「星野っ
早く、こっちこっち!」

「こんな所に隠れるのかよっ」

「いいからっ」

 ちびちびを抱っこしたおだんごに誘導されて
 2階の部屋の押入れに隠れた



「・・・狭いな」

「ちょっと、
あんまりこっちに来ないでっ」

「こんな所に大人二人も入ってれば
きついのは仕方ないだろ?」

「そんなこと言ってさ
暗いのをいいことに何するつもりだか・・・

あっ今変な所触ったでしょっ」

「触ってねえよっ」


「しーっ」


「・・・!」
「・・・っ・・」

 ちびちびに注意されて口を閉じた

 そのまま
 下の階から聞こえてくるテレビ局の人とのやり取りを
 じっと息を殺して聞き続ける





「・・・二人きりだな」

「はい?
何をいきなり・・・

それに二人きりじゃないし
ちびちびもいるじゃん」

「そうじゃなくて
今日は来た時から誰かがずっと近くに居ただろ?

だから・・・」


「どしたの?」

 こんな状況で言うべきではないのかもしれない
 だけど、タイミングは今しかない気がする



「なあ、おだんご

オレ
今日おまえに言っておきたい事があったんだ」

「それを今言うの?

こんな所で?」

「もう、ここを逃したら二人きりにはなれないだろ?」


「それって
二人きりじゃないと言えない事?」

「ああ、
どうか笑わないで聞いて欲しい」


「・・・うん」

 こっちの真面目な様子に向こうも畏まった



「あの・・・っ・・」

 どう切り出せばいいんだろう
 唐突に話しても信じて貰えるかどうか・・





「・・・オレ達さ、アイドルやってるだろ?
それは、ある方を探し出す為なんだ」


「ある方?」

「そう、
オレ達は銀河でたった一人の方に気付いてもらいたくて
いつも声を張り上げているんだ」

「それって、誰の事なの?」



「たった一人の、・・女性さ」

「女性・・・」


 あのお方を見つけ出す事
 それがオレ達の使命
 そして、希望の光を探し出す事も・・・

 その為に、ここに居るんだ
 それをおだんごに知ってもらいたい


 こんな事
 彼女に話したからってどうにもならないかもしれない
 独断で勝手な行動をしたら仲間にも怒られるだろう
 だけど、どうしても知りたいんだ

 オレは確実におまえの持つ光に惹かれている
 他の人とは違う何かを感じるんだ
 その直感を信じたい
 少なくとも今のオレにはおだんごが必要だ


 そう打ち明けて、聞きたい
 おまえの持っている光は
 オレ達の切望している希望の光なのかと

 だとしたら、どうか・・・



「おだんご、オレさ


・・・オレのことをもっと知って欲しい!
おまえのことが知りたいんだ!!」


「え、あの・・・ちょっと
そんな事いきなり言われても」

「だめなのか?」


「だめって言うか何と言うか・・

星野とはお友達なのに」

「友達なら何だって言うんだよっ」

 鬼気迫る迫力で問い詰めた



「しー?」

 そんな二人の間に可愛い邪魔が割って入る


「あ、ごめんな?
静かにしないとだよな」




「・・・ちゅー?」

「え、あっ・・いや

そういう事じゃ・・・」



「ちゅーなの?

また?」

「・・・また?」

「!?
だから違うのよっちびちび」



「さっきから気になってたんだけど
おまえ、・・・会長と二人で何してたんだ?」

「ごごこ誤解よっ
何もしてないったら!

あんたこそ変な雰囲気にしないで
ちびちびがまた勘違いするでしょっ」


「またって何だよ!
おまえやっぱり・・・」





「うわーっ!!」

「!!」

 下の階から男の人の悲鳴
 あれは、・・・まさか!?


「どうしたんだ・・
いきなり下が騒がしくなったな」



「星野・・・
ここにいてくれる?」

「おだんご?

おいっどこ行くんだ!?」


「ちょっと様子を見てくるから
ちびちびをお願い!」

 星野にちびちびを任せて
 急いで1階へ下りていった







「ちょっと
何なのよっあんた達は!」

「部外者はそこで大人しく見てるがいいわ!

セイレーン!スターシードを!!」



「・・・何でしょう?クロウさん」

「あんたっっ!
そんなの食べてる場合じゃないでしょっ
一体何やってんのよこのピザ女はっ」

「だって
勿体無いじゃないですかあ
食べ物は大事にしなさいって
お母さんから言われて育ちましたもの

クロウさんもお一ついかがです?」


「あんたねっ時と場合を考えなさいよ!
第一どうしてあたしが毎回こんな一生懸命に
お膳立てしてやらなきゃいけないのよっ」

「本当に、優しいんですのねクロウさん
ありがとうございます」


「あんたは・・・
何を言っても糠に釘状態なんだから
怒る気力も失せるわ;」

「皆さん、よくそう言われます」


「褒めてるんじゃないってば!

もういいから、気が済んだらやっちゃいなさい
ターゲットはあの男よ!」



「何者だっ君たちは!」

「ご馳走様でした
申し遅れまして
わたくしセーラーアルーミナムセイレーンと申します
どうぞよろしくお願い致します

ご挨拶も済みましたので・・・それでは失礼!致しますっ」


「!?」

「だめーーっ」



「美奈子ちゃんの声!」

 リビングから強烈な光が差し込んでくる



「やっぱり敵が現れたのね・・
早く変身しないとだわ」

 他のみんなを探している暇は無い
 あたしだけでも先に行かないと


 どこか変身の言葉を唱える場所は・・・
 少し辺りを見回して
 トイレのドアを勢い良く開けた



「うわっ!」

「!?」

 中に詰まっていた3人が反動で飛び出してくる



「うさぎちゃん、大丈夫?」

「あたた;」

「何事です?」


「ごめんなさいっ
そのまま隠れてて大丈夫だから


・・・まこちゃん、リビングに」

「!?


・・・分かったよ」

 こっそりと耳打ちをしてその場を離れた


 どうしよう・・・
 そうだ!お風呂場へ行けば

 引き戸を開けて誰もいないのを確認すると
 そのまま空に言葉を放つ



「ムーン・・・っ」

「・・うさぎっ」

「!!」

 風呂桶の中からまたもや二人が顔を出した



「・・・どうしたの?」

「な、何でもないよ!
お邪魔しましたっ」


「うさぎ、後で行くわ」

「・・うん、」

 察したレイちゃんに目配せをして廊下に出る



「ああもうっ
あたしったらかくれんぼの鬼みたいじゃん
一体どこでなら変身できるのよう;」

 思いつく最後の場所は・・・






「・・・誰もいませんねー?」

 蓋の隙間から頭だけ覗かせて屋根裏の中を見回してみた

 ここはちびうさが未来に帰ってから使っていない空間
 さすがに誰もいないみたい



「えっと
星野は押入れ、大気さんはトイレで夜天君がお風呂の中・・・

うん、大丈夫!」

 今度こそ邪魔されないもんねっ




「ムーンエターナル・・」


「・・・うさぎ?」

「!?」


「もう出ても良いのか?」

「デマンド!!」

 後ろを振り向いたらクローゼットの奥から
 デマンドがこっちの様子を伺っていた

 ・・・すっかり忘れてたわ、この人の事




「あの・・・て、敵が・・っ」

「・・・?」


 どうしよう・・・
 早く助けに行かないとなのに
 他の所はみんなが隠れているし
 もう、ここしかないよ

 この人ならある程度事情も知っている
 説明すれば分かってくれるかも




「あのね、リビングで今
テレビ局の人が襲われているみたいで
だから・・あたし行かないとなの」

「先程から下が騒がしいと思ったら・・

戦士はいつでもどこでも大変だな
行って来い、健闘を祈ろう」


「あの、だからさあ」

「どうした」



「・・・後ろ、向いてて」

「なぜだ」


「変身する場所がここしかないの
たった今変身しないといけないのよ」

「すれば良いだろう
わたしがいては変身できないのか?」


「・・・っ・・

あのねっ
変身する時に一瞬裸になるのよっっ」

「わたしは別に構わない」

「あたしは構うのっ!」



「きゃーーっっ」



「!?」

 下の階から女の人の悲鳴?



「新たな時代に誘われて
セーラーウラヌス華麗に活躍!」

「同じくセーラーネプチューン
優雅に活躍!」


「ちょっとセイレーン
何きゃーきゃー言ってんのよ!
あんな奴ら何て事無いでしょっ」

「しっ・・・信じられませんわ


土足でテーブルの上に乗るなんてっ

それに、こんなに花びらを振り撒いて
お片づけはどうするおつもり?」


「あっ・・いや、つい」

「わたしとした事が・・ごめんなさい」



 ・・・・・・・・・

 まさか、あの人達


 あのまま部屋の中で戦ってるの?!



「たたた大変!!
早く行って止めないと;」

 部屋中がひどい事になっちゃうとママに怒られる・・
 敵よりそっちの方が怖いよっ



 ずっと興味津々にこっちを眺めている瞳をキッと睨んで
 乱暴に布団を被せた



「とにかく後ろ向いてっ
すぐ済むから、絶対覗かないでよ!」

 なんか近くに人がいると思うと恥ずかしいけど・・・
 そんなこと言ってられない


 助けを待つ人の為に
 ・・このままだと崩壊してしまう部屋の為に

 変身よ!!


「ムーンエターナルメイクアップ!」


パアアアア





「・・・っ・・」


「・・・よし、

じゃあデマンド、行ってくるね!」

 目の前の布団の塊に一声かけて
 惨状の現場へ突撃よ!








「・・・・・・」

 嵐の過ぎ去った後のように
 辺りが一気に静まり返った

 状況のギャップに少々戸惑いつつ一部始終を振り返る



 温かい光にほんの一瞬包まれたと思ったら
 そこにはもう、一人の戦士が立っていた

 降りていく刹那に捉えた少女の姿
 真っ直ぐ前を向く凛とした瞳
 その視線の先に迷いは一切見られない

 戦いの使命を胸に秘めた女神は
 背中に生えた翼でわたしの元から瞬く間に飛び去って行ってしまった



「・・強いな」

 ああ言う所は前から何も変わっていない
 いや、あの頃よりもずっと・・・



 ・・・参ったな
 あの姿にわたしは弱い
 初めて出会った瞬間から魅了され続け
 もはや逃れる事は一生不可能なのかもしれない


 その場にあったベッドの上に横たわり
 先程までの余韻に浸りつつ
 耳に入ってくる下の様子をしばらく聞いていた




「ムーンピザアクション!


こらっ!その悪い子ちゃん
人のうちでこんなに暴れ回って
スプラッタの後始末は一体誰がすると思ってるのよっ
月に代わって・・・」

「セーラームーン!
決め台詞は飛ばせ!
狭い場所でするべきじゃない」

「後ろで羽がぶつかっていてよ?
それに、食べ物を投げてはいけないわ」


「何ようっ
自分達は登場シーンもちゃっかりばっちり決めといてさ

ティアラ投げたかったけど今は付けてないんだもん!」


「あたし達もお忘れなく!」

「悪い奴が現れればいつでもどこでもかけつける」

「セーラーチームただ今参上!」


「みんなっ

・・・ちょっときつくなってきたからもう少し端に並んで;」




「・・・夜の暗闇貫いて」

「自由の大気駆け抜ける」

「三つの聖なる流れ星

セーラースターライツステージオン!」



「ちょっとちょっと!
どうして3人揃って来るのよっ

少しは空気呼んで代表者一人だけ来なさいよね!」

「そっちこそ人増えてるじゃない!」


「こーんな狭い所にこんなたくさんの人が入るわけないでしょっ」

「狭くて悪かったわね!
これでも12畳あるんだからねっ」


「ジュピター
ピザを踏んでるわっそこ!」

「ああーんもうっ
誰でもいいからあたしを早く助けてよう;」


ガッシャーン!




「・・・・・・」

 あいつら、何をしている

 あんな狭い場所で戦いを続行せず
 中断して外に出れば良いものを・・・
 うさぎだけではなく、全員ただの馬鹿だな

 この目で確認しなくとも
 部屋の中の惨状が容易に推測できる
 おそらく片付けを開始すれば徹夜だろう


 ・・・今のうちに帰りたい




 しばらく物の壊れる音や
 やたらと大声で叫ぶ
 おそらく攻撃技であろうその言葉が幾度も飛び交ったりしていたが
 極めて鮮烈な光が差し込んできたと思ったら

 その後、いきなり静かになった





「・・・お待たせ」

 意気込んで飛び出して行った先刻とは打って変わり
 ぐったりとした様子でうさぎが戻って来る

 その姿を見れば聞かなくても分かるが・・



「・・・下はどうなった?」


「聞かないで;

はるかさんもみちるさんも
ライツの二人もそそくさと帰っちゃったよ・・・」

「賢明な選択だ

わたしもそろそろ・・・」


「待ってよ」

 立ち去ろうとする背中をしっかりと引き止められた



「・・・一般市民には関係ない事だろう?」


「そりゃないよう;

ねえ、デマンド・・・」

「何だ?」


「・・・片付け、


手伝ってーー!」

「やれやれ・・」










「片付けもしないで出てきて
おだんご達に悪い事したかな?」

 気の毒そうに後ろを振り向くはるかに
 にっこりと微笑を向けてあげた


「大丈夫よ
戦いの後片付けも出来ないなんて
そんなの、戦士として失格よ?
それも務めのうちね」

「僕達だってそうなんだけどね・・」


「ふふっ
わたし達は外部からの敵に目を配るのが使命だから」

「いい性格してるよ、みちるは」


「あらそう?

とっても効率的な分担業務だと思うけど」

「はは;」


 秋の気配を感じさせるような
 心地よい夜風がふわっと頬を撫でる





「ねえ、感じた?」


「アイドルの奴らか?

・・・やはり只者ではなさそうだな
いつもあいつらの周りで何かが起こっている
今日だって・・」

「彼らもそうだけれど・・・」


「みちる?」

「・・・・・・」

 それだけではなかった
 あの空間で感じた異様な気配は・・



「あの
彼女達の高校の生徒会長と呼ばれていた彼」

「彼に特別な何かを感じたのかい?」


「いいえ、
特殊なエナジーは感じられなかったけど・・・」


 そう、今は

 もしかしたら
 まだそれが目覚めていないだけで
 あの人も何か底知れない力を秘めているのかもしれない



「・・・まあ、あの中に一人
ただの一般人が紛れていると考える方が不自然かもしれないな」

「そうね」

 これはただの考え過ぎ?
 それとも予感かしら

 いずれにしても
 それがどちらなのか分かる日は必ずいつか来る




「みちる」

「なあに?」


「今後どんな事が起きたとしても
僕達は与えられた使命を全うするだけさ
二人でなら何でも乗り越えられる

そうだろ?」

「ええ、そうね
今までも、そしてこれからも」

 はるかとならどんな困難だって立ち向かって行ける

 例え明日世界が終わるのだとしても
 あなたと二人でいられるのなら・・・




「夜風はもう冷えるな
みちる、寒くないのかい?」


「平気よ、

貴方が温めてくれるんでしょう?」