デマンド・・・
本当に、あなたなの?
さっきのひと時は現実だったのかな
過ぎ去ってしまえば夢だったような気すらする
でも、
「・・・・・・」
自分の唇に触れてみた
あのキスは 夢じゃない
封印したはずの辛い記憶を
あの唇に無理矢理引きずり出された
忘れようとしていたのに・・・
ううん、
忘れたはずだったのに
あたしの心はまだ彼を覚えていた
触れられただけで思い出してしまうほど強く・・・
「どうして・・・」
ふと、素朴な疑問が頭をよぎる
なぜ彼は今ここに存在しているの?
転生したと本人は言っていた
それが胸の奥ににずっと引っかかる
過去に転生するってあるのかな
デマンドの存在していた時代
それは遙か遠い先の事
あの出来事はすべて未来の世界での話だった
という事は・・・
彼は過去に転生したわけでは無く
元々ここの時代の人だった・・?
そうだとしたら時代が離れすぎている
30世紀なんて途方も無い先の未来に
今生きている人達がいるなんて・・
でも、その時代にはあたしも
そしてみんなも確かに存在していた
そういえば・・・
キングエンディミオンが言っていた言葉を思い出す
そのうち地球はコールドスリープ期間に入ってしまうと
それを未来のあたし・・ネオクインセレニティが
銀水晶の力で蘇らせるって
だとしたら可能性はある
このまま世界があたし達の見てきた未来に繋がっているとしたら・・・
それって
今後、いつの日かまたブラックムーン一族が復活するってこと?
デマンドがまたあたし達の敵になってしまう日が・・来る
そんなの、信じたくない!
でも、もしそうだとしたら
何で今の彼は未来の記憶を引き継いでいるんだろう
やっぱりあれから転生したってことなの?
いくら悩んでも訳が分からなくて
もう頭がごちゃごちゃになってきた
「あーーっ
もうだめっっ」
「・・・何がだめなんだい?」
「!!」
「うさぎちゃんどうしたの?
魂の抜けた様な顔して」
「・・・あ・・」
気が付いたら目の前のみんなが不思議そうな顔で
あたしを覗き込んでいた
・・思い出した
ここはパーラークラウン
放課後いつもの場所で
今はみんなと今後の戦いについて相談していたんだ
あたしったら・・・
今は目の前の戦いに集中しないといけないのに
「ごめんごめん、
ちょーっと考え事しちゃってたよ;」
「・・・それでうさぎちゃん
その新しく姿を現した敵は何て言ってたの?」
「え、うん・・・」
この前ライブハウスに出現した敵のセーラー戦士を
あっという間に消し去ってしまった
あの人は・・・
『銀河はすべてこのセーラーギャラクシアの物
・・・こうなりたくなくば
逆らわぬ事だ』
『ギャラクシア・・・』
『わたし達の故郷を滅ぼした 真の敵』
『真の・・・敵?』
『あなたも、気をつける事ね』
「・・・手ごわそうね」
「悪の親玉って感じかしらね?」
「・・・スターライツは
真の敵って言ってた」
「スターライツの故郷を滅ぼした敵か
セーラーギャラクシアはスターシードを狙っているみたいだけど
・・・あいつらの目的は何なんだ?」
「敵は共通のようだけれど・・・
こっちに協力する気はなさそうよね」
「やっぱり彼女らははるかさんたちの言ってた
太陽系の外からの侵入者なのかしら」
「うん・・・」
あたしったら・・・
さっきから頭がみんなの話に集中してくれない
こんなんじゃいけないのに
「・・・うさぎちゃん?」
「あっ
・・何?」
「最近どうしたんだい?」
「え?」
「たまに上の空よね」
「夏バテかしら・・ちゃんと水分取ってる?
水分だけじゃなくて
微量の塩分も一緒に摂取しないと倒れちゃうわよ」
「あははっ
やだなあそんな心配しなくても
大丈夫だよ!」
「うさぎ、」
「ん?」
「うさぎのぼうっとしている原因って
・・・彼の事?」
「!?」
図星を指されて心が動揺する
「やっぱり、そうなのね」
「え・・と
彼・・・って・・?」
「まもるさんのこと」
「まも・・ちゃん?」
「そうよ
やっぱり気になるんでしょ?
連絡、ちゃんとあるの?」
「あっ・・・
うん、そうなの
手紙は頻繁に書いているんだけど何か忙しいみたいでさ
返事が中々来なくて・・・」
まもちゃん
今頃どうしているんだろう
全然連絡ないよ・・
「・・まもるさんなら大丈夫よ!
多分ちょっと忙しいだけでしょ」
「少し離れたくらいで
うさぎちゃんを忘れるわけないじゃない?」
「うん、そうだよね?」
「もうすぐ夏休みだしそんな事言ってらんないわよ?
全力で遊び倒しちゃうんだからっ」
「あたし達がたっぷりと遊んであげるよ
寂しがっていられないように」
「あははっ
みんなありがとう!」
違うの・・・
まもちゃんの事はもちろん一番大事だけど
今の、この悩みは別にある
みんなに言うべきなのかな?
でも、どう説明すればいいの・・
かつてみんなが戦った相手が
・・彼が転生してすぐ近くにいるって?
だめだよ・・・
今は目の前の戦いで手一杯なのにこんな事
それに、あの人が転生した元の原因は、あたし
その負い目が言葉に出すのを躊躇わせる
封印していた辛い記憶
あたしを庇ったせいで彼は・・・
思い出すだけで胸が痛くなる
あんな想いは・・もうしたくない
・・・!?
そんな事を考えていたら
さっきの彼とのやり取りがふっと頭に思い浮かんできた
『自分にとって大切な人を自分を犠牲にしてまで守りたいって
・・・男の人って、みんなそう思うの?』
『大切な物の優先順位の差だろう
時には頭で考える前に体が先に動く事もある
自分を投げ出してまで助けたいと思う時も・・』
・・・あたしったら
何て事を聞いてしまったんだろう
あれは彼にとっても辛い過去だったはずなのに
思い出させてしまった
「・・・最低」
今頃になってようやく自分の言った事の浅はかさに気が付いた
彼に対して申し訳ない気持ちでいっぱいになる
でも、
そんな心とは裏腹につい感じてしまう
・・・良かった
またあなたに会えた
瞳を閉じて再びあのキスを思い出す
激しいけど優しくて
触れていると心が切なくなっていくあの感じ
何も変わってなかった
覚えていてくれた
・・・あたしの事
一度は忘れてしまっても、また思い出してくれた
あたしは傲慢なのかもしれない
その気持ちを受け入れられるかまだ分からないのに
それを嬉しいと感じてしまう
そう
あたしにはまもちゃんがいる
その事実があるからには
彼の気持ちを正面から受け入れることは難しい
・・・もしかしたら
あのまま気付かなかった方が楽だったのかもしれない
気付かなければ苦しむことも悩むこともなかったのに
でも、あたしは気付いてしまった
彼の存在に
だから考えないといけない
これからどう接していくのか・・・
どう、接していけばいいんだろう
『話がしたい
おまえもそうだろう?
明日の放課後、待っている・・・』
一体何を話せばいいんだろう
昔話?
それともこれからの事?
話をしたからと言って
何も変わらないかもしれない
でも、もしかしたら何か変わるかもしれない
期待と不安が入り混じる
そうよ、
一人で悩んでいたって何も始まらない
まずは話をしよう
あの人と二人で
これからの事はそれから考える
「・・・・・」
目の前で相談をしているみんなを眺めた
・・・ごめんね
みんなに、仲間に隠し事なんて初めてかも
でも今は言えない
言いたくない
二人の間の話し合いに
たとえ仲間であろうと邪魔されたくない
そんな風に思っちゃうなんて、やっぱり傲慢なのかな
すべては明日、
何かが再び動き始める
・・・何だろう
心臓が今からドキドキして落ち着いてくれないよ
これは緊張しているから?
それとも・・・
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