「くそっ!」

 何やってんだよ、オレは・・・
 どうしてあんな事になってしまったんだ

 まとまらない思考が
 ずっと脳内を駆け巡り続けている



 学校を出ていつものライブハウスの一室に戻って来たが
 こんな状態で練習になんか集中できるわけが無い

 何もする気が起きなくて
 そのままけだるい体をソファに埋めた


 あんな情けない姿をよりによって一番見せたくない相手に・・・



 さっきのやりとりを思い返すだけで腹立たしい

 今更ながらにどうして上手く言い返せなかったのか
 考えるほど後悔ばかりが先に立つ


 オレは一体どうしたかったんだ
 ただ、おだんごの事を考えて行動したはずだったのに

 何も、できなかった
 相手に言い負かされてすごすごと引き下がっただけだった
 それどころか却ってあいつに自信をつけさせて
 つけ上がらせてしまった

 そんな自分の不甲斐なさを振り返ると歯がゆくて
 居ても立ってもいられなくなってくる



 結局、悪い予感は的中していたのか・・・
 おだんごはやっぱり昼休みあいつと一緒に過ごしていたんだ


 ということは今日の昼休みも?
 あの放送を二人で聞いていたのか

 そんな事も知らずにオレは・・・

 何も考えず
 ただ浮かれていただけの自分にほとほと嫌気がさしてくる

 どうして、あいつなんだ
 オレだってこんなにおだんごの事を心配しているじゃないか
 それが、どうしていつも伝わらないんだろう

 この気持ちは彼女には何をしても響かないのだろうか



 ・・・そんなはずはない!

 自分の勝手に振舞っているヤツなんかに
 絶対負けたりするもんか

 あんなヤツなんかに・・・





 思考を巡らせ続けていたら
 少しずつ悔しさが後悔を上回ってきた


「・・・っ・・」

 知らぬ間に楽譜を持っている指先に力が込められていく


 あいつに、どう抗議すればベストだったんだろう
 何を言っても聞く耳持たずだったあの男に・・・

 いや、オレの返し方が悪かったんじゃない

 忠告したのがただの友人である時点でダメだったんだ
 オレが例え何を言ったとしても
 あいつにとって
 二人の間には全く関係の無い人物のたわ言にしか聞こえない

 こっちが何をしても手ごたえなんてあるわけが無いんだ



「なんてヤツだよ・・・」


 おだんご、
 おまえもおまえだぞ

 あんなヤツの誘惑に流されて揺れているのか?
 アメリカの彼氏の事は忘れたのかよ・・
 あんなに好きだと言っていたのに


 だけどもしも、
 おだんごもあいつに惹かれているのだとしたら

 オレが二人の邪魔者なだけになる


 そうなのか?

 オレは、・・・どこまでも蚊帳の外なのだろうか



『おまえなど、
元より彼女の眼中には無い』


 忌々しいあいつの言葉
 あの自信に満ちた態度

 忘れようとすればする程脳裏に浮かんでくる



「ああもうっっ!!」

 苛立ちが頂点に達し
 バサッと大げさに楽譜を叩きつけた



 荒い息を吐いたまま
 床に散らばったそれを睨みつける




「どうしたの?星野
やけに荒れてるじゃん」


「・・・何でもない」

「何があったかは分かりませんが楽譜にあたらないでください
わたし達の想いが詰まっている大切な物ですよ」


「そう、・・・だったな
ごめん」

 大気に注意されて我に返った

 楽譜を拾って
 少し冷静になろうとコップの水を喉に流し込む




「・・・はあ・・」


「星野、
どうしました?」

「どうしたか・・って?」


「最近、浮つき過ぎですよ」

「浮ついてる?オレが??

何に浮ついてるって言うんだよ、大気」


「自分が
一番良く知っているのではないですか?


・・・月野さんの事ですよ」

「!?」


「彼女の家に遊びに行ったり、クラブに連れて来たり
いつの間にあんなに仲が良くなったのかは知りませんが・・・

今日の昼休みのあの放送も
彼女と関係しているのでしょう?」


「どうして分かるんだよ、そんな事」

「教室での二人の会話を少し聞きました


・・・構い過ぎではないですか」



「ちょっとした、気まぐれさ」

「気まぐれ?
それにしてはやりすぎじゃない?

本当に最近ちょっとおかしいよ星野は
放課後にソフトボールの練習なんかもやってるんでしょ
どうしてあんなのにつきまとってるの?」


「・・・違うって

言ってるだろ!!」




「・・・・・・」

「・・・・・・」


「・・・っ・・

ごめん、
少し・・疲れているのかな、オレ」

 こんな風に仲間に声を荒げてしまうなんて・・・
 二人の言っている事はもっともな事なのに

 図星をつかれて動揺してしまったのだろうか




「星野
わたし達が歌っている理由を
忘れてはいませんか?」


「歌っている、理由・・・」

「そうだよ
僕たちの歌声はあの方だけの物だ
あの方へのメッセージなのに
どうしてあんな事・・・

歌を、他人に捧げるみたいな事を」


 他人に、捧げる

 メッセージをあの方ではなく
 ・・・おだんごに届けようとしていた


 何やってるんだ、オレは
 ここには遊びに来ているわけじゃないんだ


 戦士として果たすべき使命があるのに



 オレ達には時間が無い
 余計なことで悩んでいる暇なんて一切・・・

 そう分かっているのに
 どうしてほっておくことが出来ないんだろう


 ・・・どうしてだろうな
 オレが知りたいよ




 分からない

 いや、
 何かに気づかないように逃げているだけなのかもしれない


 もしも、オレが彼女に対して
 許されない想いを胸に抱えているのだとしたら
 戦士である資格なんて、無い

 戦士でないオレって何なんだ?


 こんなに果てしなく遠い地にまで希望の光を追い求めてやって来て
 アイドルにまでなって探し続け
 その努力をすべて打ち消す位の強い想いって何なんだよ・・・



 『星野光』は仮の姿
 本当の自分は、アイドルでも、高校生でも無い

 一人の、戦う戦士だ

 そうである以上使命は果たす
 守るべきお方もいる
 だから他の事は考えてはいけないんだ

 もう、彼女の事は忘れよう


 忘れなければいけないんだ





 忘れたい












 ・・・忘れられない


 気がつくといつもあいつの笑顔を目で追っている
 どんなに遠くにいてもいつも見つけてしまうんだ


 おだんご・・・




本当にオレ、どうかしている