「へえー
泥棒が出てるんだ」

 登校して一番に出た話題はそんな物騒な話だった

 楽しかった夏休みも終わり
 まだ暑いのに2学期が始まる



「最近この辺りを荒らしているんですって」

「気をつけないとな
うちは一人暮らしだし・・・」


「えー・・・怖いなあ」

「うさぎちゃんちは人数多いじゃない」

「それが・・・

今夜は一人きりでお留守番なの;」

「あらー
・・・まだ若いのにねえ、お気の毒に」

「そっ・・そんなあ

ううっ
どうしてこういう時に限って・・」




「オレがボディーガードやってやるよ!」


「・・星野?」

 いきなり後ろからぽん、と背中を叩かれた


「おっはよー!おだんご
おまえも大変だなあ
今晩ならアイドルの仕事も無いし
何ならおまえの家に行ってやってもいいぜ?」


「いいの?」

「泥棒が来たら
捕まえてやればいいんだろ?
軽い軽い!」

「星野・・
あんたもたまにはいい所あるのね
ありがとう!お願いっ」


「それって
つまり星野君がうさぎちゃんちへ泊まるって事だよな?」

「えー!
そんなのってずるいっ」

「抜け駆けはいけないわよね」

「抜け駆けって;
やだなあ、そんなんじゃないってば」








「・・・と言うわけで

今日の放課後は会えません!」



「・・・何が
『と言うわけで』だ」

 昼休みにいつもの場所でうさぎを待っていたら
 開口一番にそう告げられた


「それで?」

「まあーデマンドもあたしに会えなくて
寂しいと思うけど、我慢してね?

じゃあそういう事で」


「待て」

 そのまま立ち去ろうとする後姿を制止する


「何よ?」

「なぜ会えないと言う?」


「だって
お客さんがおうちに来るから・・」

「それは今聞いた」

「だから、ここに放課後来ている暇は無いのよ」

「別にここで会わなくても良いだろう


わたしも行ってはいけないのか?」



「・・・どこに?」

「おまえの家にだ」


「はいい?!」

 こちらの言葉に
 目を丸くして驚きの声をあげた



「デマンドも・・
来たいの?」

「・・・・・・」

 その問いに頷くのは正しくは無い

 自分の意思で行きたい、と言うよりは
 介入せざるを得ないと判断した結果の提案だった


 家に誰も居ない時に男を連れ込むだと?
 一体何を考えている・・・
 相変らず何も考えていないのだろうが

 彼女は
 色々な物事に対して警戒するという事を覚えた方が良い
 あまりの無防備さに少々呆れてしまった

 泥棒に襲われる前に目の前の番犬に足をすくわれるぞ


「・・護衛は多いに越したことは無いだろう?」



「うーん・・・」

 突然家に来るなんて言われてちょっとびっくりしたけど
 星野にお願いして彼は別にいいって言うのも変なのかな

 考えてみると星野と二人っていうのも寂しいし
 人が増えた方が賑やかだよね

 そういえば
 デマンドって男の友達とかいないのかな
 あんまり仲の良い友達がいるって感じのイメージがない


 ・・・そうよっ!

 頭の中で電球がパッと閃いた

 いい事考えちゃった
 星野も、いつもスリーライツの二人とずっと一緒にいたり
 あたしにばっかりちょっかい出してきたりするけど
 男の友達だって必要よね

 転校してきたばかりで、しかもアイドルって所で
 どうしても周りから敬遠されてるみたいだけど
 きっかけさえあればきっと仲良くなれる

 男の友情とか何だかかっこいい!


 いい案が急に思い浮かんで一人にんまりとしていたら
 目の前の人が訝しげな眼差しでこっちの様子をじっと警戒してくる


「何をニヤニヤしている?」

「別にー?

うん、いいよ!
デマンドもおいでよ

待ち合わせどうする?
色々と準備もあるだろうし
一度家に戻るんでしょ?」

「いや、別にこのままで良い
おまえに付いて帰ろう」


「はあ、そうですか」

 本当に着替えとかしなくていいのかな・・

 そんなやり取りがあって
 気がついたら一緒に帰ることになっていた






「お待たせーっ
あれま、早いのね」

 ホームルームが終わってすぐに教室を出てきたのに
 待ち合わせの校門の前に行ったらもうデマンドは来ていた


「行くぞ」

 一言告げるとそのまま先を歩き出す
 慌ててその後を追った


 少し早い歩幅に追いつこうとしても中々間に合わない
 ・・相変らず自分のペースで歩く人なんだから



「まっ・・待ってよ

デマンド!」


「どうした?」

「・・早いってば
ちょっとは女の子に合わせて歩いてよね」


「・・・・・・」

 そのお願いを受け入れたのか
 あたしが追いつくと横に付いて歩き出した



 一緒に歩く帰り道
 隣にいるのはいつも一緒に帰っているみんなじゃない
 まもちゃんじゃない男の人と並んで歩いているのにも違和感がある

 何だろう
 心なしかぎこちない空気が流れているような
 ・・変な気分


「もしかしてデマンドって
女の子の家遊びに行くの初めて?」

「そうでもない」

「行った事あるんだ」


「気になるのか?」

「そっ・・そんなことないけど」



「・・・今はおまえだけだ」

「何、その言い訳みたいな発言
そんな情報誰も聞いてないよっ
別にあなたの過去なんて全然興味ないんだからね」


「そうか」

 固かった空気が
 変な事聞いたら余計ぎくしゃくしてしまった



「あーもうっ
さっきから何よっ
この付き合いたての恋人同士みたいな雰囲気は!」

「おまえが勝手にそうしているのだろう?」

「あたしだけのせいだっての?

大体、あなたと並んで歩いてるからそう感じるのよ
あたしの半径1m以内に近寄らないでっ」



 いきなり、ピタッと彼の足取りが止まる


「どしたの?」

 もしかして気にしちゃった?

 ・・・と思っていたら手を伸ばして促された



「お先にどうぞ
わたしの1m先を」

「!!
はいはい、案内しますからしっかり付いてきてくださいよっ」

 一人プンプンしながら前に出る
 そのまましばらく離れて歩いた


「・・・・・・」

「・・・・・・・・」



 もうだめ、降参;




「・・・やっぱり隣にいて」

 後ろからの視線に耐え切れない
 追いつくのを待って最初の立ち位置に戻った


「簡単に主張を変えるな
おまえが近寄るなと言ったから離れたと言うのに

どういうつもりだ」

「あのねっ
あなたが悪いのよ
後ろから変な重圧ずっとかけてきて
ストーカーより彼氏もどきの方がよっぽどましだわ」







「ただいまー!

お客さんですよー」

 室内に呼びかけてみたけど返事がない
 ルナもどこか出かけているのかな?


「まあ、上がっちゃってよ
あたしの部屋二階なの」

 そのまま階段に誘導して部屋に連れて行く


「隣の部屋で着替えてくるから
ちょーっと待っててね」


 バタン



「・・うさぎの部屋か」

 待つ間
 差し当たりする事も無かったから軽く部屋の中を見回してみた

 所々にぬいぐるみが置いてある
 本棚には漫画ばかりだ
 教科書も見当たらないようだが
 もしかして学校から持ち帰って来ていないのか?
 家で全く勉強する気が無いらしい・・


「女の部屋というのは落ち着かないな・・」

 色が多くて目が痛い

 一人では居心地が悪く
 端に避難している事にした



 ふと、視線をわきの家具に落とすと
 そこに置いてあった一つの写真立てが目に入る

 屈託の無い笑顔のうさぎと、その隣に・・・


「・・こんな物を大事に飾っているのか」





「お待たせー!
どしたの?そんな隅っこで
こっちに座ってればいいのに

何してるの?」

 近寄って後ろから覗いてみた


「あっそれは・・」

 まもちゃんと撮った写真
 飾っていたの忘れてた・・・


「・・・・・」

 さすがにちょっと気まずい


「あはははっ
ごめん、向こうに持って・・・」

「そのままで良い」

 その手を止められる


「え・・・でも」


「そんな物、気にはしていない

それより、
今おまえの目の前にいるのは誰だ?」


「目の前って・・

デマンドだけど」

「そうだ
今おまえの傍にいるのはこのわたしだ
わたしだけ見ていれば良い」

「そんな事言われたって・・」

 あたしが気にするんだけど・・
 さっきからどうしても
 ちらちらと視線が写真立てにいっちゃうよ



「うさぎ、」

 頬に寄せられた指先が
 そのまま上を向き唇まで誘導してきた


「ちょっと、待っ・・・」

「・・・見せ付けてやれば良い」


「そんな・・・」

 あたしの後ろめたさを見透かしてわざとしているの?

 だめだよ、まもちゃんの前でキスなんて
 でも、彼の攻めの姿勢に流されて体が動かない
 このままだともう・・



「・・・・・っ・・・」

 何も出来なくて
 しっかり目を閉じてしばらく固まっていた


 ・・・待っていたけど、一向に何もされない



「・・・・・・」

「・・・?」

 薄く目を開けてみたら
 デマンドの手が寸前で止まったまま
 目線が下に落ちていた


「何だ、こいつは」




「・・・ちびー?」

「ちびちび!」

 すっかり忘れてた・・
 つい先日から家に居ついちゃってるこの子の存在

 家族のみんな、知らないうちに洗脳されたみたいで
 今はあたしの妹って事になっている


 そのちびちびが
 あたし達の様子をにこにこしながらずっと眺めていた



「・・・ちゅー?」


「!?
ちょっと、離れてっ」

 慌てて二人の間に距離を置く


「家族なのか?」

「あたしにもよく分かんないの
いつの間にか紛れ込んでいて
気がついたら家族の一員って事になっちゃってたけど」



「・・・おまえの子か?」

「違うってば!
でも、あたしも最初はもしかしてって思ったのよね
また未来から来た娘なのかな?って

だけどそれも何だか違うみたい」


「確かに・・・」

 わたしの記憶にある30世紀には
 女王の娘はラビット一人しかいなかった

 では彼女は誰だ?


 不思議な瞳をしている
 眺めていると瞳の深くまで吸い込まれていくような・・

 その瞳を見ていたら
 ふっと、ある考えが浮かんできた
 ・・まさかな



「ははっ」

「どしたの?」


「いや、・・少し面白い事を思いついた」

「面白い事?
なになにっ」



「彼女が、もし遠い未来の

わたし達の娘だったらどうする?」


「・・・・・はい?」

 突拍子もない事を聞かれて
 返す言葉がすぐには見つからない



「えっちょっと・・・何言ってるのよ
そんな未来知らないよ
見た事も・・」

「未来など
現在という礎を元に確立されていく不確定極まりない物だろう?
いくらでも変わる」

「なっ・・・!?」


「お嬢さん
少し下で遊んで来て貰えるかな?」

「ちびちび?」

 彼の言葉を理解したのか
 にっこり笑って部屋から出て行った


 部屋のドアが閉まってまた二人きりになる



「・・・いきなり変なこと言わないでよ
びっくりするじゃない」

「そんなに変な話をしているか?
このままずっと傍にいたら
そういう事態が起きても不思議ではない

むしろごく自然な事だとは思わないか」


「だって・・・え?・・」

 想像するだけで顔が熱くなってきた


「もちろん真実は分からないが
そういう可能性もあるという事だ」

「そう・・なのかな」

 可能性かあ

 確かに可能性なら無限にあるのかもしれないけど
 もしそうなったら
 あたしが前見てきた未来は・・・?



「・・・うさぎ」

 一人考え込んでいたらその隙をつくように
 背後から腕が伸びてきて腰周りに絡みついた


「ちょっと

・・ちびちびを追い出して何するつもりよ」

「何をして欲しい?
我が愛しの姫君の望むがままに」

 耳元に囁く唇が
 そのまま首筋を這うように伝っていく


「・・・っ!
何してるのよっ
そっそうやってすぐに変な雰囲気にして・・」

「嫌ではないだろう?
こうされるのは」

「全く、
毎度毎度そのみなぎる自信は
一体何処から沸いてくるんだか・・

あなたの『自信の泉』は底無しですか?」


「おまえを愛しているという自信なら底無しだな
どこまで深いか

・・底が見えるまで一緒に潜ってみるか?」

「だからっ
なんでそんな恥ずかしい事を堂々と言える訳!?
聞いているこっちの体が痒くなってくるでしょうがっ」


「もう、黙れ」

「・・・っ・・」







ピンポーン


・・・ガチャ


「よっおだんご!
来てやったぜ
出てくるまで少し時間かかってたけど

どうかしたのか?」


「・・・別に」

「おまえ、顔赤いぞ?」


「気のせいよ、気のせい
既にかなり疲れてるけど、気のせいだから」

「・・何ぶつぶつ言ってるんだ?
じゃ、お邪魔しまーす」

「上にどうぞ
あたしお茶入れてから行くね

あ、もう先に一人来てるから」


「先?」

 先客がいるのか
 いつも一緒にいる3人の誰か・・とか?


 特に気にせず部屋のドアを開けた



「・・・・・」

「・・・・???」

 目の前のベッドの上に座っている全く予想もしていなかった人物の存在に
 ドアノブを掴んだまましばらく固まった


 ・・・誰だよ
 ていうか男かよっ


 いや、
 どこかで見た事があるような・・・



「あっ
あんた確か、・・生徒会長?」

「・・・・・・」

 こっちの質問に答えもせず
 足を組み替えて横を向く

 何だ?こいつ
 やたらとえらそうな態度振りまきやがって



 あんまり近寄りたくもなかったが
 このまま動かずにいるわけにもいかなくて
 とりあえず部屋の中に入った

 参ったな・・・
 おだんごが戻ってくるまでこいつと二人かよ



「・・・・・・」
「・・・・・・」


 さっきからどうも不機嫌そうな気がする
 オレ、何かしたか?



「おだんごと
知り合いだったんですか」

 何の気なしに軽く話を振ってみた



「知り合い?

・・・ははっ」

 やっと口を開いたと思ったら
 一瞬視線をこっちに向けただけですぐによそを向く



「じゃあ、友達?」


「どうだろうな

言うならば前世の恋人か
・・はたまた未来の伴侶かもしれないな」

「はあ?!」

 何言ってんだこいつ

 さっきから得意そうに含み笑いを浮かべて
 オレを馬鹿にしているのか?


「それってどういう・・」


「・・どこぞのアイドル如きに
わたし達の関係を話すつもりは無い」

「なっ!?

あんた、さっきからその喧嘩腰は何なんだよ
オレが何かしたか?」


「喧嘩だと?
わたしはそのような事しているつもりは無いが?

相手にもならないヤツと喧嘩ができるか」

「・・・っ!」

 一瞬挑発に乗りそうになったが
 ぐっと堪えて視線を逸らした

 話をしても腹が立つだけだ
 ・・・こっちだって無視してやる


 なるべく距離を置こうと部屋の隅に避難する
 カタン、と肘が後ろの物に当たって何かが倒れた


「・・・っと・・」

 倒した物を起こすと
 幸せそうに笑顔を見せるおだんごの顔がこっちを向く
 隣にいるのが例の彼氏か?

 ・・・あんまりあいつを寂しがらせるなよ


 むっとしてそのままスタンドを伏せた




「ククッ」

「・・・?」

 人を嘲笑うかのような声が静かな部屋に響く



「それから目を逸らすのか?
己に自信の無い証拠だな」

「!?」










「お待たせーっお茶入れて来たよん
どうですかい?
男同士で話は弾みましたかね


ん?・・何かあった??」


「別に・・・」

「・・・何も」

 あれ?
 何だか弾んでいたような感じでもないような
 むしろ空気が張り詰めているみたい



「まあ、座った座った!
ケーキ持って来たからさ
三人で食べようよ」

「ケーキか、どれどれ・・」


「・・・・・・」

「どしたの?
こっちおいでよ」

 静かにベッドから立ち上がると
 オレが伏せたスタンドをわざと起こしてからこっちに来た


「・・・っ・・」

「何してるの?」


「いや、別に」

 こっちに目線も合わせようとしない
 こいつ・・・オレなんて眼中にないってか?



「・・・・・・」

「・・・・・・・・」

 お互い無言のまま
 おだんごを挟んで空中で見えない火花がぶつかり合う




「・・・ちょっとちょっと!さっきから何よ二人とも
そんなにムキにならないでよ
大人気ないわよっ」


「大人気ないだと?」

「おまえ、誰のせいだと・・」


「ほら、好きな方を先に選んでいいから」



「はあ?」

「・・・何を選べと?」


「だから、ケーキだってば

モンブランとショートケーキとチーズケーキ
どれでも選んじゃっていいからさ
ケーキくらいで喧嘩なんて、大人気ないわよ?
あたしはできたらショーケーキがいいけど
別に譲ってあげてもいいし

ほら、デ・・・先輩、何にする?」




「・・・・」
「・・・・」


「あれ?
なんか変な事言った?あたし」



「あのなあ、おだんご・・・」

「ん?」


「・・・ケーキの事ではない」

「じゃあ、何の事?」

 不思議そうな顔がオレ達を交互に見回す



「・・・もう良い
間抜け面を見ていると一から説明する気も失せる」

「何ですって!
誰が間抜けだって言うのよっ」



「ははっ・・・何か気が抜けたぜ」


ピンポーン


 ぎこちない空気を察したかのように
 玄関のインターホンが鳴った