体が・・・重い
 頭の中がぐちゃぐちゃだ


 今までの事、これからの事、
 悩む事はたくさんあるのに
 今は、何も考えたく無い・・・

 ただソファに横たわり
 ぼうっとしていると脳裏にあの光景が蘇る



「セーラー、ムーン・・・



・・・おだんご・・っ」


 こんな事ってあるか?
 ずっと、いつも傍にいたあいつが
 まさかセーラー戦士だったなんて

 オレ達と同じ、
 使命を持った星を守る戦士


 どうして、あいつなんだ
 すべて夢であったと思いたい・・・




「これからオレは・・・

どうしたら、いいんだよ」







カチャ・・・



「星野、」




「・・・大気」


「どうしたの?こんな暗い所で・・
起きてるなら電気くらい付けなって」

「ああ・・

もう夕方、か」

「ちょっと・・・しっかりしてよっ
ぼけっとしている場合じゃないでしょ!」



「星野、起きなさい」


「・・・・・」

 大気に少しきつい口調でたしなめられ
 渋々体を起こす




「月野さんが、セーラームーンだったと言う事実が
そんなに辛いですか?」


「・・・大気は、どうなんだよ

あいつらと親しくしていたのは
おまえ達だって同じだろ?」

「親しく?・・・ははっ
本当に、そう見えていたと?
物事を円滑に進める為ならば
外面くらいいくらでも繕いますよ

本気で彼女達と接していたのは星野くらいです」


「そうだよっ
どうして星野がそんな辛そうにしている訳?

あいつらがセーラー戦士だったって知った時は
そりゃあ驚きはしたけど
別に、誰が何であろうと僕達には関係ない事じゃない」



「関係・・・無いなんて言うなよっ」

「いいですか、
わたし達は高校生活を楽しんだり
友人を作る為にここへ来たのではありません

やるべき事は、分かっていますね?」



「プリンセスを、見つける事・・・
それがオレ達の使命

分かっているさ」

「結構
誰が邪魔をしようと
わたし達は自分の使命を全うすれば良いだけです」

「そういうこと
ぼくらの邪魔をする奴は
例え誰であろうと容赦しない・・・

大体、
あいつらのせいで何もかもおかしくなったんじゃないか!
こっちの足を引っ張ってばかりでさ


・・・あいつらさえいなければ
順調に、すべてが上手くいくはずだったのにっ」




「・・・そうでしょうか」

「え?」

「確かに
彼女達は戦士としてはまだ未熟です
それでも、ギャラクシアの手下程度となら互角に対峙して来れた
それと戦うのを彼女らに任せておけば
わたし達はプリンセス探しに専念できるのです


それに、
彼女たちが派手に動けば動くほど
ギャラクシアの目はわたし達から逸れる」

「なるほど・・・
そう考えるのなら利用価値はあるかも」


「いっそ、

セーラームーンとギャラクシア達との戦いが
もっと激しくなってくれれば・・・」


バンッ


 二人の企みをこれ以上聞いていられなくて
 テーブルを叩く音で制止した



「やめろよ!

あいつらだって
自分達の星を守る為に必死で戦っているんだ!
それを利用しようとするなんて・・・
恥ずかしいと思わないのかよっ」

「わたし達だって同じ立場ですよ

星野、
貴方も自分の星を守ることだけに
ただ必死になれば良いのです」

「だけどっっ」


「他の星の者達の事まで考えている余裕は
わたし達にはありません」

「ぼくらは、ぼくらの戦いと向き合う
例えそれで
他の誰が犠牲になろうとも・・・」


「いい加減、目を覚ましてください

わたし達のプリンセスを早く探し出さないと
取り返しのつかない事態にだって・・・」




「・・どうしてだよ
その、オレ達のプリンセスは

・・・あの方は
なぜ姿を現してくれないんだ」

 ずっと
 耐えてきたその想いが
 余裕の無くなった心の隙間から溢れて零れ落ちる



「星野・・・」

「街にはオレ達の歌が溢れているのに
なぜプリンセスには届かない?

いや
もしかしてとっくに届いているのかもしれない
なのに、プリンセスはなぜ姿を見せてくれない?」


「プリンセスに
本当に声が届いているのか
いたとして、なぜ姿を現して頂けないのか
真相はまだ分かりません

それでも
わたし達には探し続ける道しか無い
声が張り裂けようと
歌う事を止めてはいけないのです」

「ぼくだって待てないよ!
プリンセスに、早く会いたい・・・

だから
こうしてアイドルを続けているんじゃないかっ
しっかりしてよ、星野!」




「もう、嫌だ
こんな歯がゆい想いをし続けるのは


限界だ・・・」


「ちょっと・・・!
どこに行くの?」


「頭、・・・冷やしてくる」



バタンッ









「・・・くそっ」

 どこにも発散出来ない苛立ちが
 いっぱいに充満して頭の中を支配する

 冷静になんて、なれない
 大気はどうしてあんなに平然としていられるんだ?


 歌って、歌って歌い続けて
 こんなに必死になって探しても
 プリンセスは出て来てくれないのに・・

 オレ達の今している事は、意味のある事なのか?


 本当は 自分でも分かっているんだ
 二人の言うように
 あの方をずっと探し続けるしかオレ達に道は無いのだと

 他の事にかまけている暇なんて一切無いと言う事も・・・






「おだんご・・・」

 戦士として使命を果たす為には
 あいつにこれ以上近づいてはいけない
 こんな様子のオレを見て
 大気がそう感じるのも理解はする

 例えどんな事が起きようが
 使命も全うして、おまえの事も守りきると
 そう心に決めていたのに
 こうしていざ真実を突きつけられると
 惑う心に支配されて迷いが生じてくる


 オレはずっと
 自分はあいつにとって一番近い存在なんだと信じていたが
 それは勝手な思い込みだった

 あいつの事
 何も知らなかったんだ

 オレも、何も知らせていなかった



「ははっ

・・・聞いて呆れるな」

 誰よりも強く輝く星の光
 それに惹かれたのが
 おだんごに興味を持つきっかけだった

 今思えばそれすら
 彼女の、戦士としての秘めた力を
 ただ感じ取っていただけなのか・・・

 オレはずっと、無意識のうちにおだんごを
 セーラームーンと重ねて見ていたのかもしれない
 戦士としての彼女を求めていただけだったんだ



 でも
 本当にそれだけなのだとしたら
 この胸はなんでこんなに苦しいんだろう

 お互いの正体が分かった今この時も
 おだんごの事を考えると
 切なくて、もどかしくて
 どうしたらいいのか分からなくなる

 溢れ落ちるこの気持ちを止められないんだ



 おだんご、オレは・・・

 ・・・オレ達はこれからどうなる?



 色々隠していたオレの事、怒っているのか?
 だとしても、オレはおまえの事が・・・


「会いたい・・・」

 一目でもいいからおまえの顔が見たい
 話が、したい





 行く宛ても無くふらふらと街を彷徨っていたら
 見覚えのある場所に辿り着いた



「一の橋公園、か・・・」

 そのまま何かに導かれるように
 公園の奥まで足が進む
 そこにあった木の船の遊具に上がり、腰を下ろした

 誰もいない 静かな夕方の一時
 目を閉じて風を感じていると少し前の事を思い出す


 ここでおだんごと待ち合わせして、デートしたんだ
 そういえばあの時も
 途中で敵が現れて、あいつが消えてセーラームーンが・・・

 もしかしてオレは
 ずっとあいつにからかわれていたのか?


 もう、分からない
 おまえの考えている事も、オレ自身がどうしたいのかさえ・・・





「いっそこのまま
二度と、あいつとは会わないと

決めてしまえばすっきりするのかな」

 悩めば悩む程に
 どんどん深い迷宮の森に誘い込まれていく

 抜け出せす気力なんて・・・とっくに尽きた




 その時、ふっと
 頭上を何かが遮り、辺りに影が落ちる


「・・・?」

 ゆっくりと目を開け
 何気なく顔を上げた




「・・・ちびちび?」

 そこにいたのは、あの少女
 いつもと同じ無邪気な笑顔がじっとオレを覗き込む














プルルルッ

・・・カチャ



「・・・はい」


『もしもし・・夜天君?

あの
星野、今そこにいますか・・・?』



「あんた、・・・誰?」

『あっ・・ごめんなさい名乗らなくて

あたし、月野うさきです』

「・・・っ

・・どうして、ここの番号が分かった訳?」

『美奈子ちゃんに聞いたの
星野と、話がしたくて

代わって・・貰える?』


「星野は、

・・・いないよ」



『・・・どこに行ったの?』

「知らないよっ

ていうか、どうしてそんな事
あんたにいちいち言わなきゃいけないんだってば」

『どうしても、直接会って話がしたいの

あたし達
お互いがまだ何も分かっていないだけでしょ?
それですれ違っているだけで
一度会って話をすれば、きっと分かり合えるってあたしは信じてる
もちろん
夜天君とも、大気さんともしっかりと話し合いたい

だから、二人にも会いたいし
少しでいいから、あたしの話を聞いて欲しいの』


「さっきから聞いてれば・・・
随分と調子良い事ばっか言うじゃん?」

『・・・ごめんなさい
あたしの事、嫌いになっても仕方が無いと思ってる

だけどっ』

「あのさあ・・・察してくんない?
あんたと二度と会うつもりも無いし、
お互いの事なんて分かり合う気も一切無いって

こうして、電話を通して声を聞いているだけでも
腹立たしくて我慢出来ないのに・・・」

『夜天君・・・』


「おまえのせいだ・・・

おまえのせいで星野は変わってしまったんだ!
いい加減星野に付きまとうのは止めてよっっ」



「夜天、代わりなさい」

「ちょっと・・・っ 大気!

返してっっ
まだ言い足りないんだから!!」




「月野さん」


『大気さん?

お願い、
あたしの話を・・・っ』
「もう、わたしたちには関わらないで下さい

迷惑です」



ガチャ




「もしもしっ・・・大気さんっっ


・・・切れちゃった」

 受話器の先で、切れた音が虚しく響く



「やっぱり・・・怒ってるよね」

 星野もそうなのかな

 例え会えたとしても
 何も、あたしの話を聞いてくれる気が無かったら・・・




「・・・・・ううんっ

ここで弱気になってたら駄目だよ!
まだ、何もやっていないのに」

 考えよう
 どうしたら星野たちと会って話が出来るのか

 あたしが諦めさえしなければ
 必ずいつか分かり合える時が来るんだと信じて




「明日、もう一回電話してみよう・・・」

 挫けそうになった心を奮い立たせ
 決意を新たにすると公衆電話から飛び出した



 その目の前を
 キラリと輝く蝶が横切る


「こんな季節に・・・?」

 不思議な気持ちに包まれたまま
 それの様子をしばらく眺めていた

 ヒラヒラと空中を舞い
 ずっとその場から動かない

 何だか
 あたしをどこかへ連れて行こうとしているみたい・・・


 誘惑に惹かれて一歩足を踏み出すと
 その蝶も前に進んだ



「どこに・・・行くの?」

 尋ねた所で答えてくれる筈も無く
 ただあたしを先導し、いたずらに飛び回る

 何だろう・・・これ
 周り中に甘くてふわふわした、優しい香りが漂っている

 この香り
 今まで何度も嗅いでいるような気がするのは、なぜ?



 しばらく、一定の間隔を開けて飛んでいた蝶が
 いつもの公園の中に舞い込んで行くと
 木の船の陰に隠れて見えなくなった



「あれ・・・??
消えちゃった」

 その場所をくまなく探し回っても何処にもいない

 夢・・・だった筈が無い
 まだ、辺りに柔らかい蝶の残り香が漂っている





「おまえ、一人で来たのか?」


「・・・?」

 どこからか
 誰かの声が聞こえる

 好奇心に任せて船の上に登ってみた




「ひとり?」

 聞き覚えのある可愛い声

 ・・・って、ちびちび?


 一緒にいるのは・・・




 ・・・!?



「いいこ、いいこ」

「おまえ・・・
いっちょまえに心配してくれてるのか?

ははっありがとう」


 星野が・・・どうしてここに


 ううん
 そんな事今はどうでもいい

 偶然でも、会えて良かった



「星・・・」


「オレの話を


・・・聞いてくれるか?」

「・・・っ!」




「・・・はなし?」

「ああ
とても大切な話だから、誰にもナイショだぜ?」

 にこっと笑いかけるちびちびに
 そのまま話を続ける


 ・・・出そびれちゃったよ

 こんな
 立ち聞きみたいな事してていいのかな・・・




「オレ・・・

気になる女の子がいるんだ」

 星野ったら・・・
 ちびちびにいきなり何の告白をするつもりなの?



「すごく、大切な存在なのに
ずっと
その子に嘘をつき続けてしまって・・・」


 ・・・嘘?

 それって、
 もしかして・・・



「打ち明けるつもりだったんだけど・・・
その前にその嘘がばれちゃってさ」

「!!」

 やっぱり、あたしの事なの?

 どうしよう・・・
 このまま聞いていて、いいのかな


 出て行くべきなんだろうけど
 話の続きが、すごく知りたい

 申し訳ないと思いつつも
 結局、その場でじっと立ち尽くしている事しか
 あたしには出来なかった




「仲間は皆
オレがそんな事ばっかり考えているのを
良く思っていないし・・・
オレ自身も
そういう事している場合じゃないって、分かってるんだ

だけど、
いくらもう関わるなって止められても
そんな事出来ない


オレは・・あいつを信じたい」

「・・・っ」

 その一言が、胸に大きく響く

 星野も
 ずっと同じ気持ちだったのね


 ・・・良かった
 その言葉が聞けただけで、何だか救われた気分

 ほっとした安心感と共に
 心の奥を温かい気持ちがじわじわと
 隅々にまで広がっていく



「もしかしたら
嘘をついた事を彼女は許してくれないかもしれない

・・・それでも、会いたいんだ
どうしても


もっと、早く
全て話していれば良かった

いや・・
おだんごと、もっと早く出会いたかったよ」

 うなだれる星野の頭を
 ちびちびがにこにこしながら優しく撫でた



「だいじょうぶ・・・だよ?」

「励ましてくれるのか?

何だか、おまえに言われると
本当にそう思えてくるから不思議だな・・・」







「あ、・・・おねーちゃん!」


「え・・?」

 屈託のない笑顔が
 あたしを見つけて大きく手を振る



「・・・ちびちび?」

「!!」


「どこ行ってたのよ?

・・・心配したのよ」

 振り向いた星野の驚く顔が、なんだか可愛く見えて
 つい顔が綻んでしまいそう

 ぐっと堪えてちびちびを傍に呼んだ



「おだんご・・・

・・・オレっ」



「ねえ、ちびちび


あたしの話も・・・聞いてくれる?」

「・・・?」

 そのまま
 ちびちびに話を続ける



「同じクラスに、気になる男の子がいるの
そいつはいっつもあたしを好き勝手に振り回してばっかで・・・
困る事だってたくさんあったけど
それでも、一緒にいると楽しかった

あたしの
大事な・・お友達なんだ」

「・・・っ」


「なのに・・・
最近ちょっと気まずい事があって

会って話をしたかったけど学校にも出てきてくれないし
どうしたらいいのか、悩んでた


でも、気付いたの
やる事もやらないで立ち止まっていても
何も変わらないんだって

会えないのなら、あたしが会いに行かないと
見つからないのなら、探し出してでも」

 ふっと立ち上がり
目線を星野に送った



「星野・・・」


「おだんご・・・

黙ってて、ごめん
騙すつもりはなかったんだ」

「あたしの方こそ・・・ごめん
星野達の事
ちっとも分かってあげられなくて」

「いや、オレが悪いんだ
何も言わなかったせいでこんな事に・・・」


「ううん
あたしが・・何も分かってなかったの
今だって会うまでは
きっと星野は怒ってるかもなんて思ってた」

「怒ってなんか!
オレの方が、ずっと心配だったんだぞ?

今頃
おだんごは怒っているんだろうって・・・」




「・・・ふふっ」

「どうしたんだよ・・?
いきなり笑って」

「だって、
なんだかおかしくって」


「・・・おかしい?」

「あたし達二人して、同じ事を考えていたのね

お互いが
お互いを考え過ぎてちょっと行き違えていただけなんだよ
こうして会って話さえすれば、すぐに誤解は解けたのに
怖がって何もしようとしていなかった」



「おだんご・・・」

「大丈夫
他の皆もきっと分かってくれる

信じよう?
みんなを、・・・自分を」

「みんなを信じる・・・か
それっておだんごの得意技だよな」

「そうだよ?
あたし、
諦めが悪いのだって特技なんだからっ」

「ははっ・・そっか
それって、ものすごい長所だな」

「まあね?

あんたもやっと、
うさぎちゃんの凄さが分かった?」


「ああ、そうだな
おまえは・・偉いよ」

「へへーんだっ!」

 得意げな顔を向けてあげると
 星野に少し笑顔が戻ってきた




「・・・なあ、おだんご」

「なあに?」



「おまえに、会えて

・・・本当に良かったよ」


「星野・・・


ありがとう
あたしも、会えて良かった」

 良かった・・・
 いつもの二人に戻れて



 それからしばらくの間
 ちびちびを挟んで座り
 沈んでいく夕日を一緒に眺めていた

 こうしていると
 心の中が、清々しい気持ちで満たされていく




「ねえ・・・そういえばさ
最近大変だったから忘れてたでしょ?」


「ん・・・?
何を?」

「今度の日曜日
うちの高校、学園祭なんだよ?」


「そうだったっけ?」

「ほら、やっぱり!
色々あるのは分かるけど
気分転換にちょっとでも来れない?

顔出してくれたら、きっとみんな喜ぶと思うんだ」

「何をするんだっけ?オレ達のクラス」


「喫茶店」

「何だ、平凡だな」

「そんな事無いよう
他の所とは全っ然違うんだから!
服だってかわいいし
まこちゃんの作ったケーキだって
ぽっぺが落ちそうなくらいおいしいのよ?」

「へえ、
色々聞いてると結構楽しそうじゃん?」

「ぜーったい楽しいよ!
来ないと後悔するんだからねっ」

 大きな身振りでアピールすると
 星野も楽しそうな顔を向けてくれた



「分かったよ・・そんなに面白いって言うんなら
行くよ、学園祭」


「ホント?」

「ああ、必ず」

「じゃあ、
楽しみに待ってるからね?」








「・・・おだんご」

「ん?」

「こうして、
和やかな時が過ごせるのも

もしかしたらあと少しかもしれない」

 夕日が沈み
 暖かな光が空からなくなると
 いきなり辺りに冷たい風が吹き抜けていく

 振り向くと
 真顔でこっちを見つめる星野がそこにいた



「どういう・・・事?」

「お互い、星を守る戦士として
共通の敵に立ち向かって行かなければいけない時が
近づいているんだ
逃げてはいけない戦いが、目前まで迫ってきている

その前に
おまえに話しておきたい事がある」

 一変した真剣な様子に
 こっちも気持ちが畏まる


「・・・うん、分かった
ちゃんと聞くよ」


「オレの・・・

オレ達の共通の敵セーラーギャラクシアは
全銀河の星をすべて滅ぼそうとしているんだ」

「ギャラクシア・・・」

 いつかの戦いに一瞬現れた
 あの、セーラー戦士が?


「ヤツの狙いは全銀河の星々の
真のスターシードを手に入れる事

それがすべて揃ってしまった時
全銀河はヤツの手に落ちてしまうんだ」

「そんな事になったら・・・」

「地球も、何もかも全て・・・っ

オレ達の星も・・・
ヤツに滅ぼされてしまった

だが、最後の希望だったオレ達のプリンセスは
ギャラクシアの魔の手から逃れ
この地球へと飛び立ったんだ」


「星野
貴方達は一体どこから・・・」

「地球から遠く離れた
銀河のとある星から
プリンセスを探しに彼女の後を追ってここへ辿り着いた

そして、スリーライツとして
ずっと歌い続けてきたんだ
あの方へ、声が届くまで」

「その人が、星野が前に言っていた
探しているたった一人の女性、・・・なのね」

「ああ・・・
プリンセスが見つかれば、
オレ達の星の再生だってきっと叶う

だけど、それだけではだめなんだ
ギャラクシアに、対抗するには
まだ、何かが足りない・・・」



「あたし、本当に何も知らなかった・・・
星野達が
こんなに辛い戦いをずっと続けていたなんて」


 全銀河を巻き込んだ戦い・・・

 想像以上の壮絶な話に
 背筋が一瞬で凍りついた


 こんなちっぽけなあたしに出来る事なんて
 本当にあるの?



「なあ、おだんご
きっと これまで以上に辛い戦いが
オレ達を待っていると思うんだ

だけど
オレは、どんな時でもおまえの傍にいて
おまえを・・守る力になるから」


「守るって・・・

あたしを?」

「そうだ」



「そんな事・・言わないで?

みんなで力を合わせればきっと
星野達の探している人だって見つかる筈だよ」


「・・・おだんご?」

 そうよ、逃げたらいけない

 弱気なあたしなんて・・・
 あたしらしくないよ



「あたし達に、出来る事があるなら
いくらでも協力するから
一緒に力を合わせよう

・・・ね?」

 ぴょんと
 ジャンプをして船から下りると
 振り返って星野に手を伸ばす


「おだんご・・・

ありがとう
おまえって、本当に強いな」

「ふふっ・・そう?

じゃあ、これからも宜しくねっっ」

「・・・ああ、宜しくな」

 きっと
 あたし達はここから始まるのね

 その誓いの証を交わす様に
 お互い差し出した手を握り合おうとした






「触るな!」

「!?」

 それを制止する強い声




「今更
よくもそんな事が言えたものね?」


「はるかさんっ

・・・みちるさんも!」

 二人ともいつの間に・・・

 少し離れた場所から
 険しい表情であたし達を睨んでいる



「何だよ、おまえら
勝手に話に入ってきやがって!」


「うさぎ・・・
いえ、セーラームーンは
わたしたちのプリンセスよ」

「僕達には、この星と、

そして彼女を守る義務がある」

「・・・!?
なるほど、そういうことか

おまえらも・・セーラー戦士なんだな?」

 辺りに
 緊迫した空気が流れ始めた


 だめよ、こんなの・・・
 何とか二人に説明しないと



「うさぎ、
こっちへいらっしゃい」

「待って!二人とも
あたし達、やっと分かり合えた所なのよっ」


「おだんごっ
こいつとは、もう関わるな!」

「ひどいよ・・・っ
はるかさんもみちるさんも

どうしてそんなに星野達を警戒するの?!」

「僕は前にも言ったはずだ
奴らは
太陽系の外から来た侵入者だと」

「知ってるよ!
だけど、同じセーラー戦士じゃない」

「・・・敵も、セーラー戦士だ」

「・・・っ!」


「いいこと?
これはセーラー戦士同士の戦いなの

だから慎重にならなくては・・・」

「僕達の星は僕達で守る


信じられるのは、自分達だけだ
さあ、こっちへ来い!」

「いやっ!

・・・お願いだから、星野と話をして?」

「おだんご・・・っ」







「星野から、離れて!!」

「・・・!」

 後ろから怒鳴られ
 その方向を確認する


「夜天・・・」




「もう、関わらないでと
言ったでしょう?」

「大気さん・・・」




「ほう、
・・・仲間のお出ましか?」


「ねえ、
みんな少し話を・・・


・・・っ!!」

 ほんの一瞬
 突風に煽られて視界が閉ざされた


 再び目が開いた時
 そこにいたのは戦う姿の二人・・・




「・・・・・・」

「・・・・・・」



「あら、驚かないのね?」


「そうじゃないかとは思ってました」

「あたし達の、正体も
もう知っているんでしょう?」


「・・・!!」

 ハッとして振り返る
 いつの間にかライツの二人まで変身していた



「天空の星
天王星を守護に持つ飛翔の戦士、セーラーウラヌス!」

「深海の星
海王星を守護に持つ抱擁の戦士、セーラーネプチューン!」


「止めてっ
どうしてセーラー戦士の姿になんて・・・

みんな、変身を解いてよ!」

 お互い、
 沈黙の睨みあいを続けたまま動かない


 あたしの話なんて・・・
 誰も聞いていないの?



「太陽系外部の敵からこの星を守る
それが、わたし達の使命」

「いいか
これ以上月野うさぎ

・・・セーラームーンに近づくな」

「貴方達はせいぜい
自分のプリンセスの心配をしていればいいのよ」



「言われなくてもそのつもりよ

こっちも少々迷惑しているの
その子につきまとわれて・・・」

「だけど、使命の為なら
使えるものは利用しちゃうかもね?うふふっ」



「随分と
勝手なことを言うじゃないか・・・」


「貴方達、
自分の立場を理解していないようね?」

「その言葉、そっくり返してあげるわ」



「・・・・・」

「・・・・・」


 戦う前の張り詰めた空気・・・
 一種即発の雰囲気が漂う


 だめだよっ
 このまま、見過ごしてなんていられない・・・




「やめろっやめてくれっっ

こんな戦いは、無意味だ!!」

「そうよっっ
ウラヌスも、少しでいいからあたし達の話を聞いて!

みんなで力を合わせれば
きっと何とかなる筈よ?」


「どけっっおだんご!」

「どかない!」



「星野、どきなさい」

「どくもんかっ」


 背中合わせで
 お互い真ん中に両手を広げ立ちはだかった

 張り詰める空気に負けないよう
 精一杯手を広げる





「・・・止めてよ、星野・・・・・

どうして
あたし達じゃなくてそんな子を庇うの?」


「・・・ヒーラー」

「セーラームーン・・・
あなたのせいで、

すべてがおかしくなったのよっっ」

「・・・っ」

 あたしのせい・・・?

 確かに
 この無意味な戦いも、何もかも全て
 あたしが勝手に動いたせいで起きている


 はるかさんも、みちるさんも
 あたしを守ろうとしてこんな事・・・

 大気さんも、夜天君だって
 ただ星野を迎えに来ただけなのに


 あたしと、星野が
 もう会わなければこんな風にはならないって言うの?



「あなたは
あたし達に悪い事を呼び寄せる元凶よ!

星野を、これ以上惑わさないで!」

「セーラームーンのせいにするなっ
こいつが
勝手に彼女に付きまとっているだけだ!」



「セーラームーン、
あなた方が自分の星を守るのは勝手よ

でも
星野やわたし達を巻き込まないで下さい」

「そんな・・・」

 どうしてみんな
 自分達だけですべて解決しようとするの?

 手を取り合えば
 何にでも立ち向かって行ける筈なのに



「星野、もう帰ろう?
そんな女の傍から早く離れて!

さあっっ」

「きゃっ!」

 星野の間に割り込んだ夜天君が
 全力であたしの肩を突き飛ばした

 勢いで体が地面に叩きつけられる


「おいっ
乱暴はやめろよっっ」



「ちびちびっっ」

「!!」

 あたしを助けようと思ったのか
 ちびちびが走り寄って加勢してきた

 小さい体がしっかりと夜天君の右足にかじりつく



「ちびちびっ
いい子だから、こっちにおいで?」


「だーめっだーめっっ」

 必死にしがみ付いたまま
 首を横に振って離れようとしない


「何よ・・この子
・・・離れて

離れなさいってば!!」

「あうっ」


「だめっっ

こんな小さい子にまで、手を出さないで!」


「何よっ
そっちからしがみついて来たんでしょ!
いい加減にっっ」

「・・・っ!」

 振り上げられた拳がちびちびに当たらないよう
 覆い被さってしっかりと守った


「・・・・・・!?」




「・・・?」

 いつまで経っても何も落ちてこない・・・

 そっと
 薄く目を開けて頭上の様子を確認してみた




 ・・・何?
 物凄く驚いた顔がこっちを見下ろしている

 あたし・・・何かした?



「・・・離して」

 急に穏やかな口調に変わった・・・
 たしなめられ、そっと足元から離れる



「星野・・・
もう、これくらいでいいでしょう?

行きますよ」

「待てよっ
まだ話は・・・っ」



「貴方も来なさい、うさぎ」

「あっ
止めて・・・離して!」

 強力な意志が
 両側から二人の間を引き裂いた

 星野との距離があっという間に遠ざかる・・・



「うちのお姫様の顔を立てて
今日の所は引いてやる
だが、覚えておけ

彼女に
セーラームーンにも、おだんごにも
二度と近寄るな!

近寄ったら、どうなるか・・・」


「言われなくてもそのつもりよ」

「そっちも、
今度あたし達に関わってきたら
どうなっても知らないから」


「おだんご・・・っ」

「星野!!」

 止められた腕の中で
 引きずられていく星野の姿が見えなくなるまで
 必死にお互いの名前を叫び合っていた



 どんどん小さくなっていく3人の影・・・
 そのうち闇に溶けて 消えた



「・・・っ・・星野・・・」


「もう、
あいつとは、会うんじゃない」




「どうして、・・・あんな酷い事を言うの?

ウラヌスも、ネプチューンも
酷すぎるよ!!」

「外部の敵から地球を守る為よ
そして、・・・貴方も

分かって頂戴」


「こんなの全然分からないよっ

もう・・・あたしの事はほっといて!!」

「おだんごっっ!」

 二人の前からすぐにでも消え去りたくて
 ちびちびを抱いて駆け出す





「・・・はあっ・・・はあ・・・っ」

 何も出来ない歯がゆさを誤魔化すように
 切れる息を吐き続けて街を走り抜けた



 はるかさんも、みちるさんも
 どうしてあんなに他人を信用しないの?

 あたしを心配してくれているんだって
 分かっているけど
 そうされればされる程
 あたしって、どれだけ頼りないんだろうって
 思い知らされる・・・



「星野・・・っ」

 大気さん達に・・話すら聞いて貰えなかった
 どうしたら
 あたし達の事分かって貰えるの?

 やり切れないもどかしさばかり
 どんどん募って溢れ出る

 もう、何をしたらいいのか分からないよ・・・












「おいっ
おまえ達どういうつもりだよっ

せっかく・・・
おだんごと分かり合えたって言うのに!」


「そんな事する必要はありません

いいですか・・・
こちらの事は一切外部に漏らしてはいけません
あちらのやり方は、これで分かったでしょう?」

「・・・分からないよ


分かるもんか!!」

「星野っ待ちなさい!」



バタンッ








「・・・・・・」

「夜天・・・

さっきから黙って
どうしたのですか?」



「大気、
ぼく・・さっき感じたんだ


あの方の
・・・プリンセスの気配を」

「何・・・ですって!?
それは本当ですかっ」



「うん・・
ぼくの足にしがみついてきた
あの、ちびちびとか言う女の子から

プリンセスの、残り香を感じた」

「そんな・・・

ずっと探していたのに
こんなに、近くに手がかりがあったなんて・・・」


「プリンセスは、確実にすぐ傍まで来ている
その鍵は・・・


おそらく、あの子」




「・・だったら、話は早い

夜天、
今度の日曜日の学園祭・・・」


「うん・・・行こう、


ぼくらのプリンセスを、取り戻す為に」