「・・・疲れた」
うさぎの家の後始末を終えると
既に朝日が昇る時間になっていた
それから一度自宅に戻ったが寝る時間もほとんど無く
結局徹夜で登校する羽目になってしまったが
さすがにきつい・・・
これから午後の授業があるとは
考えたくもない
「ふわー
・・・おーはーよー」
寝不足の元凶が
あくびをしながら階段を上がってくる
「何が『おはよう』だ
もう昼過ぎだぞ」
「いやーもう寝不足過ぎてさ
授業中ずーっと居眠りしちゃってたよ
あはははっ
だからあんまり眠くは無いんだけど
昨日の戦いで筋肉痛がひどくってさ
もう体中ギッシギシ!」
「おまえは本当にめでたいやつだな」
「デマンドも午後は居眠りしちゃえば?
すっきりするよん」
「・・・生徒会長がそんな失態できるか」
「会長だからできないの?
別にそんなの関係ないじゃん
あなたって変な所気にするんだから」
「おまえは気にしなさ過ぎだ
よく人前でだらしない寝顔を見せられるな
居眠りばかりしているとアホ面が戻らなくなるぞ」
「・・・ふーんだ
もうデマンドに何言われても気にしないことにしたんだもんねっ
べーだ!」
こちらに舌を出し小憎らしい様子を見せ付けてきた
「・・・ははっ」
「何がおかしいのよ?」
「今までわたしの言う事を一応は気にしていたのだな
何も考えていない単細胞な奴だと思っていたが」
「しっ失礼ね!
どうしていつもそういう言い方しか出来ないのよっあなたは
あーもうっデマンドのばかばかばかっ」
「何だ、もう降参か
つまらんな」
「んむむむっ
・・・そんな涼しい顔をしていられるのも今のうちなんだからね
そのうちものすごい仕返ししてやるんだからっ」
「足りない頭で何を思いつくかは知らないが
楽しみにしておいてやろう」
「・・・ふんっ」
そのまましばらく二人の空間に沈黙が走る
「うさぎ」
「・・・何よ?」
「そんなに遠くにいないで
こちらへ来い」
「用があるなら
デマンドがこっち来たら?」
「いいから来い」
「・・・・・・」
ふてくされた顔をしつつも言う事を聞いて近づいてきた
そのまますぐ隣に腰を下ろす
「今更ご機嫌取ろうたってそうは行かないわよ?
いっつもそうやって都合が悪くなると誤魔化して・・・
!?
ちょっと!なっ何するの」
文句を受け流して彼女の膝の上に頭を沈めた
オロオロとたじろぐ様子があまりに露骨で
我知らず笑いが込み上げてくる
「このまま少し休ませろ」
「えっ、やだっっ
恥ずかしいから降りてよ!」
「おまえのせいで寝不足になったのだから
これくらいしても罰は当たらないと思わないか?」
「だからって・・・こんな所で」
「誰も見ていない」
「そういう事言ってるんじゃ・・っ」
「ここでしか
わたしは居眠りも出来ないのだぞ」
「・・・っ・・
分かった・・わよ
確かに寝不足の原因はあたしな訳だし
でも、今回だけ特別よ?
予鈴が鳴るまでだからね」
「・・・・・・」
心地よい温もりが徹夜の疲労感を包み込む
そっと前髪に触れてくる指先にまどろみつつ彼女を見上げると
こちらを眺める穏やかな瞳と視線が合った
「ねえ、」
「何だ」
「寝るんなら早く目を閉じて
あんまりこっちをじーっと見つめてないでよ
間が持たないでしょ」
「こんな機会は滅多に無いからな
すぐに目を閉じるのは惜しい」
「・・・寝ないのなら降りてください」
「たまにはこのまま話をしても良いだろう
少しはいたわれ」
「もう、仕方ないわね
・・でもありがと
部屋の片付け手伝って貰えて助かったよ」
「それはもう良い
それにしても・・・
あんなに人がたくさん来るとはな
おまえは友人が多過ぎる」
「そう?」
「誰とでもすぐ仲良くなれるのがおまえの特技だと知ってはいたが
・・・あの人数はさすがに予測出来なかった」
「でもさ、
デマンドも色んな人とお話できて良かったでしょ?」
「わたしはできたら静かに過ごしたかったが
おまえと二人きりで朝までとかな」
「そういう下心見え見えの案は却下します!
でもさ、
星野とかともっと話したら良かったのに」
「・・なぜあいつと話をしなければいけないのだ」
「えーだって楽しそうじゃない?
男同士の友情とか
そういうの芽生えたらかっこいいと思ったのになあ」
こいつ、そんな事企んでいたのか
こちらの気も知らずに無思慮な策略を図りおって・・
「それは無理だな」
「え?どして??」
「さあ、なぜだろう
自分で考えろ」
「???」
「星野達以外にも・・・
他にもいただろう
途中から来たバイオリニストとその連れとかな」
「ああ、はるかさんとみちるさん?」
「学校の者だけではなく、変わった所にも友人がいるのだな
一体どういう繋がりだ」
「うーん、・・説明すると長いのよね
それはそれは複雑な関係って事で」
「何だそれは
おまえの友人ならば、まともな者ではないのだろうが」
「それ、どういう意味?」
「あの二人・・・
普通の雰囲気では無かったな」
「あーあの人達はいつでもラブラブだから
よく二人の世界に入り込んでお花畑を背負ってるわよ」
「そうではない」
部屋に入ってきた瞬間
普通の者とはどこか違う気配を感じた
それを察知したのはわたしだけか?
いや、向こうもわたしを意識していたはず
特にみちるとか言う女は・・
表面では絶えず笑顔を振舞っていたが
確実にこちらを警戒していた
まるでうさぎに近づく者すべてを排除するような
・・・護衛のつもりか?
あの過保護ぶりは何だ?
「まさか
あいつらもおまえの仲間なのか?」
「仲間って・・・?」
「セーラー戦士という事だ」
「!!」
「・・・成る程な
それであの態度か」
「あなたって、本当に鋭いんだから
びっくりしちゃうよ
セーラーウラヌスとネプチューンは
あたし達とは別行動してる方が多いのよね
昨日みたいに一緒に戦ったの久しぶりだったわ」
「・・・あいつらか」
「え?何が?」
「花びらを撒き散らして逃げていったのは・・
片付ける身にもなって欲しいわ」
「あははは;」
「あんな奴等・・・30世紀にいたか?
一体セーラー戦士は何人いるのだ」
「えーでも
あとはセーラープルートでしょ
それとサターンと・・・それくらいだよ?」
「時の番人の存在はわたしも噂に聞いた事はある
だが他の3人はそれ自体知らなかったな」
「うーん・・・
あの4人は外部太陽系戦士だから
美奈子ちゃんたち4人は地球と月の周りをいつも守っているんだけど
彼女達は主に
太陽系の外から侵入者が入って来ないように監視しているみたいで
あんまり表には出てこないのよね
自分達の守護星によくこもっていたりとか
もしかしたら未来ではそうなんじゃないのかな?」
「任務が違うという訳か」
「あ、外部太陽系って言っても
セーラーサターンだけは役割が別ね
この子は星を破壊するくらいの力を秘めてるから
簡単に力は使えないの」
こいつは・・・
聞けば何でもベラベラとしゃべるが
「自覚が足り無いな」
「・・はい?」
「おまえ、内部情報を暴露しすぎだぞ
わたしが敵だったらどうするつもりだ
未来の女王としてはまだまだだな」
「あはははっ
なーに言ってんのよ!
今のあなたはただの生徒会長さんでしょ?
そんな事より早く寝なさいってば
寝れないなら子守唄でも歌ってあげようかー?」
「・・・結構だ」
きっぱりと断ったというのに
気にせず鼻歌を歌いながら髪の毛を撫でてくる
「ねーむれねむれ〜
うさぎちゃんのお膝の上で〜〜♪」
「そんな音痴で歌われても
余計目が覚めるわ
おまえは・・いつも楽しそうだな」
「えーだって楽しいもん
大事な仲間もいるしさ
みんないっぱい遊んでくれるし
ねえデマンド
昨日みんなと遊んで、楽しかった?」
「何だ・・いきなり」
「文句言ってた割には
結構楽しそうにトランプとかしてたじゃない?」
「別に楽しくしていた訳ではない
おまえが無理に引き込んだのだろうが」
「そう?
そんな感じには見えなかったけどなー?
ふふふっ」
得意げな顔がこちらを覗き込む
「・・何が可笑しいのだ」
「デマンドさ
なんか変わったよね」
「どう変わったと?」
「すごく、可愛くなった
前はずっと固くて冷たいイメージしかなかったけど
色んな表情をちゃーんと持ってるじゃない
もったいつけてないでもっと見せてよ」
可愛いだと?
小娘に可愛いと言われて
喜ぶと思っているのかこいつは
しかし、本当にそう見えるのか?
油断が出てきたのだろうか・・・
自分の隙だらけな様を人前に曝け出すのは不本意極まりない
「昨日は少し大人気無かった
たかがトランプにあそこまでむきになることはなかったな
・・・だからとそれはわたしの本意ではない
おまえの能天気さに毒されただけだ」
「でも、みんなかなり好印象だったみたいだよ?」
「おまえ以外に・・・どう思われようとどうでも良い」
「そういう孤立するようなこと言わないの!
ねえ、もっと友達作ったほうがいいよ
そうだ、今度またみんなとお出かけしない?
みちるさんのジョイントコンサートも楽しかったでしょ」
「あれは無理矢理チケットを押し付けられて
仕方なく行っただけだ
わたしは他人と馴れ合う事を元から望んでなどいない
自分の価値観を人に押し付けるな」
「何よ・・その根暗な少年みたいな言い訳
もっとさ、みんなを信じなよ
ここはこんなに明るいんだよ?」
・・今日はやけに食って掛かってくるな
いちいち反応を返すのも疲れてきた
人を信じろ、か
仲間にずっと守られて生きてきた奴だから簡単に言えるのだろうが
みんな仲良く
それが通らない時だってある
そこを彼女は分かっていない
「なぜ執拗にすべての者を仲良くさせようとする?」
「だって
その方が楽しいもん!」
「うさぎ、・・・前に言っただろう?
わたしはおまえに会う為に転生したのだ
ただそれだけだ
おまえのいる世界がオレのすべてだ
そこに余所者を入れようとするな」
「・・・・また言った」
「何だと?」
「気づいてないの?
デマンドっていつも自分のこと『わたし』って呼んでるけど
最近ふとした時に『オレ』って言ってるんだよね」
「だからどうした」
「『わたし』って言ってる時のデマンドは
いつもどこか冷めていたけど・・・
近頃少しずつ素のあなたが見えてきた感じがするよ
あたしはもっと見たいな?そんなデマンドが
そしてみんなにも見せて欲しいなあ」
「・・・呼び方だけでそこまで深読みするな
的外れにも程がある
おまえ、少しおせっかい過ぎるぞ
いちいち口出ししないで貰おうか」
「何よう
そこまで言わなくてもいいでしょ
本当に困った人なんだから・・・
どうしてそんなに自分を隠そうとするの?
いつも独りで佇んじゃってさ」
「人は少なからず外面を繕って生きているものだ
他人に見られたくない部分など誰にでもあるだろう
所詮、最後は誰もがどこまでも独りなのだ」
「・・・そうやって、
あなたはすべてを背負い込んで
いつも一人で解決しようとするのね」
一息ついて呟く彼女の言葉がやけに重く感じられた
勝手に干渉してきて悩まれても
こちらとしても戸惑うばかりだと分からないのか・・・
なぜそこまでしつこくわたしを人と関わらせようとする?
彼女なりに気を遣っているのだろうか
そんなもの必要無いと、どう言えば伝わるのだ
「・・・孤高のプリンスだからな」
「はあ?
かっこつけてんじゃないわよ
って言うか真面目に聞いてないでしょっ」
「・・なぜそこまで他人に懸命になれる?
わたしの事など、おまえが悩む事では無いだろう」
「なぜって・・・
どうしてだろう
分かんない
でも、ほっとけないんだもん」
「・・・・・・」
その気持ちは彼女にとって真実なのだろうが
おそらく誰にでも同じ様に接するのだろう
・・・誰にでもな
その配慮が誰かを傷つけているとも知らずに
本当にわたしの事を考えていてくれるのなら
おまえはわたしだけを見てくれていればそれで良いと言うのに
なぜそうしない?
他人ともっと接しろと勧めるのも
結局彼女の自己満足から言っている事なのだろう
そんなものにみすみす引っかかってたまるか
こいつの思惑はいつも理解不能でわたしを惑わしてばかりだ
まさか、こうして悩ませるのも何かの策略か?
すべてがおまえの手の内なのだろうか
それとも・・・
「何も考えていないただの馬鹿か・・・
実際はそうなんだろうな」
「ちょっと!
何勝手に自己完結してるのよっ
どう考えたらそういう結論になるわけ?」
「褒めていると言うのに・・・」
「どこが!」
「おまえはいつも全力でぶつかって来る
何事にも、誰にでも
それは中々容易く出来ることでは無い」
傷つくのを恐れないから何にでも全力になれるのだろうか
その立ち向かう姿勢は彼女の戦い方にも垣間見える
諦めず何度でも対峙してくるその瞳に
昔からずっと惹かれ続けてきた
結局それが彼女の一番の魅力か・・・
「・・・ははっ」
「どしたのよ」
「おまえは、何も変わっていないな」
「・・そんなに成長してない?」
「そうではなく
昔わたしが魅せられた、そのままのおまえだ
昨日久しぶりに見た戦う姿も、何もかもな」
「やだっ!
覗き見してたの?
あれだけ変身してる所は見ないでって言っといたのに
嘘つきっっ」
「何も約束した覚えは無い
しかし、外見は随分派手になった」
「確かにあの頃に比べればそうかも
あたしだって少しは成長してるのよ?
あの時はただのセーラームーンだったけど
今は違うんだからねっ
なんてったってエターナルセーラームーンよっ
大飛躍でしょ!」
「あの羽は何で付いている?
空でも飛ぶのか?」
「飛びません!」
「飾りだとしたら邪魔そうだな」
「確かに・・・
狭いところではちょっと戦いにくいかも
昨日の、家の中で戦ったのは辛かったわー
棚のものが引っかかっちゃってもうしっちゃかめっちゃかよ!」
「・・どこが問題だと言うのだ
解決案はごく単純だろう
狭い場所で戦闘を繰り広げるな
屋外で戦えば良い
それよりまず先にそんな邪魔な羽は外せ
かなり動きやすくなる」
「相変わらずつっこみが厳しいんだから
でも、その案は却下ね
あの戦闘服は羽も含めて完成されているのよ!」
「戦闘用の身なりならば
機能性が第一だろう
前から思っていたが・・・
あんなに短いスカートをヒラヒラさせて戦っていて
恥ずかしくはないのか?」
「・・・・ないわ!」
少し悩んだような間はあったが
自信たっぷりに答えられた
「大層な度胸だな
冬場になれば寒いだろうに」
「あら、ああ見えて意外とあったかいのよ?
衝撃にも防寒にも強いし
あたしは手袋とブーツ装備だから肌の露出は意外と少ないの
それにねっ、
女の子は寒さなんか気にしてたらお洒落できないのよ
寒くても足を出すのは乙女の意地なの
あたし達はあの格好で北極に行った事だってあるんだからっ」
「女と言うものは、変な所に意地をかける」
「男なんかに乙女の気持ちは分かんないわよ
べーだ!」
「確かに理解不能だが・・・
あの姿はまた見てみたいな
今一度変身してみろ」
「はいい?!今ここで?
嫌よっ!何でよ」
「おまえの、戦う姿は美しい」
「・・・何それ
まさか、ミニスカートが好きなの?
やだっ変態!!
離れてよっ」
いきなり膝から下ろされて
頭が床と激突する
ズキズキする後頭部を押さえて
ゆっくりと体を起こした
「った・・・
急に動くな、がさつな奴め」
「あなたが変な事言うからでしょっ」
「・・・馬鹿か」
「馬鹿って何よ
変態のくせにっ」
「格好が見たいわけではない
これが好きなのだ」
横に逸らした視線を
顔ごと引き寄せてこちらを向かせる
透き通った青い瞳が
戸惑いながらもじっと見つめてきた
「・・なっ・・何・・・?」
「戦いに身をゆだねる瞬間の
あの前を見据える強い瞳がたまらない
それをずっと手に入れたかった
見せて欲しい」
「そんな事言われても・・・
デマンドは今は敵じゃないもん」
「では、
またわたしが敵になれば戦ってくれるのだな
あの瞳の先にいれるのも悪くは無い」
「・・・・やだよ」
ふっとその表情が曇る
「デマンドが敵になるなんて・・・
またあんな辛い想いをしろって言うの?
そんなの、もう充分・・・」
こちらとしては軽いつもりで言った言葉だったのだが・・
予想以上に深刻に受け取られてしまったようだ
「・・・思い出させてすまなかった」
「デマンドのばか
どうしてそんなひどい事言えるのよ」
どう取り繕えばいいのか・・
とりあえず頭を撫でてなだめてみる
「謝っただろう?
もう機嫌を直せ」
「・・・知らない」
「うさぎ・・
あまり困らせるな」
「本当にいいの?
そんな事になったらね
・・・もう遊んであげないし話し相手にもなってあげないし
こうして、隣にいてあげる事だって・・」
俯いたまま
やりきれない声が囁いてきた
わたしと敵対するのは辛い、か
今となっては過ぎた事でも
彼女にとっては一生忘れる事の無い
苦しい経験だったはずだ
軽率だったか・・
「・・・妬いてたかな
かつてあの瞳はわたしに向けられていたのにと考えたら
少し悔しくなった
だが、今はそれもすぐ隣に
手を伸ばせば届く所にある
こんなに近くにな・・・」
「・・デマンド」
そっと彼女の顔を覗いたら
大きな瞳が少し潤んでいるように見えた
また泣かせてしまうのか・・・
「もうそんな顔はするな
心が痛む
わたしがおまえに夢中なのは分かっているだろう?
望むのなら、ずっとここに居よう」
「・・・うん」
その頷きはどちらに対しての答えなのだろうか
望むのならば、いつまでも・・・
おまえはわたしを望んでくれるのか?
それを確認しようと静かに近づくと
わたしを待つように彼女が瞳を閉じる
「うさぎ、目を閉じるな」
「・・・しないの?キス」
「おまえの瞳にわたしだけが映っているのを見ていたい
そのまま開けていろ」
「・・・・・・・」
「その瞳だ
まっすぐ見つめるその先に
ずっと居る事が出来ればもう・・」
静かな空間にわたしとおまえの二人きり
誰もここへ邪魔など出来るものか
「おだんごーーっっっ」
「・・・っ!!」
「あっ・・星野・・・?」
「どこ行ったーー?
ソフトボールの特訓逃げようたって
そうはいかないぜっ」
信じられん
あんなに大声で叫びながら廊下を歩くか?
ヤツめ・・・
なんというタイミングを計ってやって来る
「ごめん・・・行って来る」
「全く、良い雰囲気になるといつも邪魔が入る
続きは後でするか」
「後って・・
やだっ
いつする気よ!」
「放課後ここでも良いし
またうちに来ても良いが」
「そ・・そんな事が目的で会いになんて行かないんだからねっ
自惚れてるんじゃないわよっ」
「ならば
このまま今のうちにしてしまおう
すぐに済む」
「・・・っ・・」
「おーーーいおだんごっ
おーだーんーごーー」
「ちょっと星野!!」
「あたっ」
いきなり後ろからげんこつが飛んでくる
「やっと見つけたぞっおだんご!」
「やめてよね!
そういう恥ずかしい事するのっっ」
「だってどこ探してもおまえいないんだもん
どこに行って
・・・あ」
彼女の後ろからいけ好かないヤツがやって来た
「・・・こんにちは
昨日はどうも」
「・・・・・」
相変わらず無視かよ
社交辞令くらいしろよ
何だか昨日より更に機嫌が悪そうだ・・・
「うさぎ、またな」
「あ、うん」
おだんごにだけ声をかけて廊下の角へ消えて行った
またな、だって?
「・・・・・・」
「どしたの?星野」
「いや・・・
会長と同じ方向から来てたけど
あいつと一緒にいたのか?」
「え・・と・・・
そっそんなの
別に星野には関係ないじゃない」
「何うろたえてんだよ・・怪しい奴
昨日から気になってたけどさ
・・・あいつなんでおまえの名前呼び捨てなんだ?
変だろ、ただの先輩なら」
「はあっ?何言ってるのよ
あんたなんて名前ですら呼んでくれないじゃない
しかも最初から
あたしのフルネーム、覚えてる?」
「・・・月野だんごだろ?」
「だーかーらーっ」
「最近さ
おまえ昼休みは大抵教室にいないじゃん?
だから探してたんだよ
ソフトボールの特訓しないとだろっ」
「えーっ昼休みもやる気なの?
放課後だけで充分じゃん
ていうか今日は徹夜だったんだし
へとへとなんだから休もうよう;」
「おまえ、午前の授業ずっと寝てたんだから
力、有り余ってんだろ?
遠慮するなって!」
「あんたはもう・・
徹夜で眠くないの?」
「睡眠不足でも疲れてても
常に笑顔はアイドルの基本だぜ?」
「・・・アイドルの基本を一般人にあてないでよ」
「アイドルのオレも頑張ってるんだから
おだんごもガッツ出せよ!
いいか?
放課後は特訓だぞっ!」
「やーめーてー;」
逃げようとするおだんごの腕を引きずって教室に戻った
・・・何だろう?
さっきから何かが引っかかってもやもやしている
二人が同じ方向から来たからか?
それだけじゃない・・・
あいつといる時のおだんごは、どこかが違う
ふとした時に漠然とそう感じる
オレの思い込みか
いや、あれは・・・
「・・・・・・」
「ねえ、
星野ったら!」
「!!
あ・・・と・・何?」
「今日ぐらいさあ、特訓ごめんしてよ?ね?」
手を合わせて必死にお願いするおだんごの姿
いつもと変わらないその様子を見ていると
ただの気のせいかなとも思えてくる
・・・そうさ、考え過ぎさ
何を悩んでるんだろう、オレは
こいつに隠し事が出来ないのはよく知っているはずなのに
「・・・おだんご?」
「えっ休みにする?
やったー!」
ぬか喜びしている笑顔に気合を入れ直してやる!
「そんなことでソフトボールの星になれるかよ!
今日は昨日の分もみっちりしごいてやるからなっ」
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