・・・どうして?

 どうしてこんな事になっちゃったんだろう



 昨日の出来事
 あれは、本当に現実に起こった事だったの・・・?
 すべて夢だったんだって、思えるのなら思いたいよ




 でも・・・
 今までの周りの出来事を思い返すと
 すべての事でつじつまが合う

 ライブハウスで星野が襲われた時
 急に姿が見えなくなったり

 うちに敵が現れた時だって、そうだった
 あの人達がいつの間にかいなくなって、そして・・・


 それって、こういう事だったのね
 こんな事・・・信じられないよ













『素敵な夜間飛行へ
ようこそいらっしゃいました』


『セイレーン・・・っ!』



『・・・っ・・離せ!!

おだんごに何をするっっ』

『部外者の方はしばらくそのまま
お席に着いていて頂けますか?

すぐに済みますから、ふふふっ』


『こんな事・・・
お願いだからやめてっっ
みんなを、開放して!』

『そのお願いを叶えるも叶えないも
すべて、貴方次第ですわ

お友達が大事でしたら
そのまま大人しくしていて下さい』


『そいつに・・・手を出すな!!』


『星野・・・っ

・・・分かったわ
あたしはどうなってもいいから、みんなを・・』

『まあ、とても良い子で助かります

乗客の皆さんの命と引き換えに
貴方のスターシードを頂きますわよ


月野うさぎさん?
・・・いいえ、セーラームーン!』

『・・・っ!!』




『何・・だって・・・?』


『月野さんが・・・』

『セーラー・・ムーン?』


『ええ、わたくしこの目ではっきりと見ましたのよ?

この方が、
セーラームーンに変身する所を!』

『・・・くっ』


『さあ、貴方のその美しい輝き
見せて貰います!!』








『・・・めろ・・


やめろーーーーっっ』



『なっ・・!?
その強力な特性ベルトを引きちぎるなんて

貴方、一体何者ですのっ』


『止めるんだっ星野!!』

『変身してはいけませんっ』


『・・・?』



『おだんごに・・・手出しはさせない!


ファイタースターパワー
メイクアップ!!』












「スリーライツが
星野が・・・


まさか、セーラー戦士だったなんて」


「うさぎちゃん、大丈夫かい?」



「・・・うん」

 魂の抜けたまま
 あっという間に一日が過ぎてしまった

 人気の無くなった教室にみんなで集まり
 昨晩の事を振り返る



「まさか、あの3人がそうだったなんて・・・」

「あたし達も
変身する所、見られちゃったわね」


「セーラースターライツ、
彼女達は一体どこから来たんだろう?」

「太陽系のセーラー戦士ではないし・・・
どこかもっと遠い、他の銀河から来たのだとしたら

何の為にやって来たのかしら」

「正体を隠してアイドルをやっているなんて
なんか事情がありそうって感じだし」


「敵なのか、味方なのか
それすらまだはっきりしないんだもんな」

「少なくとも
今後あたし達に加勢してくれる雰囲気じゃ無かったわね」



「・・・・・・」

 示し合わせたように
 みんなでその机に目をやった


「結局3人共
今日は学校に来なかったわね」



「もう、
このまま来なくなっちゃうのかな・・・?」

「うさぎちゃん・・・

大丈夫!
明日はきっと来るわよ?」


「うん・・・」

「ショック・・・だったわよね?」


「やっぱ、ちょっとびっくりしちゃったよ

結構長い時間をみんなで共有していたと思ったのに
お互いの事、何にも知らなかったんだよね」

「そうね・・・」

「あたし達も
自分達の事を何も話してなかったわね」

「お互い、
自分達の事で必死だったんだから仕方ないよ」



「これから
どうすればいいんだろう・・・」


 だめだ・・・
 思考がぐちゃぐちゃで
 今は、何も考えられない

 考えたくない・・・



 頭の中を整理しようと今までの事を振り返ると
 みんなで騒いだ楽しい思い出ばかりが蘇る

 あたし達みんなあんなに仲が良かったのに
 どうしてこんな事になっちゃったんだろう

 もう、あんな素敵な時間は戻ってこないの?


 どちらかが先に話を切り出していれば何か変わったのかな・・
 お互いが何も相談せずにここまで来てしまって
 その代償が一気に降りかかってきた気がする

 話し合ってさえいれば・・・





 ふと、考えてみる


 あたし達
 今まで本当に何も話し合おうとしていなかったのかな

 そう言えば・・・
 思い返してみれば星野はずっと何か言いたそうだった

 あたしに話を切り出しても途中で止めたり
 誰かが中断して話が途切れてしまったり
 そんな事が何度もあった


 その時もしかして・・・
 打ち明けようと、していたのかもしれない

 そんな場面、何回あっただろう?
 一回や二回なんてもんじゃない
 何度も、何度でもあたしに伝えようとしてくれていた


 自分の事、もっと知って欲しいって
 そう言われた事だってあったのに
 あの時
 どうして最後まで聞いてあげられなかったんだろう




「あたしったら・・・」


 ・・・気付いていなかった
 
 ううん、
 気付いてあげようともしていなかったんだ


 ずっと前に星野に言われた言葉と
 昨日ファイターから掛けられた言葉が一つに重なる



『・・・男だったら
自分を犠牲にしてまで守りぬきたいと思うんだぜ?

それが自分にとって大切な存在なら尚更な』




『・・・言ったでしょ

何が起きたって、あなたを守るって』


 変身していても、いなくても
 星野はいつでも傍にいて
 ずっとあたしの事、助けてくれていたのに



「星野・・・」

 どうしよう・・・

 会いたい、
 星野に今すぐ会いたいよ

 あたしの事、すごく怒っているかもしれない
 それは仕方が無い
 なじられてもいい
 とにかく、会って話がしたい



 思いついたら居ても経ってもいられなくなって
 勢いよく椅子から立ち上がった


「あ・・・
あたし、ちょっと・・っ」



「星野君に、会いたいんでしょ?」

「美奈子ちゃん・・・」

「はい、・・これ」

 すべてを察した優しい笑顔で
 手の中に小さなメモを渡される

 それには電話番号だけが記されてあった




「これって・・・」

「スリーライツが
今居る場所に繋がるから」


「・・・っ・・
ありがとう、美奈子ちゃん!」

「チッチッチ
美奈子ちゃんの情報網を舐めちゃあいけないわよ?」


「いいから
早く、行きなよ」

「うん!!」

 背中を押してくれるみんなに見送られ
 急いで教室から駆け出す


 少しでもいい
 どうか、会えますように





「ちょっと、元気になったみたいね」

「一日中ずっと元気が無かったけど
やっとうさぎちゃんらしさが少し戻ってきたかな」


「でも、大丈夫かしら
ライツの3人が、まだ敵か味方かも分からないのに
あんな事・・」

「大丈夫よ
誰もあのひたむきな瞳には敵わない
例えそれが敵対する人達であったとしても

それが、うさぎちゃんの凄いところじゃない?」

「そうだな・・・
すぐに受け入れられないとしても
あの真っ直ぐな想いはきっといつか届く」


「会えると、いいわね」

「そうね・・・」









「はあ・・・っ・・はあっ」

 全速力で廊下を通り過ぎ
 下駄箱で靴を履き替えると一直線に外へ向かった



 一瞬、
 視界の端を何かが横切る




「うさぎ、」

「・・・!?」

 呼び止められ、振り返らざるを得なかった




「そんなに急いで、どこへ行く?」

「デマンド・・・」

 陰で待機していたの?
 全然気がつかなかった・・・


 腕を組んで下駄箱にもたれている姿が
 何だか少し不機嫌そう


「どうして、そんな所に・・・」


「おまえが中々捕まらないから
ここで帰りを待つしか無かった」

「あ、・・・そっか
昼休み会いに行けなかったんだっけ

ちょっと、色々あってさ・・・」



「一体、昨日はどうした?」

 いきなり確信の疑問を投げかけてきた


「え・・・と・・」

 露骨な戸惑いの様子が隠せない


 そりゃ、そうだよね
 あんな風に振り切って帰ってしまって
 どうしたのかって気になるのは分かる

 でも、今のあたしには時間にも心にも余裕が無さ過ぎる
 この逸る気持ちを抑えて事情を説明なんてしていられないよ



「あの・・・悪いんだけど
今日もちょっと急いでいるの

明日、昼休みに会いに行くから
それじゃっ」



「待て」

 手首を掴む強い力と威圧する低い声が
 あたしの動きをしっかりと制止する



「・・・お願い、
離して・・っ」


「今日は、昨日のようにはいかないぞ」

「・・・っ」

 一分でも、一秒でも早く星野と話がしたいのに
 どうして引き止めるのよ



「少しで良いから話をさせろ」

「あたし今、本当に急いでいるの

明日じゃだめ?」


「あれからおまえの事を
ずっと心配していたというのに

・・・その気持ちを無下にするのか」


「デマンド・・・」

 そんな風に言われるとこれ以上強くは出れない

 あたしの性格を知っててわざと言ってくるんだって
 分かっているけど・・・



「ほんの一時くらい
わたしに付き合ってくれてもいいだろう?
用が済めばすぐに開放する」

「・・・・・」




「・・・行くぞ」

 あたしの答えを待たずに
 いきなり腕を引っ張ってどこかへ誘導していく


「ちょっと・・っ
どこに連れて行く気?」


「ここでは込み入った話は無理だろう

場所を変える」













「ねえ、手を離して?
誰かに見られたらどうするのよっ」

「・・・・・・・・」


 何を言っても無視を決め込んで無言のまま引きずっていき
 目的の場所に着くとようやく離して貰えた


 そこは、いつもの二人の空間



「ここなら良いだろう


さあ、話せ」

 一段上からこっちを見下ろしてじっと凝視する

 相変わらずの態度だけど
 どうしていつもこんなにえらそうなのよ・・・


「話せって・・
いきなり言われても、何を言えっての?」

「昨日の事だ
何かあったのだろう?」


「あった、
と言えばそうだけど・・・」

 話をする場と時間を作ったのはいいとして
 この人にどう話せばいいんだろう

 ・・と言うより
 一体どこまで話していいの・・・?


 デマンドはこの戦いには無関係なのに
 話して、知ってしまう事で
 彼にも危険が及んでしまうかもしれない

 あなたを、巻き込みたくないよ・・・
 やっと争いから遠ざかった生活が出来るようになったのに



 あたしの事
 心配してこんな風に聞いてくるんだって分かっている

 だけど
 あたしの力になりたいって
 その言葉が真実だと知っているから、尚更言えない




「・・・・・」


「話してみろ
何か力になれるかもしれないぞ?」


 真剣にこっちを覗いてくる様子を見ていると
 どんどん胸が痛くなってくる


 そんな目で 見つめてこないで・・・



「・・・だめ、

今は・・何も言えないの」

「なぜだ?」


「それは・・
・・・あたしの、
セーラー戦士としての戦いと関係しているから

だから言えないのよ」


「そんな事分かっている
おまえの悩みがどこから来ているかなど、最初からな

今回の事は、中々に深刻なのだろう?」



「・・・うん」


「うさぎ、

確かに今の無力なわたしには
戦いの手助けなど
何も、出来ないかもしれない」

「!?違うよっ
そういう意味で言ったんじゃ・・っ

あなたが
何も出来ないから話さないわけじゃない・・・」



「・・・直接的な力にはなれずとも
話くらい、いつでも聞いてやれる

その胸に抱えるモノを吐き出してみろ
少しは楽になるだろう?」


「デマンド・・・」

「誰にでも話せる事では無いと
分かっているからこそ

わたしが、その心を少しでも軽くしてやりたい」


 その気持ちはすごく嬉しいよ・・・

 でも
 何て、言えって?


 星野達がセーラー戦士なんだって
 敵なのかもしれないって
 そんなの、軽々と打ち明ける事は出来ない



「・・・・・」


「何も、話をして貰えない方が辛いのだと
分からないか?」

「・・・っ・・分かるよ・・
何も言って貰えないのは、すごく寂しい事なんだって
だけど、だめなの


今はまだ・・・」

 上を向き、その瞳をまっすぐ見つめ
 自分の心を彼に訴えかけた



「あたし自身
まだ頭の整理がつかなくて・・・

何て話をしたらいいのか、分からないの」



「・・・・・・」

「そんなこっちの気持ちも、分かって欲しい

何も言って貰えないのも辛いけど
何も言えないのも、同じ気持ちなのよ?」


 向かいの人が
 じっと、微動だにせず俯いたまま口を閉ざしている
 その様子は
 あたしの言葉をしっかり聞いてくれているように見えた


 分かって、くれたのかな・・・?

 あなたを大切に考えているから
 こんな風にしか言えないんだって


 自分なりに何とか上手く収めたと
 そう思おうとしていた











「・・・いい加減にしろ」


「え・・・?」

 その呟きがすべてを打ち崩す

 再びこっちに向けられた表情には
 呆れたような、苛立ちを隠せないような
 そんな様子が滲み出ていた



「おまえ、
散々わたしには心を開けとほざいておいて
今更その言い様は何だ」


「どういう・・・意味よ」



「己自身が心を閉ざしたまま
その口でわたしに同じ事を忠告するとは・・・

どこまでも勝手な奴め」

「待って・・っ
心を、開いていないわけじゃないのよ?

・・どうしても
言えない理由があるの」


「それは、とても深刻な話なのだと
先程言っていただろう?」

「・・・うん
今後の戦いに、すごく関係してくる事なの
だから・・っ」

「それをおまえは
わたしが、受け止められる筈が無いと
切り出す前から諦めている

・・・何と失礼な奴だ」

「!?
違うの、そうじゃないってば!
あたしは、



・・・あなたが、大事なのっっ


だから心配かけさせたくないって
そう、思っているのに」


 火照った顔を見られたくなくて
 瞬時に彼から視線を逸らす


 告白をした直後の様な
 居心地の悪い雰囲気を感じているこのひと時が
 いつもの何倍も長くて・・・すごく気まずい





「心配を、かけさせたくないだと?

さもわたしの為とでも言いたい様だが
・・・己の為の間違いだろう」



「何、それ・・・」

 こっちの気持ちをさらっと流して
 冷ややかな態度が言葉を続けた


「屁理屈を言うな
おまえは
部外者に話す事で生じる責任から回避したいだけだ

違うか?」


「・・・酷い
そんな言い方酷いよっ!」

「ならば、どういう理由で言えない?
しっかりと説明して見せろ」

「言える訳が無いでしょ!
あたしの力になりたいって
そんな風に言ってくれるあなたを
・・・巻き込むことになるもんっ

もう、嫌なの
あたしのせいで誰かが傷つくのは、もう・・っ」

 必死に、言葉を選んでお願いしているのに
 どうして分かってくれないの?

 お互いの感情がすれ違い
 もどかしい想いだけがどんどん蓄積されていく




「・・・そうやって
おまえはいつも一番大事な部分で人を拒絶する


それがどれだけ相手を蔑ろにしているか
気がつかないか?」


「もう、やめてよ・・・
何の事情も知らないくせにっっ」
「おまえが
何も、話をしないからだろう」

「・・・っ」



「わたしの心配など良いから、
とりあえず話せ

こういう時普通の者ならば
おまえの、他人を思いやる気持ちを配慮して
これ以上は聞かずにいてやるのだろうが・・

わたしは甘やかさない」


 何て冷酷な人・・・

 心配をしていると言っておいて
 あたしに対して優しさの欠片も無いその態度

 少しずつ、苛立ちが内から湧き上がってきた



「何も話さない事で
あなたを受け入れていないって感じるのなら
それは仕方が無いわ
その姿勢が失礼だって言うのなら謝る・・・

だから、あたしのこと
もうほっといてっっ」


「そんな願い、聞けない

本心ではないのだろう?」

「自惚れないで!
さっきから聞いていれば勝手な事ばっかり・・・

あたしの気持ちも察してよっ」


「その言葉
そっくりとおまえに返そう


・・・おい
あまり意地を張ると、怒るぞ?」

「・・・・・・」

 さっきからずっと
 話が堂々巡りで進まない
 お互いが何も譲らないんだから
 解決なんてする訳ないんだよ


 もう嫌だ
 ここから、すぐにでも立ち去りたい・・・



「これ以上話をしても意味が無いみたいだし

もう、行くね」





「まだ、話は終わっていない」

 後ろからすかさず伸びてきた右手が
 しっかりと手首を捕らえてあたしの行く手を阻む




「・・・離して、」


「離すものか
その口から事情を聞くまでは、絶対にな」

「痛っっ

・・・そうやって
言う事を聞かないとすぐに乱暴してっ
最低よ!!」

「わたしとて手荒な真似はしたくない
なぜ、
おまえはいつもわたしを困らせる?

オレを・・・見くびるな」


 何を言っても主張を変える気は無い

 きつく掴む指先から
 そんな彼の強い意志が伝わってきた


「止めて、

離してくれないと
大声で叫んで人を呼ぶから!!」



「・・・して、みるか?」

「きゃっっ!」

 捕んだ手首を力任せに引っ張られる
 その反動で
 体が彼の胸の中に激突した



「声を張り上げる前に
その口、塞いでくれるわ」

「やっ・・・」

 大きな両手が頬を包み込む

 至近距離から覗き込んでくる鋭い眼差しが
 今にも重なってきそう・・・




「・・・するぞ?」


「何されたって、
あたしの意志は変わらない」

 動揺を必死に隠して睨み返した


 ゆっくりと
 あたしの覚悟を試すように唇が近づいてくる
 目前に迫る誘惑を振り切らず
 ギュッと
 瞳と唇を硬く閉じて身構えた





「・・・・・・」

「・・・・・・・・」


 触れる寸前まで接近されているのが
 相手の息遣いから感じ取れる

 その気配を意識したまま
 止まった時が動くのを待った







「・・・いつまで
こうしているつもりだ?」


「・・・・・」

 掛けられた言葉に反応して薄く目を開ける




「早く、話せ

・・・さあ、」




「・・話さない、」



「・・・っ・・
頑固な奴め・・っ」


「あなたに言われたくないわ」



「なぜ
そこまで頑なにオレを拒む?」

「こんな事するあなたには、今は何も言いたくない

話せないんじゃない
自分の思い通りにいかないからって
そんな風に乱暴するあなたには


何も、話さない」


「・・・・・・」

 ふっと
 手の力が緩んだ

 拘束が解け、開放された肩を軽く押される
 脱力した体がすぐ後ろの壁にぶつかった




「もう、知らん


・・・好きにしろ」



「うん・・・」










「・・・・・こんなに、」

「・・・?」



「こんなに、他人を気にした事など

今まで一度も無かったというのに・・・っ」



「デマンド・・・」


 ほんの一瞬
 辛そうな表情があたしを責める

 それはすぐに冷ややかな眼差しに戻った




「せいぜい頑張る事だな?


独りですべてを抱え込んで
その重さにさっさと潰れてしまえ・・・」


「・・・っ」


 重い捨て台詞を吐いてジロリと睨むと
 一切振り返らず
 階段を早足で駆け下りていった 









「・・・・・・はあ・・っ」

 足音が遠くなり、聞こえなくなると
 張り詰めていた周りの空気が一気に緩む

 力の抜けた身体がその場にへたり込んだ



 どうして、こんな事になってしまったの・・?

 元はお互いがお互いを心配していただけなのに
 気がついたら意地の張り合いになってしまっていた


 折り合いをつけて譲歩し合えば
 歩み寄れたのかもしれない・・・



「言いあいの喧嘩、しちゃったよ・・・」

 どうすれば良かったんだろう
 あたしがすべて打ち明けてさえいれば
 デマンドも、もっと心を開いてくれたかもしれないけど





「それでも、

・・・言えないのよ」


 せっかく近寄ったあなたとの距離が
 再び遠くなってしまったとしても


 あたしの戦いに 彼は巻き込めない




「・・・ごめんなさい」

 誰もいなくなって初めて
 その言葉が口から出てきた


 その大事な一言は
 静かな空間に軽くこだまして
 闇の中に吸い込まれていく



 そして、誰の心にも届かない