高校生になって半年が経った

 2度目の衣替えの季節がやってきて
 久しぶりに冬服に腕を通したら
 気分までなんだか心機一転した感じがする


「すっかり秋ですねー」

 秋と言えば、食欲の秋!

 美味しい物が盛りだくさんの素敵な季節
 まつたけは無理だとしても・・・



「柿、銀杏・・・栗ご飯、

サンマにやきいも!!」

 考えるだけでよだれが出てきちゃうよ
 今年も火川神社で落ち葉集めて
 みんなでやきいもするんだから



「よっ
年中食欲魔人のおだんご」

 ぽん、と頭を叩かれる
 これが星野の毎朝の挨拶になってきた


「・・・どうせ食い意地が張った
おだんごみたいに真ん丸のうさぎちゃんですよ」

「そこまで言ってないだろ

秋と言えば食欲の秋なんて予想通りの思考回路だな
分かりやすいやつ」

「ふんだ!」



「おまえ、
芸術の秋っていう発想は出てこないのかよ」

「芸術の・・・って言われても
絵なんかに興味ないし」

「音楽鑑賞だってあるだろ?」

「クラシックにも興味ないもん」


「あのなあ、

・・・目の前に今をときめくアーティストがいるじゃん?」

「は?」

「仲良くなりすぎてすっかり忘れたか?
大人気アイドルグループの星野光という存在を

おまえさあ
オレ達の歌、ちゃんと聞いた事ある?」


「・・・ううん?」

「まだ聞いてないのかよ!

一体何やってんだよ・・」

「だってそれこそ興味ないもん!
みんながあんたのファンだっての?
自惚れてるんじゃないってば」

 ショックだったのか星野が頭を抱えてため息をついている
 ちょっと言い過ぎたかな?





「興味、持たせてやるよ」

「持たせる・・・って?」

 こっちを見上げる瞳の奥に
 負けん気の強い炎がメラメラと燃えていた


「ちょっと
面白い事思いついたぞ」

「おもしろい事?

それって何よ」


「ナ・イ・ショ

見てろよ?
必ずおだんごをあっと言わせてやるからな」










「・・・あなたの学ラン姿も久々に見たわー」

 気だるい昼休み

 いつもの場所でデマンドと
 何をする事も無くだらだらと雑談をして過ごしていた


「どうした
何か変か?」

「別に、
でも衣替えって最初の数日間は何か新鮮だよね
冬服ってちょっと畏まっちゃう」



「わたしは、夏服の方が良いな」

「どして?」


「衣服が薄い方が
よりおまえの肌を感じて・・・」
「セクハラ発言は受け付けません!」


「・・・ははっ」

「全くもう・・」

 最近この手の冗談にも慣れてきた
 この人とのやり取りに余裕が出来てきたのかな
 漫才コンビでも結成したら息ぴったりな気がする



「そういえば・・・そろそろ中間試験の時期だね
またお勉強の日々かあ

やだなあ;」

「日頃から復習しておけば土壇場で焦ることは無いだろう」


「なんか同じような事を亜美ちゃんからも毎回聞く気がする・・

あたしはそういうの苦手なのよね
日々の積み重ねとか努力とか」

「無計画な人生を突っ走って来たからか」

「いつも気になってたけど・・・
あなたってあたしは何も考えていない
能天気な女の子だと思ってない?」

「違うのか?」

「違います!
あたしだってね、色々考えてるんだから
赤点取らないようにどうしようとか

だからさあ、
・・・テストのヤマ、教えて?
せ・ん・ぱ・い」

 上目遣いで可愛い子ぶりつつお願いしてみる



「・・・その場をやり過ごすだけの手助けはしない」

「なーによそれ
ケチ!

じゃあさ、また勉強教えてよ
それならいいでしょ?」

「そうだな・・それなら付き合ってやっても良いが
場所は何処にするかな

図書館でも良いが
わたしのマンションの方が落ち着くか」

「あっ、いいねー!

またみんなを呼んでさあ」



「・・・もう仲間は連れてくるな」

「だめなの?」


「基本的に人は家にあげない主義だ
おまえだから承知したというのに

気安く他の者を呼ばれては迷惑だ」

「みんなとわいわいする方が楽しいのに」

「勉強はわいわいするものか?
うちは託児所ではない
お転婆娘一人だけでも手が余るというのに」

「悪かったわね!

・・・まあいいわよ
それじゃあ、早速今日行ってもいい?」


「今日の放課後は・・生徒会がある」

「そっか、じゃあ仕方ないね
また今度お願いしようかな」

 お邪魔する気でいたから
 当てが外れちゃって少し残念・・・


 そう思っていたら隣の人がしばらく考え込んで
 ぼそっと呟いた



「いや、・・・来れば良い」

「え?でも・・
あたし生徒会終わるまで学校に残ってるか分かんないよ」


「うさぎ、

・・・これを」

 ズボンのポケットの中から取り出した物を
 手の中に渡される

 小さい割にしっかりと重さのあるそれをまじまじと見つめてみた



 これって・・・鍵だよね


「もしかして、
あなたのマンションの・・?」

「用事が済んだらすぐに帰る
先に帰って待っていろ」



「・・・ありがと、分かったよ」

 受け取った物をぎゅっと握り締める


 さり気なく渡されたけど
 こんな大事なもの預かっちゃっていいのかな
 ちょっとどきどきしてきた


「くれぐれも部屋の物は触らないように」

「はいはい」

「余計なことは何もするな」

「分かってますって」

「部屋を片付けようとかありがた迷惑な行為は一切必要無い
まあ、身の回りは整えているから何もする事はないとは思うがな

それと、キッチンの食器にも」
「そこまで細かく注意しなくても大丈夫よ!
何も触らなきゃいいんでしょっ」

 信用無いんだから・・
 そんなに不安なら先に行ってろなんて
 最初から言わなきゃいいのに



「あと、わたしの寝室も開けるなよ」

 少し間を空けて
 念押しするように告げられた


「何それ、もしかして

・・変なものでも置いてあったりして?
やーだ!デマンドったら」




「・・・他人に踏み入って欲しくないだけだ」

 いきなり言葉の歯切れが悪くなる


「ふーん・・そっか」

 そのまま押し黙る横顔を見ていると
 こっちも何も言えなくなって
 少しの間、口を閉じておいた

 いつもリビングまでは入れて貰えるけど
 そこから先は彼の聖域なのかな
 そう考えたら少し寂しい


 誰も入る事を許されない空間が、この人にはある

 もしかして
 あたしにだけは心を許してくれてるって思っていたのは
 ただの自惚れだったのかな




 じっと考え込むあたしをしばらく観察していた横の人が
 タイミングを見計らいながらそっと話しかけて来た



「うさぎ」

「・・なあに?」


「その鍵は・・・」




『あーあー
・・・もう入ってるのか?』

 いきなりどこからか雑音が入り込む
 廊下のスピーカーから馴染みのある声が聞こえてきた



 ん?もしかして・・・
 これって、


『やあ!みんな昼飯時に失礼
スリーライツのメンバー星野光です』


「はああ?!」

 予想もしていなかった人物の登場に
 ぽかーんと口を開けたまま体が固まる


『今日は放送室に急遽お邪魔して
校内放送ジャックをしてみました
先生方、
お説教なら後で聞くからちょっとの間見逃してくれよ?

突然だったのに協力してくれた放送部のみんな、
サンキュっ』

 後ろからキャッという数人の女の子の声がした


「あいつったら、何してるのよ・・」

 まさか面白い事を思いついたって、この事?



『退屈なお昼を過ごしている君に
オレからプレゼントを贈ります
一曲聴いてください!
星野光が歌うスリーライツの歌で

[届かぬ想い]

ミュージックスタート!』

 前置きの後、すぐに前奏が流れ始める
 あたしが歌を聞いた事が無いなんて言ったからって
 こんな事までする??


 ちらっと
 横目でデマンドを見たら
 目を細めて空を睨んでいるみたいに見えた



『夢の中で何度もそっと口付け交わした
透き通るつぶらな瞳に吸い込まれて行く』

 それにしばらく二人で耳を傾ける



『胸の奥の高鳴りから自分でも本気と知る
切な過ぎてもどかしくて諦めきれない』


「へえー、さすがアイドル
結構上手いじゃん
見てくれだけじゃないのね」

 言葉が旋律に乗って心の奥まで届いてくるみたい
 こういうのを歌唱力があるって言うのかな
 感情がこもってる

 切なくて、なんだか少し懐かしいような不思議な気分
 聴いていると胸の奥がじんとしてくる


 そのうちサビらしき部分が来た


『もっと出会いが早ければと言い訳ばかり見つけてる

月の光が届かぬ彼方へああ君を連れ去りたい』



 月の光が届かぬ彼方・・・

 地上にそんな場所なんて、ある訳が無い
 一筋の光も届かない、・・・深い海の底くらい?


 光の届かない遠い所まで連れ去りたいくらいの想いって
 一体どれだけ強いんだろう




「・・・思い出すな」

「何を?」


「月の光が届かぬ彼方へ

おまえを連れ去った時の事を」

「・・・っ!?」

 歌に聞き入っていてすっかり忘れていた・・
 それを実行した人が正に目の前にいるじゃない

 思い出したら急に気恥ずかしくなって目を逸らした


 ・・・何て答えればいいんだろう

 そうだね、懐かしいねって
 しみじみするのも何か変だし
 そんなに想っていてくれて嬉しいって言うのも変だ


 茶化しちゃえ!


「えと・・・

まあ、そんな事もあったような
あはははっ;」

 ぎこちない笑いで場の雰囲気を変えようとする


「可笑しいか?」

「はっきり言って、変!

全く、そんな事本当に実行する人なんて
あなたくらいなんじゃない?」


「前のわたしにはそれが出来る力があったからな」

「やだ、何それ

そんな事言って
今もその力があったらまた連れ去るなんて言うつもり?」

「出来るのなら、そうしているだろう
今でもな」

「ちょっと、・・・ここでそれやったらただの犯罪よ
冗談でも言わないでっ」




「・・・冗談に見えるか?」

「うっ・・」

 見えないから怖い;

 連れ去る事もそのまま閉じ込めておく事も
 そうしようと決めたら彼なら本気でするだろう


 けど嘘でも冗談だと言って欲しいよ
 こっちの気持ちも無視しないでって言いたい


「おまえをずっと誰の目にも触れさせず
閉じ込めておきたかった

それは叶わなかったが」

「・・・・・」


「それでも、
おまえと再び巡り合えたこの奇跡には感謝しないとな」



「・・・奇跡?」

「ああ」

 その言葉が心の奥にひっかかる

 それって
 本来は出会わなかったはずの二人が
 ものすごい偶然で巡りあっただけみたいに聞こえるよ

 そう考えたら少し寂しくなった


「あたし達の、この出会いは偶然の奇跡なの?

・・・運命とかじゃなくて」

 自分の想いを何とか絞り出してそのまま俯く



 あたしの問いに
 一呼吸おいて相手の答えが返って来た


「おまえは、運命を信じるのか?」


「え・・・と?」

「運命という言葉は卑怯だ
天に与えられた宿命ならば何でも受け入れるというのか
決められたレールの上を歩かされるのは御免だ

先の事は自身が切り開いていくものだろう?」


 未来は自分で切り開いていくもの

 その通りかもしれない
 でも、あたしは今まで色々な世界を目にして来てしまった


 前世の事、今こうして生きている現実世界の事
 そして、遠いいつか来るであろう未来の事

 だから・・・


「あたしは、
こうしてデマンドと今一緒にいるのも
運命なのかなって感じるよ」



「わたしは例え
おまえと結ばれない運命だと天に告げられたとしても

そんなもの、己の力で覆してみせる」

「・・・っ」

 この人は、なんて強いんだろう
 自信に満ち溢れた熱い眼差し
 その何にも動じない堅い意思と瞳が
 あたしを引き付けて離そうとしてくれない


「ただ、」

 静かに言葉が続く


「おまえがわたしと再び出会ったのは運命だと
そう言ってくれるのは嬉しい

出会うべくして会ったような気になる」


「デマンド・・・

きっと、そうなんだよ?」

 こっちを眺める紫紺の瞳
 何も変わっていない
 あたしに向けられ続けるひたむきなあなたの想い

 それに、にこっと微笑んだ




 向こうから言葉としての返事は無かった
 肩を抱かれて
 そのまま胸の中に引き寄せられる

 ふわっと
 いつもと同じ彼の匂いとぬくもりがあたしを包み込む
 それがすべてを語っている気がした



「・・・こんな所で」

「誰も、こんな所までは来ないさ」



 苦しい・・・

 こうしてあなたと触れ合っていると
 いつも息が出来ないくらい胸が苦しくなっていく
 何の痛みなんだろう?


 みんなに秘密にしていて後ろめたいと思っている気持ちのせい?
 それともまもちゃんに対する罪悪感から?

 どちらでも無いとしたら、もしかして・・・




 視界を閉じている分
 耳の感覚が研ぎ澄まされてきたみたい
 遠ざかっていた星野の歌が不意に飛びこんで来た



『昨日あんなに優しくても
今頃あいつの腕の中』


 その瞬間
 抱きしめてくる腕に力が篭る


「ん・・ちょっと、
苦しいよ」


「・・・離したくない」

「でもっ・・少しだけ弛めて

デマン・・・んっ・・」

 くっと
 上を向かされて視線が合った瞬間には
 もうお互いの顔が重なっていた


「・・・っ・・」
「・・・・・・」

 求めてくる唇が
 頭の芯をゆっくりと溶かしていく

 両腕が脱力して、その場に力なく落ちた



 リピートする星野の歌声だけが
 天井にこだまして響き渡る


『月の光が届かぬ彼方へ
ああ君を連れ去りたい』













「おだんごのヤツ
今度こそ聞いてないとは言わせないぜ
何しろ全校放送だからな」

 予鈴の鳴る少し前に放送室を出て
 小走りで教室に向かっていた

 その足取りがぴたっと止まる



 目の前の廊下を男女二人が歩いていた
 その後姿に馴染みのあるおだんごが目に留まる


「あれ、おだんご?

隣にいるのはもしかして・・」

 ・・会長?
 あいつ、またおだんごにちょっかいを

 邪魔してやる・・・
 近づいて行こうと踏み出した一歩がそのまま固まった



 二人並んで歩く後姿
 その距離が、ただの友達にしては近すぎる

 あれはまるで・・・




 ふと、
 会長が気配を感じたのか後ろを振り返った


「・・・っ!」

 とっさに曲がり角に身を隠す

 見ていたのを気づかれたか?
 いや、結構距離はある
 多分オレの存在は分かっていないはず


 良い方向に考えようとしていたのに
 その考えは呆気なく打ち崩された



「うさぎ・・・」

「何?
・・・ってちょっと!
廊下ではあんまりくっつかないでっ

誰が見てるか分かんないでしょ」

「おまえこそ
そんな大きい声で騒ぐと
どこで誰が聞いているか分からないぞ?」

「あなたねっ
人をからかうのもいい加減にしてよ」


「ははっ」


 おだんごに軽く笑いかけながら
 視線だけは角から覗いているオレの方をずっと向いたまま

 あいつ・・・!?
 こっちが見ていると思ってわざとやっている


「くっ・・・」

 妖しい雰囲気に声も掛けられず
 二人の姿が見えなくなるまでその場に立ち尽くしているしかなかった












「星野ったら戻ってくるの遅いっ
もう予鈴とっくに鳴っちゃったわよ」


「・・・よう」

 教室に戻るとおだんごはもう席についていた
 じっと、きょとんとする瞳を凝視する


「・・・?」

 いつもと変わらない無邪気な様子
 それを見てこっちも普通に振舞ってみた


「いやー放送部の子と話し込んでいたら遅くなっちゃってさ
でもなんとか間に合ったな」

「あんな事して
先生に目つけられちゃったんじゃない?」



「さっきの放送、聞いていたか?」

「聞いてたわよ
あんた、よくあんな大胆な事出来るわよね
先生に怒られても知らないわよ」

「別にいいよ、怒られるくらい


聴いて欲しかったんだ・・・おまえに」

 勝手な事をするなと
 大気達にも後で言われるだろう

 それでも、おまえに聴いて欲しかったんだ



「どうだった?
オレの歌」

「なんだか、切ない曲だった

・・・色々思い出しちゃったよ」


「かっこよかっただろ」

「まあそこはね、
初めてちゃんと聴いたけど
さすがはアイドルだって思ったかな」

「何だ
やっとオレの良さに気づいたか?
今更だけどファンになってもいいんだぜ
ちょっと気づくのが遅かったけど
それは許してやるからさ」

「・・・相変わらず自意識過剰なヤツ
べーだ!」




「なあ、おだんご」

「なあに?」


「いや・・・

・・・今日も放課後はソフトボールの特訓だぞっ
気合入れて行くか!」

「えー今日は止めようよ
試験期間は部活も休みじゃない?
ちょっと勉強したいし、中間終わるまで休憩ね」


「なんだよ、情熱が足りないぜ?」

「今は情熱より
赤点取った時のママの雷の方が怖いよ」



「ねえねえっうさぎちゃん!」

「あっ美奈子ちゃん、まこちゃん
どしたの?」


「放課後さあ、ゲーセン行かない?
セーラーVちゃんの新作のゲームが今日解禁なのよね」

「あー
今日はちょっと・・・;

試験前だからお勉強しないとだし」

「へえー
うさぎちゃんの口から勉強なんて言葉が出るなんてね
明日は雨かな?」

「やだなあ
あたしだってやる時はやるんだから」

「なーんだあ、つまんないの」

「ごめーん!
えへへっ」


「・・・・・」



「星野?」

「・・・えっ?」

「どうしたのよ、ぼーっとして」

「いや、・・・別に」


「あんたもさ、ちょっとは勉強しておかないと
アイドルが赤点なんてかっこわるいわよ?」

「おまえ、
オレがやる時はやる男だって知らないだろ
見てろよ?
赤点娘なんて目じゃないぜ」

「んむむっ」



ガラッ


「あっ先生が来た
うさぎちゃん、また後でねっ」

「うん、ばいばーい」


 いつもと変わらない午後の授業が始まった

 静まり返った教室の中
 チョークの音だけが耳に入ってくる


「・・・・・」

 授業の内容なんて・・・頭に入ってこない

 前の席でうつらうつらと揺れている
 おだんごの後ろ姿を眺めた


 ・・・やっぱりおかしい
 おだんごの最近の態度と行動は

 一見普通に振舞っているけど
 何気なく尋ねた質問に口篭ったり
 絶えず何かを隠しているような様子をしていたり
 ふとした時に違和感を感じる


 ・・・オレだけなのか?
 彼女の変化に気づいているのは

 こんなに席が近くだから
 他の人より変化に気づきやすいのだろうか
 それとも・・・



 頭の中を色々な考えがぐるぐると駆け回る

 最近おだんごはあまり教室にいない
 昼休みも放課後もどこかに行っている


 まさか・・
 こいつ、いつも昼休み会長といるのか?



 さっきのあの光景を思い出した
 生徒会長と二人で歩いていた時の様子を

 偶然に二人が廊下で一緒になったようには見えなかった
 この前見かけた時だって
 同じ方向から歩いて来ていたじゃないか

 雰囲気もどことなく
 普通の先輩後輩という感じではなかった


 何だったんだ・・あいつの態度は
 こっちに気づいて向けてきたあの余裕の笑み
 嘲笑う視線
 二人の仲をオレに見せ付けているような・・・
 思い出すだけでむかっとしてくる


 直感だ
 あいつは彼女を・・・



 おだんご
 おまえは会長の事をどう思っているんだよ

 オレの話はいつも途中で切るくせに
 あいつの話はちゃんと最後まで聞いているのか?



「オレには『あんた』で
会長には『あなた』・・・か」

 普段みんなの前ではおだんごもヤツを「先輩」と言っているけど
 二人のときは「あなた」と呼んでいるみたいだった

 注目していなければ気がつかない
 だけどそんなちょっとした事に内面が現れる
 あいつを、特別視しているように感じた

 会長も「うさぎ」っておだんごを呼び捨てか


 あいつは分かっているのか?
 おだんごには彼氏が・・・


「・・・っ・・」

 揺れているおだんご自身より
 彼女の事情を何も考えないで
 自分の好き勝手に振舞っている相手の方に無性に腹が立ってきた

 あいつめ・・・


 忠告してやる
 おだんごの友人として、あの男に



 決意を固めてぎゅっと拳を握った