「さあ、
観念してスターシードを渡しなさい?」


「・・・っ」

 目の前に立ちはだかる敵が
 ジリジリと距離を縮めてくる

 どうしよう
 こんな無防備な姿の時に襲撃されるなんて・・・
 早く変身しないと
 このままじゃ何も出来ずにやられてしまう


 場所なんて、気にしていられない
 胸のコンパクトをつかんで声高に叫んだ



「ムーンエターナル・・・」
「変身なんて、

させるもんですかっっ」


「きゃあっ!!」

 レッドクロウの放った鞭が、手元へ見事に命中する

 振り落とされたコンパクトが
 向こうの茂みまで飛んでいった




「ふふふっ

・・・これで丸腰ね」


「くっ・・!」

 余裕の態度でにじり寄られ、後ろの木まで追いやられる
 もう、
 間合いを計る手立てが無くなってしまった・・・



「真のスターシードさえ手に入れば
ギャラクシア様もお喜びになる


セイレーンだって・・・報われるのよ!!

覚悟しなっっ」


「・・・っ!」








「待て!!」


「・・・?」




「・・・デマ・・ンド・・?」

 硬く閉じた目をそっと開けてみる

 敵との間に立ち塞がったデマンドが
 あたしを庇う様に両手を広げていた



「何してるのよ・・・

ねえ
危ないから、逃げてっ」


「うさぎ、

わたしが時間を稼ぐから
その隙にアレを取りに行け・・・」

 軽く後ろを向いて目配せをしてくる



「だめ・・・
そんな事、出来ないよ」


「いいから、行け!!」

「だって・・・!」




「くくっ

・・・おにいさん?
無謀な事は止めておいた方がいいわよ
ただの人間ふぜいが、あたしに敵うと思ってるの?」

「・・・・・・」





「止めろ!!


おだんごに、近づくな!」


「星野・・・」

 背後から飛んできた叫び声が
 その動きを制止させた


「それ以上は、オレが近づかせない!

どうしてもと言うのなら
オレが相手をしてやるぜ?」

「星野っっ」

「くだらない事は、止めなさい」



「ふんっ
・・・知ってるわよ、あんた達の事も
スリーライツとか言うアイドルやってるんですってね?

セーラー戦士の身で!!」

「!?」


「ははっ
どうやら、今更何も隠す必要は無いみたいだな・・・
バレているのなら
思いきり派手に戦ってやるぜ!

行くぞっ大気、夜天!!」


「全く・・・」

「仕方ないですね」




「・・・おだんご


『何が起きたって、あなたを守る』

そう、言っただろ」

「・・・っ」

 この前、ファイターに掛けられた言葉
 まさか・・・


 決意の眼差しをした3人が
 胸元から星型のそれを取り出す


「ファイタースターパワー」
「メイカースターパワー」
「ヒーラースターパワー」

「メイクアップ!!」


「・・・!!」

 強烈な閃きが彼らを包み込んだ
 その中心から現れたのは、戦いに身を委ねたセーラー戦士達

 凛としたオーラがこっちに向けられる



「夜の暗闇貫いて」

「自由の大気駆け抜ける」

「三つの聖なる流れ星

セーラースターライツ
ステージオン!!」




「さあ、
多勢に無勢でどう戦うつもり?」

 距離を保ちつつ
 3人がレッドクロウを取り囲んだ



「・・・ふっ

無理だね
誰にも、今のあたしは止められない」

 窮地に追い込まれた筈なのに
 その顔はどこか余裕を残して笑っている・・・


「強がりも、そこまでよ?」

「強がりですって?

あんた達
今のあたしがどれだけ戦いに奮い立っているか、分かる?


どの道もう、後が無いのよ!
真のスターシードを持ち帰らない以上はねっっ」


 ヒュン!と音が鳴り
 しなやかな鞭が空を伸びた
 まるで、生きているように動くそれは
 獲物を見つけ一直線に飛びかかる


 その先にいたのは・・・






「デマンド!!」

「!?」

 あっという間の出来事だった


 放たれた攻撃が目の前の人の首元に絡みつき
 その体ごと連れ攫う




「なっ!」

「・・・っ・・」

「止めなさいっ
何をするの!!」




「おにいさん、

ちょっと付き合って貰うわよ?」


「・・・く・・・う・・・っっ」

 小さな呻き声が聞こえてきた

 敵の下に引き寄せられたデマンドが
 必死に抗おうと動く度
 首に巻きついた鞭が皮膚にギリギリと食い込んでいく



「離してっっ
その人は、この戦いには関係ない人なのよ!」

「そう、それは不運だったわね?
そんな不幸で可哀想な一般人を助けたくば
あんたのスターシード、さっさと渡しな!」






「・・・分かったわ」

「!?
やめろっうさぎっ!!


早く行・・・・・くっ・・!」

 その言葉を
 締め付ける鞭の力が制止した


「人質は人質らしく
大人しくしていなさい?」

「・・っ・・・」


「だめっっ
その人を傷つけないで!!

お願いっ・・・」



「うさぎ・・・っ

・・・逃げろ、
わたしの事など、どうでも・・・っ」

 苦しい息の中で、必死に訴えかけてくる


「駄目だよ、
・・・これ以上、あなたを戦いに巻き込めない

セーラーレッドクロウっ
あたしのスターシードを取りなさい!


その代わり、その人を早く放してっ」

 キッと睨み
 目の前の敵にその決意を伝えた



「よしよし、いい子ね

そのまま大人しくしていれば
すぐにこいつは解放してあげるわ・・・」

「・・・・・・」



「セーラームーン!
だめよっっ
そこから早く離れて!!」


「待ちなさい、ファイター」

「・・・っ!

何するのっっ
早く助けないとあの子が!!」



「彼女が
もし本当に真のスターシードの持ち主ならば
それを確かめる必要があります・・・」

「真のスターシードの持ち主じゃなかったら
ファージにされてしまうのに・・・

それをみすみす眺めていろって言うの!?」


「ファージになったら、・・・それまでね」

「よくもそんな事っ

離して、・・・離してよ!!」


「いいのっっ

ファイターも、誰も
こっちに、・・・来ちゃ駄目よ」


「セーラームーン・・・」




「大丈夫
あたしは、ファージにはならない

きっと、大丈夫だから・・・」

 不安そうな顔をしているファイターに
 元気な笑顔を向けてあげる



「大した自信ね
さすが、とでも言うべきかしら

その度胸を敬して
遠慮なくやらせて頂くわ」


「・・・っ・・く」

「あんたはもう用済みよ、
ご苦労様」

 ドサッと
 デマンドを乱暴に突き飛ばし
 こっちに体を向けた




「・・・はあっ・・・はあ・・・っ」


「・・・・・・」

「ふふふ・・・
やっと、真のスターシードをこの手にできる

さあ、覚悟おし!!!」


「止めてーーーっ」




「はあああっっ!!」

「!?

・・・きゃあああっ」

 かざした両手のブレスレットから強烈な光が飛び出す
 それが一瞬で体を包み込んだ


「・・・うさぎっっ!」



「ああああ・・・っ!」

 何 これ・・・

 頭が、すごく熱い
 額にどんどん熱が集中していくのが分かる


 ・・・眩しい

 白い光が・・視界をゆっくりと覆っていく





「これが、真のスターシード」

「・・・・・・」

 身体が・・・動かない

 ぼやける意識の奥で
 周りの声が反響してこだまする



「何なの・・これ」

「すごいわ・・・」

「・・・・・・」


「華の・・
シルバークリスタル」

 何て美しいの・・

 この場にいた全員が
 ほんのひと時すべてを忘れ
 それに魅入ってしまっていた


「こんな輝き、見たこと無いわ
間違いない、これこそ捜し求めていた・・・

・・・ふふっ
これでギャラクシア様もきっと・・」




「なあるほど?

こういう事だったわけね」

「!?」 

 唐突に呼びかけて来た外部の声が
 閉鎖された世界を打ち破る



「セーラーティンにゃんこっ」

「はあい☆

レッドクロウったら一人でこんな事して、
抜け駆けは駄目よう?」



「・・・横取りは、許さないわ」

「横取り?
酷い言い方するのね うふふっ

協力して
一緒にギャラクシア様の所へ持ち帰ろうって言っているのに」


「あんたの言う事なんて、信用できないわよ!」



「そう、・・・それは残念
あなたとは
良いお友達になれると思ったのに」

 いきなり参戦してきたその敵が
 背負っていた銃のような武器を味方の方向へ差し出した


「な・・・何!

あんたまさか・・・っ」


「さようなら、レッドクロウさん」



「!!!

きゃああああっっ」


「!?」

 仲間の放った攻撃に
 レッドクロウが取り込まれていく・・・


「何よ、あれ」

「仲間割れのようね・・・」 




「ティン・・にゃんこ・・・っ


くっ・・・ああっっ」




カラン・・・


「・・・っ!」

「あらあら
ブレスレットが取れちゃった

これじゃあ、もう消滅するしかないわね?」



「・・・っ・・

セイレーン・・・



・・・ごめん」


「真のスターシードはあたしから
ギャラクシア様に届けておくから安心して?

・・・おやすみなさい」

「いやあああっっ・・・」



「酷い・・・」

 絶叫を残したまま
 彼女の体が塵になって消えた
 バサッと
 残された手帳が地面に落ちる


 それを無碍に踏みつけると
 体に付いている鈴がチリンと小さく響いた


「さあてと、
さっさと真のスターシードを頂いて帰るわよ」



「・・・んん・・」

 そのまま
 セーラームーンに近づいていく・・・


「ま・・・待ちなさっ

・・・っ!」

 その行く手を阻む影



「・・・・・・」

「・・・何よ、あんた」


「うさぎに
触れる事は許さない」

「ちょっと!
危ない事は止めなさいっっ」


「ふうん?面白い人間ね
そんなにこの子が大事なの?」




「ちびちび!」

「!?
ちびちびちゃんっ・・だめよっっ」

 走り寄ってきたちびちびも
 その隣に並んで手を広げる


「あらあら、かわいい護衛さん達ね?


・・・どきなさい!!」


「・・・・・・」

「だめっ!


だめーーっっ」



パアアアア


「!?」

 その瞬間
 小さな手の中の香炉がその声に共鳴し
 眩い輝きを放ち出した


「・・・っ

おまえ・・・」

「・・・・・・」


「何なのっっこの光は!
力が・・・抜けていく・・っ

っ・・・やばいわ
ここは、一時非難しないと・・・っっ
あんたたち、
覚えていなさいっ」

 捨て台詞を吐き、敵の姿が消える


 何が、起こっているの・・・?

 香炉からどんどん溢れ落ちる光の洪水
 すべてを包み込むような優しいエナジー
 とても、懐かしい

「これは、まさか・・・」



「・・・ん・・」

 あたし、どうしたんだろう
 柔らかい光に包まれたまま
 体がふわふわと・・・空に上がっていく

 温もりがすごく、心地良い・・・



「そんな・・・信じられないわ」

「でもこの波動、間違いない」


「プリンセス・・・

やっと、見つけた」



「プリン・・セス・・・?」


「・・・・・・」

 まどろむ意識の中、薄く目を開けると
 聖女のように微笑む女の人があたしを見下ろしていた

 この人達が、星野達の捜し求めていた女性・・?


 何て、綺麗なの
 心の中まで暖かい光に照らされて
 なんだか、すごく・・・・・眠い・・






「プリンセス、・・・だと?」

 白く輝く眩い光が落ち着くと
 うさぎを抱き上げる一人の女が姿を現した

 紅く、艶やかな長い髪
 前を見据える強い瞳
 周囲には金色の蝶が舞い
 甘い花の香りを振り撒いている

 この、誰をも惹き付けるオーラ・・・
 さすがはプリンセスと言う事だろうか


 うさぎのスターシードが戻ると輝きが消え
 ゆっくりと地面へ降りてきた



「うさぎ・・・
おい、大丈夫か?」

「・・・ん」


「気を、失っているだけです

スターシードも戻りましたし
じきに目を覚ます事でしょう」


「・・・・・・」

 こちらにうさぎを引き渡すと
 後ろに跪く3人の護衛に目を向ける



「火球皇女・・・
よく、ご無事でいらっしゃいました」

「わたし達
この時をどれ程待ち望んでいた事か・・・」


「スターライツ・・・
心配をかけた事、許してください
あなた方の事、香炉の中から見ておりました

ずっと、聞こえていましたよ
貴方達の歌も」

「プリンセス・・・」


「わたしを探すその歌声に
どれだけ励まされた事か・・・」



「ちびちび!」

「ちびちびちゃんっ

・・・ありがとう
ずっと、守ってくれて」


「プリンセス
今までずっと、その香炉の中に・・・?」

「ええ
あの、星の戦いで傷を負ったわたしは
ギャラクシアの魔の手から逃れ
この地球に辿り着きました

力尽きて倒れていた所を
ちびちびちゃんが助けてくれたのです」

「その子が・・・?」

「えへー!」


「そして
傷が癒えるまで、香炉とわたしを見守ってくれていた

おかげでギャラクシアに気付かれることも無く
こうしてあなた方と再会することが出来たのです


・・・ごめんなさい
ずっと、近くにいたのに何も出来なくて・・・」

「いいんですっ」

「貴方が
こうしてわたし達の元に戻って来られた

それだけで・・・もう、」


「さあ、戻りましょう
あたし達の星へ・・・」

「ヒーラー、
わたしがこの地球へ降りた理由は
傷を癒すだけでは無いのですよ?」


「プリンセス・・・」

「希望の光を見つけ出す事・・・
その使命も
果たさなければいけません」

「そんなもの、
必要ありません!

あなたさえご無事なら・・・
あたし達の星を取り戻すことなど容易いことです!」

「希望の光が見つからない限り
混沌を封じ込める事は出来ません
そうすれば、また同じ事を繰り返すだけ・・・

でも、ようやく
その光を探し出した気がします」




「・・・・・・」

 護衛に語りかけていた皇女が
 ふっとこちらを向いた


「セーラームーン、
彼女の力はきっとわたし達の

いえ・・・
全銀河の希望の光になる」




「会長・・・」

 かしずいていた体を起こし
 その女がこちらへ近づいて来る


「おまえは、星野か・・・」


「・・・驚かないのね」

「ああ
今更何が起ころうとな」



「あなた・・・

まさか、知ってるの?」


「うさぎが
セーラー戦士だと言う事をか?」

「!?
一体、どこまで知って・・・っ」


「前に言ったろう?

彼女とは、長い付き合いだと」



「あなたは・・・何者なの?」

「人に聞く前に、
まずは己の話からしたらどうだ?」




「・・・・・・」

「・・・・・・」


「おまえ等
うさぎの、今戦っている敵か?」

「敵ではないわ
でも、味方ってわけでもないのよ」

「共通の敵と戦っているの・・・」


「先程
なぜ、うさぎを助けなかった・・・」



「・・・ふふっ」

 こちらの憤りを察知した一人が
 小馬鹿にした笑いを向けた


「この星の人間じゃないし
助ける義務なんて、あたし達には無いもの」


「貴様・・・」

「なあに?喧嘩の続きでもする
何の力も無いくせに
その子を守ってやるとか、思っちゃってるわけ?」

「・・・っ」

 挑発する態度に乗らないよう
 ぐっと怒りを呑み込みそいつを睨む


「おお、怖い事っ」

「おやめなさい!ヒーラー

・・・ごめんなさい
彼女の無礼、わたしがお詫び致します」



「・・・プリンセスに頭を下げさせるとは
中々大した護衛だな」

「貴様・・・っっ」
「ヒーラー!!

これ以上、
プリンセスに恥をかかせるつもりですか?」

「・・・っっ」



「ご挨拶が遅れました

わたしはキンモク星の丹桂王国
第一皇女、火球と申します」

 スッと
 両手を前に組み淑やかに振舞うその姿は
 正に高貴なそれであった


「・・・先程から黙って聞いていれば
都合の良い事ばかりほざきおって・・・
うさぎを希望の光に仕立て上げ、助けを請うつもりのようだが

おまえも皇女ならば
人に頼らず自分の星は自分で守れ」

「おまえって・・・っ!
プリンセスに向かってその口の聞き方は何よ!」

「あたし達のプリンセスを侮辱するつもり?!」


「ファイター、ヒーラー、
落ち着きなさい!」

「プリンセス、この様な者とこれ以上
無意味な会話をする必要はございません

行きましょう・・・」



「いいえ、メイカー

もう少し
わたしの好きにさせて頂けますか?」


「・・・プリンセス?」

「お願いがあります
この方と、

しばし二人で話をさせて下さい」


「・・・!」

 後ろの3人に体を向け
 凛と響く声でその意思を伝える



「何を・・・
一体何を仰るのですっっプリンセス!」

「そうですっ
こんな奴と、二人きりなんて・・・
危険です!!」


「部外者に、何を話すおつもりですか・・・」



「大丈夫です
何も警戒する事はございません

それにこの方は
全くの部外者では無い様ですよ?」


「・・・・・・」

 紅く透き通る気丈な瞳が
 わたしをじっと注視し、微笑んだ


「お時間、よろしいですか?」



「・・・良いだろう」

 紅い皇女の企みに、乗ったつもりは無かった

 その、強い信念を持つ眼差しに
 単純に興味が湧いただけなのかもしれない



「ここでは落ち着いて話も出来ない

場所を変えよう」