「もう完璧に夏だなあ・・」

 むしむしとした気温に半ばダレながら
 いつもの場所で昼休みの時間を持て余していた
 最近は特に用も無い限り
 この屋上への階段でちょくちょく休憩をしていたりする

 程よく静かで空気が優しくて
 そんな柔らかい雰囲気に包まれていると
 何だか眠たくなってきたりして・・
 結構な穴場のような気がする


「みんな知らないんだもんなあ
もったいないんだから」

 空間を独り占め状態の最中
 彼だけが時折姿を現してくる


 生徒会長の紫藤先輩

 いつも少し様子を伺いながら静かに階段を上がって来る
 最初にココに目を付けていたのは彼だから
 あたしは彼にとって邪魔者なのかもしれない
 でも、別に出て行けと言われたことはなかった

 あたしが先に占領しているのを見ると
 少しだけ目を細めて迷惑そうにする時もあるけど
 一緒にそこに居れば軽い会話くらいはするし
 うとうとしていたらいつの間にか
 横に居たこともあったりして

 別に待ち合わせをしているわけじゃないけど
 気がついたら二人でここにいる事が増えてきた気がする


 この場所の存在はみんなにも話したことがない
 同じ空間を共有している者同士の秘密みたいな
 そんな暗黙の了解があたし達の間に交わされていた



「あ、先輩こんにちはー
今日もあっついですね」


「・・・ならなぜここに来る?
暑いならもっと涼しいところへ行けば良いではないか」

「えーだって
学校の中はどこも暑いし
ここはその中でも結構涼しい方なんじゃないかな?
人口密度も低いし

ていうか多くて二人じゃないですかっ
先輩も分かってて来てるんじゃないの?」


 こいつ・・・
 最近やたらとここに入り浸っている気がする

 何をしに来る?
 目的が読めない
 いや、最初から目的など無いのだろう

 週末彼女と道でばったり会った時も
 結局口喧嘩をして別れてしまったというのに
 それには全く触れて来ず、態度も至って普通だ


 何も気にしていないのか?
 こちらはそれでどれだけ悩んだと思っている・・・

 彼女にとって悩みの対象にすらなっていないこの状況に
 少し神経を苛立たせられたが
 それを抑えて横に座った



「・・・星野とのデートは楽しかったのか」

「何よ・・・まだつっかかってくるわけ?
先輩、しつこいともてませんよ

それに、デートなんかじゃないですってば
たまたま暇で偶然近くにいたから誘われただけで・・・」

「別にわたしに言い訳をする必要も無いだろう
楽しかったのならそう一言言えば良いだけの話だ」


「・・・そうでしたよね
別に先輩には関係ないし、すみませんでした

デートすっごく楽しかったですよっ」

 ・・どうしてこんな言い方になっちゃうんだろう
 なんか最近口げんかばかりな気がする


「・・・・・・」

 怒った顔を見せて横を向いてしまった

 少しムキになり過ぎたか?
 大人気ない風を見せた事に対して少し反省をする


「まあ、楽しかったならそれで良かったではないか」

 冷静さを取り戻して穏やかな口調で話しかけたら
 それに安心したのか
 むくれていた顔を元に戻してこちらを振り向いた


「うんまあ、
途中色々あったけど最後は丸く収まったというか」

「何だそれは・・
ただ平穏に遊んで来たのではないのか」

「ホントに色々あったんですよう
口では説明できないような・・・」


 昨日の事を少し思い出してみた

 動物園も遊園地も楽しかったけど
 いきなりライブハウスに敵が襲ってきて・・

 なんかよく分からないうちに戦いが終わって
 星野とはぐれてまた会えて



 そういえば・・・

 ふと、星野が最後に言っていた言葉を思い出した



『・・・男だったら
自分を犠牲にしてまで守りぬきたいと思うんだぜ?

それが自分にとって大切な存在なら尚更な』


 あれは、どういう意味だったんだろう




「ねえ、先輩」

「何だ?」


「自分にとって大切な人を自分を犠牲にしてまで守りたいって

・・・男の人って、みんなそう思うの?」


「どうした?・・・いきなり」

 突拍子も無い質問に少し面食らう


「ただなんとなく
・・・聞いてみたくて」

 真っ直ぐな瞳がこちらをじっと見つめてきた
 その真剣な様に少し畏まる


「・・大切な物の優先順位の差だろう
時には頭で考える前に体が先に動く事もある

自分を投げ出してまで助けたいと思う時も・・・」

 その言葉に、ふと古い記憶が思い起こされた


 あの時の事を

 セレニティを守り抜き、力尽きた最期を


「・・・・・・」

 彼女の真剣な横顔を眺める

 まさか、
 ・・・おまえも思い出しているのか?



「そっか・・・そうなんですね


でも、
あたしは誰かを犠牲にしてまで助かりたいとは思わない
そんな事しなくても
みんなが力を合わせればきっと何とかなる
誰も犠牲にしなくてもきっと・・・

そう思いませんか?先輩」


「そう、すべてが都合良くいくような世の中ではない
時には辛い選択をしなければいけない場面にかち合う事もある

おまえはないのか?
今までの人生でどちらかを選ばなければならなかった事が」

 少しの沈黙の後、口が開いた




「・・・あった」


「その時どうした?」

「選ぼうと思ったけど

・・・ううん、選んだと思っていたのに
結局選びきれなかった
どっちも大切だったから両方守りたかったの
それって・・子どもなのかな」

 両方大切だった
 それがおまえの真実か

 前世から未来まで愛し続けるあの男と同じ位
 わたしを愛してくれていた

 そんなおまえを
 己の命を掛けて守りきれた事を誇りに思おう


「大切な存在ならば
己の手で守りたいと思うものだ

例えそれでもう二度と会えなくなってしまうとしてもな」

 愛おしいその存在に手を伸ばすと
 温かな頬にすぐ辿り着いた

 今またこうして届く距離にいる
 それがどれだけ嬉しい事か
 彼女は理解していないだろう


「うさぎ・・・」

「先輩・・


・・・星野と同じ事言うんだね」

 その言葉に、触れている指先が固まった


「星野もね、あたしにそう言ったの
いきなり真面目な雰囲気に変わって
なんか真剣に言われちゃってさ・・・

男の人って、みんなそう思うのかなあ」

「・・・っ・・」

 手を静かに引いた

 そのまま拳を強く握る


 真剣に聞かれたから真面目に答えてやったというのに
 ・・結局そいつの話になるのか

 昔の辛かった記憶を思い出させて申し訳ないと思う反面
 まだそんなに覚えていてくれたのかと
 自惚れてしまった自分が腹立たしい

 彼女の、この何も考えていない能天気な様が
 時にひどくわたしを憂鬱にさせる
 それに当人は全く気付いていない


 鈍感さもここまで来るともはや悪癖だ



「・・・星野にそう言われたのなら本人に直接聞け
わたしに何と答えろというのだ

くだらない事を聞くな」

 わたしの乱暴に放たれた言葉に
 少し驚いた表情がこちらを向く



「えっ?・・・だって別に

単に男の人の意見として聞いてみたかっただけなのに
どうしていきなり怒るんですか?
例え話にそんなにムキにならなくても・・・」

 この口は・・
 よくそんな事が平然と言えたものだ

 その無知さ故の無邪気な様子には何度も失望させられてきた
 なぜ彼女はここまで人の気持ちを理解しようとしない?
 何度伝えようとしてもその都度一蹴される
 それにどれだけもどかしい想いをさせられたか・・・




「おまえは・・・

海の向こうの男と星野と、一体どちらが好きなのだ」



「・・・・・・はい?」

 理解不能と言わんばかりの面構えが
 わたしの言葉の続きを待って沈黙する


「他の男に相談を持ちかけて
そいつが気になるから知りたいだけだろう
一度デートに行っただけで心変わりしたのか?」

「何言ってるの?星野とはそういう関係じゃ・・」
「ならデートなどするな」
「だからっ

デートじゃないもん!」

「誘いに乗って二人で出かけて
向こうからしたら立派なデートだろう?
その気がないなら思わせぶりな態度を取るな」


「だって・・・

そんなつもりじゃないのに」

「おまえがその気ではなくとも
相手は違うかもしれないだろうが

前から思っていたが、思慮が足りなさ過ぎるぞ」

「・・・っ・・」

 こちらのきつい言い方に、ばつが悪そうに口ごもった



 そのまましばし押し黙り、ゆっくりと口が開く


「星野は大事な友達だから
その友達がちょっと変だったり真剣に言ってきたりしたら
やっぱり心配だし・・・気になるよ

それのどこが変ですか?」

 どこがだと・・・
 何も分かっていない小娘が何を軽々しく言う?
 分かろうともせず人一倍他人の心配だけはする
 それがどれだけ残酷な事か・・・


 わたしが
 どんな気持ちでおまえの傍にいるか分かると言うのか?

 あの男の事を今は本気で愛していると言うから
 これ以上辛い想いはさせまいと
 今まであまり強くは出ていなかったが
 それもおまえの事を深く愛しているからこそ

 その気持ちに、どうして気がつかない?


 なぜあんな少し前に知り合ったようなヤツをそんなに庇う
 おまえの気持ちも彼氏の存在もすべて無視をして
 ヤツは遠慮なく横から入り込もうとしている
 隙だらけのおまえはそれを何の気なしに受け入れようとしている
 何をふらふらしているのだ・・・



「・・・・・・」

「・・・?」

 目の前の呆けている顔を眺めていたら
 毎度こんな事で悩んでいるのが馬鹿らしくなってきた
 この鈍感すぎる女はどこまでも気付くわけがないのだ

 今まで心のどこかで彼女の気持ちを大切にして
 自分のそれを蔑ろにしていた気がする
 なぜ今まで己の想いを抑えていた?

 なぜそんな事をする必要があったのだろう



 頭の中で何かが弾けた





「うさぎ」

「はい?」

 きょとんとしている瞳を冷静に見下ろす


「海の向こうの彼氏と星野とでは比べる対象が違うと言ったが
なら、

・・・わたしと星野ならどちらだ」



「・・・・・は?」

 何言ってるの?この人


「どういう意味
・・・ですか?」

「どういう意味 ・・・だと思う?」


「え・・・と・・??」

 何が聞きたいのかいまいちよくつかめない

 どちら?
 どらちって、何が??



「な・・・何を比べろって言うんですか?
あはははっやだなあ先輩ったら

変な事聞くんだから」


「では言い方を替えようか?
おまえ、わたしの事を一度でも
男として見た事があるか?」

「は・・はは・・・」

 ・・・いつもと感じが違う
 迫り来る異様なこの雰囲気
 なーんか気まずいんですけど

 これは・・はぐらかした方がいい気がする



「あっそういえばっっ
あたし、ちょっと用があるので今日はこれで・・・

貴重なご意見ありがとうございました!」


 急いで立ち上がって階段を駆け下りようとする



 ・・・その足が一歩も出る前に止まった
 どんなに前に進もうとしても体が動かない

 あたしの後ろから強い腕が伸びてきて
 逃げようとする手首をしっかりと掴んでいた



「あの・・・
離して欲しいなー・・なんて?」

 後ろを向かずにお願いしてみる



「逃げるな

話はまだ終わっていない」

「きゃっ!?」

 少し乱暴な勢いで体を引き寄せられた
 そのまま背後の壁に叩きつけられる


「・・・った・・

ちょっと・・何す・・・!!」

 そのまま至近距離から顔を覗き込んできた
 紫紺の瞳が迫りくる


 前方は彼 後方は壁

 逃げられない・・・



「あの、
・・・近いんですけど;」


「この口は・・・よくも軽々しく好き勝手ほざけるものだ
二度としゃべれないようにしてやろうか?」

 指先が唇のラインをつつっとなぞった

 自分の心臓の音がいきなり大きくなっていく



「ちょっと、先輩ったら
・・・からかってるんでしょ?

その手には乗りませんから」

「・・・・・・」

 無言の威圧感があたしを縛る



「真顔で冗談はやめてくださいよ
・・・見えないじゃないですか」


「・・・・・・・・」

 反応がないと何を考えているのか分からなくて余計に怖い
 自分の声が少し上ずっていて
 緊張してきているのが分かる

 閉鎖されているこの空間は蒸して暑いはずなのに
 なぜか背筋は寒くて・・冷や汗が出てきた
 唇がどんどん乾いていく




「会長ー?
どこにいらっしゃるんですかー?」

 遠くから彼を呼ぶその声が救いの声に聞こえた


「ほらっ
誰かが呼んでますよ
多分副会長でしょ?生徒会の用事かも・・・

先輩っ早く行かないと」



「聞こえない 何も」

「聞こえないって・・・呼んでるってば」


「おまえしか見えない」


「やっ・・
先輩、痛いよ・・・離してっ」

 強い力が両腕を抑え込む
 ギリギリと音を立てて指先が手首に食い込んでいく

 一切加減をしてくれないその様子に戦慄が走った



「離さない、もう

何度おまえを愛していると伝えたか
忘れたのか?
・・・忘れたというのなら思い出させてやる」


「さっきから・・何言ってるんですか?
なんか、変だよ」

 真剣で
 まっすぐな瞳を直視していられなくて視線を下ろした



「わたしから目を背けるな」

「!!」

 片手で両手首を掴み直すと
 空いた手で顎をくっと持ち上げられる


「・・・わたしだけを見ていろ」

「・・・っ・・」


 こいつの愛しの男は彼女を置き去りにして
 海の向こうへ行ってしまった
 彼女がこんなに隙だらけなのはそいつの責任でもある
 愛している女を一人にしておく男が悪い

 油断してほおっておいたらどうなるか
 ・・・思い知らせてやろうか


 あの時彼女を彼の元へ返したのは
 もうわたしでは守りきれないと言う現実をつき付けられたからだ
 死に逝く己にはもう何もしてあげられないと
 そう気付いてしまった
 不本意でも、それがあの時の最善の策だった

 だが、今のわたしなら今度こそ最後まで守りきれる
 ずっと傍に居て
 おまえをただ一人いつまでも愛する自信がある



「わたしを、思い出せ うさぎ


いや、セレニティ」

 その言葉に、一瞬彼女の目が大きく開いた



「・・・え? どうして、その名・・
・・・・っ・・!?」
「・・・っ・・」

 漏れた言葉を最後まで聞かずにその唇を塞いだ








「会長ー?

・・・どこに行ったのかしら」




 下の階の誰かを探す声が耳の奥をぐるぐると駆け巡る



 しばらくうるさかった廊下から
 足音が遠のいていき
 いきなり辺りが静かになった




 一体何が起きたんだろう・・・
 思考が停止して中々動いてくれない


 鋭い眼差しがいきなり近づいてきたと思ったら

 そのまま キスされて



 ・・・キス!?



「・・・!!」

 いきなり意識が現実に引き戻される
 頭がようやくこの状況を把握した




「・・・・・せん・・ぱ・・・・やめっ
・・んんっ・・・」

 顎先を押さえつけられて顔を横に向けない・・・


 密着する唇を引き剥がそうと
 出せる力を振り絞って抗ってみても
 男の人の力を前に敵うわけがない

 必死に抵抗するその動きを止められ
 ひたすら求められるまま従わざるを得なかった





「・・・・・ん・・」

「・・・・・・・・・・」


 長い間そのまま時が止まった

 音が一切無い不思議な空間
 聞こえるのは
 自分の内に跳ね返ってくるうるさい心臓の音だけ



 何でいきなりこんな事・・・

 一瞬も離れようとしない唇に戸惑いながら
 される理由を考えてみる



 思い出せ って言ってた
 ・・・何を?


 あたしは・・・何か忘れているの?




 でも、何だろう
 不思議とどこかで懐かしさを感じる
 ずっと触れていると
 胸の奥がどんどん痛くなってくる


 この気持ち・・・
 前にもどこかで味わった

 ・・・どこで?






 段々と、全身の力が抜けていく
 脱力したのに気付いたのか
 押さえつけられていた手首から彼の手が離れた

 そのまま 両腕が力無くぱたりと下に落ちる




 乱暴だった彼の手が
 頭を伝って柔らかく頬を撫でた
 まるで愛しい人に触れるような、すごく優しいその手つき

 でも触れる唇は激しくあたしを求めてくる
 すべてを奪いつくす勢いで喰らい付いてくる




「・・・はあ・・・っ・・・」

 体の全神経が触れている一部に集中する
 この感覚を・・・あたしは確かに覚えている

 心の奥底に封じ込めていた古い記憶を
 強引に引きずり出した



 熱いまなざしと唇
 そして、さっき呼ばれたあの名前


 『セレニティ』 って・・・


 その名前を呼ぶのは
 前世の記憶の中でエンディミオンと・・




 ・・・・・!?



 まさか、・・・でも

 そんな事あるの?
 こんなの、俄かには信じられない


 でも 今すべてを理解した気がした
 今までの事すべて
 あたしが感じていた不思議な違和感
 あなたのあたしへの接し方



 あなたは・・・





「デマンド・・・なの?」

 そっと離された唇の隙間から
 すぐにその名前を確認した



「思い出してくれたか

・・・セレニティ」

「!!

本当・・に?」


「・・・ああ」



「・・・・・・」

 言葉が、何も出てこない
 震える手を伸ばして彼の髪に触れてみた


 この髪も

 ・・頬も


 昔のまま・・・




「嘘・・・」

 自分で言っておいてどうしても信じられない
 でもあたしの体が教えてくれる
 あなたに触れるこの感じ

 何も変わっていないと



「嘘かどうか、確かめろ」

「・・あ・・・」

 体を引き寄せられて抱き締められた



 ・・・温かい

 今まで堅く封印していたあの瞬間を思い出す
 最後の記憶はいつも
 冷たい体を抱き締めた所で終わっていた

 その悲しい記憶を塗り替えるように
 後ろに手を回して彼のぬくもりを感じた




「うさぎ・・・」

「・・・んっ・・」

 再び唇が触れてくる
 あたしを気遣うように、そっと優しく

 目を閉じてそれを受け入れた




「・・はあ・・・」


「・・分かったか?」



「本当に、デマンドなのね」

「ああ」


「どうしてここに・・・」

「分からない
転生して

気がついたらおまえの隣にいた」

「転生って、・・過去に?
いつからあたしに気づいていたの」

「記憶が戻ったのはつい最近だ」


「何で・・・今まで何も言わなかったのよ」




「言った所で・・・信じたか?」

「え・・あの・・・」

 頭が混乱していて・・
 何も、言葉が出てこない

 何て言えばいいんだろう


 でも
 気付かない振りをしていただけで頭のどこかで感じていた
 ふとした時に、確かにあなたを・・・



キンコーン



 予鈴のチャイムが遠くで鳴る
 それを合図にしたかのように彼の体が離れた

 でもあたしの体はその場で固まったまま
 全く動こうとしない


「・・・・・・」

「・・・明日の放課後
うちに来い」

 二人の間の沈黙を破る低い声



「え?

うちって、・・あなたの?」

「そうだ
話がしたい

おまえもそうだろう?」

「あのっ・・・あたし」


「それまでに少し心の中を整理しておけ

・・・待っている」


「・・・・・うん」


 目線が前を向き
 そのまま静かに階段を下りていった
 後姿が踊り場を曲がり、すぐに見えなくなる


 色々と、考えたいことがいっぱい
 だけど頭が混乱していて・・今は何もまとまらない




「あたしも・・・教室戻らないと」


 放心している心を現実に引き戻し
 わずかな理性をたぐり寄せて体を動かした