった時に支えてくれる存在が
おそらく既にあの方には居られるのでしょう
共に戦う仲間達が、・・・そして

あなたは?違うのですか?」



「わたし・・・だと?」

「ええ、」


「あいつは・・・わたしには何も話さない
戦いの事は何もな・・」

「貴方が、とても大切なのですね」

「情けなど無用だ!
そんな物・・・っ

わたしが、どれだけ想っているか
あいつは分かっていない
分かろうともしない

この手にも、かつては内から漲る力が備わっていたと言うのに
今は・・・
あいつの手助けをする微力な力すら残されていないのだ
なんと歯がゆい事だろう・・・」

 今まで何度も考えてきた
 うさぎの為に何が出来るだろうと
 だが所詮、この手にかつてのような力が戻らぬ限り
 あいつを守る事は不可能だ

 無力な己が口惜しい・・・
 不甲斐無くて反吐が出る


 震える右手が、硬く拳を握った




「彼女を支える方法は何も
直接参戦する事だけが全てではありませんよ」


「何だと・・・?」



「・・・耳を、」

 微かな衣擦れの音がゆっくりと歩み寄る・・・
 その距離を限界まで縮め、こちらを見上げてきた


 一瞬、大気がざわめき立ち
 地面から降って湧いたつむじ風が両者を取り囲む
 長い髪が空に舞い、頬をくすぐってきた



 目前まで接近した真紅の瞳が横に逸れ
 耳元に近づく

 周囲に漂う甘い花の香りが体を包み込んだ





「・・・・・・・・」



「・・・・・どう・・言う事だ?」

 曖昧な言い回しをされ、その真意が分からない


「時が来れば、分かります」

「それはいつだ」



「・・・いずれ、」

「いずれとは、いつだと言う!
今教えろ・・・っ

・・・っ!」

 しなやかな指が言葉を止める


「今の貴方に言える事は、これだけです」



「・・・おまえは、
すべてを極めた神のつもりか?」

「いいえ、決して
神ならばわたしは今ここにおりません」

「神でなければ、何だ」


「では、

神の言葉を届けに参上した使者とでも」


「したたかな女だな・・・」

「お褒めの言葉と受け取らせて頂きます」

 得意の外面が尋問を押し切った

 秀麗な顔立ちを引き立たせる妖しい微笑に吸い寄せられ
 視線が縛られる




「・・・おまえと同じ瞳を持っている者を知っている
彼女も、とある星のプリンセスだが

どの星の姫もそうなのか」

「どうでしょう
他の方にお会いした事はございませんので何とも・・・

その方は
貴方の希望の光ですか?」


「ははっ・・・面白い事を言う

だとしたら、どうする?」

「光栄ですわ

そういえば、貴方からも
どことなく皇子の気品が漂って来るようです」

「さあ?
見ての通り今は一介の生徒会長だが
もしかしたら、前世がそうだったのかもしれないな」

「まあ、でしたらわたし達
その時にお会いしていたのかもしれませんね

こうしているひと時が初めてとは思えません
既視感すら覚えます」


「ならば、そうなのだろう」

「ふふふっ」

 謎めいた表情を崩し
 声を漏らして淑やかに笑む様子に、つられて頬が緩んだ






「冷えてきたな・・・

そろそろうさぎも目を覚ます
戻ろうか」


 彼女を中へ促し先に足を進める

 ・・・その背後から
 ぽつりと呟く声が届いた




「力の戻らない今だからこそ、出来る事が必ずあります

どうか、
それに気付いてください」


「・・・・・」

 気になる言葉に思わず振り返る


 夕日を背負い表情こそ分からないが
 皇女の顔に戻った彼女がこちらを凛とした眼差しで見つめている
 そんな気がした・・・




 薄暗い屋内へ戻ると
 うさぎが横になっていた場所へ目を向ける

「・・・うさぎ?」


 居ない・・・

 軽く周りを見回すが
 そこには人の気配すら残っていなかった


「先に、帰ったのか・・・?」












「・・・はあっ・・・はあっ」

 気がついたら夕日の差し込む放課後の廊下を
 やみくもに駆け回っていた

 まるで
 じわじわと忍び寄る夜から逃げるように・・・
 この心が何かを恐れ、逃れようと必死にもがいている

 切れる息を物ともせずにただひたすら走った


 早く、離れてしまおう

 一分でも一秒でも早く
 あの場所から・・・
 そこから離れられるのならどこでもいい


 あたしに、あれ以上何も見せないで・・っ





「・・・くっ・・はあ・・・っ」

 持久力が尽きた時点で周囲を確認してみる

 そこは、自分の教室の前だった
 片付けの済んだ馴染みの景色には誰の姿も見当たらない


 そこに逃げ込み壁にもたれると
 いきなりガクンと膝から体が落ちる

 気付かないうちに
 こんなに体力を吸い取られていたのね・・・




「とりあえず、落ち着こう・・・


・・・・・はあ・・っ・・」

 意識的にゆっくりと呼吸をしていたら
 心臓の鼓動が徐々に戻ってきた
 同時に、考えるゆとりが心に生まれてくる

 一体あたしは何をしていたんだろう・・・

 さっきまでのあの光景
 夕日に染まる二人の後姿



 目が覚めると
 そこはいつもデマンドと落ち合っているあの空間

 でも
 いつもは開いていない屋上への扉が開いていて
 何の気なしにそこから外を覗いてしまった


 二人の影が寄り添い
 重なり合って光に溶ける・・・

 その光景だけが何度も何度も頭の中を駆け巡る



 デマンド、笑ってた
 楽しそうな声がここまで届いて・・・

 それを見てしまった瞬間
 心が何かを察知する前に勝手に足が動いていた



「何だったの?・・あの感じ」

 いつものもやもやとしたなんて、曖昧な心中じゃない

 全身がずっしりと重くなり
 まるで鉛に変わった血液が体中を巡っているような気すらした
 美奈子ちゃんや他の皆と一緒に話していた時は
 こんな気持ち感じなかったのに

 あの人だから・・・?



「・・・怖い」

 得体の知れない恐怖に震える肩を抱きしめる
 消そうとしても
 心の中に醜い何かが湧き上がってきて
 それを、止める事が出来ない・・・


 知らなかった
 こんな激しい感情があたしの中にあったなんて
 すべての感情を押し潰し、ジリジリと心に闇が広がっていく

 焼きもちなんて生易しいものじゃないよ・・・
 これって




「嫉妬・・・しているの?」

 口から出たその単語にハッとした



 嫉妬・・・?

 この、どうしようもなく逃げ場の無いやりきれなさ
 あたし・・二人に嫉妬している・・・




「そう、なんだ


・・・そうなのね」

 言葉にしてみたら妙に納得した


 あたしが、嫉妬するなんて・・・




 かつて、そう感じた事も確かにあった

 ネオクインセレニティに憧れるあの人が
 あたしの中にそれを映して身代わりにしようとした時は
 悔しくて、未来の自分にすら嫉妬して・・・

 でもそれは所詮どこまでも『自分』であり
 あの人の心変わりに焦る気持ちは一切無かった


 今度は、違う

 あたしじゃない
 他の人なんだ・・・


「何を・・自惚れていたんだろう」

 デマンドはいつまでも
 あたしだけを見ていてくれるって、変な自信があった
 その他の可能性にすら気付いていなかった


 いつもそう・・・
 こうなってからやっと自分と向き合うの




「デマンド・・・」

 あなたの事を想うと
 胸が、すごく痛い
 この痛みはどうしたら消せるんだろう・・・


 消したいの?

 ・・・消していいの?






「消したく・・・ないよ」


 痛む心臓を抑えてその場にうずくまった

 芽生えたばかりの大切な気持ちが逃げないように
 しっかりと捕まえて、この胸に閉じ込める


 苦しいけど
 辛いほどに愛おしいこの気持ち

 どうか、消えないで