「全く
オレに目をつけるなんて
間抜けというか鋭いというか・・・」

 変身を解き
 戦いに疲労した体を休めながら少し考える

 いつも通り戦士に変身して敵を撃退する事ができた
 だけどこんな戦い・・・いつまで続くんだろう


 撃退・・・
 いや、今回オレ達は何もしていない



 オレのスターシードを狙って襲ってきたセーラー戦士を
 ブレスレットを奪い取って消滅させた
 あいつは・・・


「セーラーギャラクシア・・・」

 故郷を滅ぼしたオレ達の真の敵
 その姿を目の前にして
 圧倒的なオーラに背筋が凍りついた

 その場から一歩も動けず
 ただ立ち尽くしている事しか出来なかった


「・・・・・・」

 冷や汗が頬を伝う
 力量の差を見せ付けられ、絶望という言葉が一瞬頭をよぎる



 ・・・立ち向かえるのか?
 本当にオレ達だけで



「・・・っ・・

何を考えているんだ」

 こんな事じゃだめだ・・・

 できるか、できないかじゃない
 立ち向かって行かなければいけないんだ


 ・・・そうさ
 オレには使命がある
 それを全力で果たすまでだ

 一刻も早くプリンセスを見つけ出し
 ギャラクシアを倒してみんなで故郷へ帰るんだ
 その日が来るまで立ち止まってはいられない

 自分を信じて目の前の道をひたすら前に進むだけだ




「・・・そうだ、


おだんご!?」

 戦いに夢中になっていて忘れていた
 思い出したら急に心配になってくる



「あいつ、・・・大丈夫か?」

 安全な場所へ無事逃げられたのだろうか
 辺りを軽く見回してみたけど見当たらない

 ・・・どこに行った?


「とりあえず・・・
一の橋公園に戻ってみるか」















 公園に辿り着いたその足で周りを探し回ってみる


「・・・おだんご」

 噴水を隔てた向こう側
 朝待ち合わせをしたベンチに彼女は座っていた
 少し見た感じ特に怪我もしてなさそうだ

 ほっと胸を撫で下ろす


 そのまま遠くから様子を伺ってみた
 俯いてしっかりと握った自分の掌をじっと眺めている
 物思いにふけっているのか?

 さり気ない風を見せつつ
 なるべく明るめな調子で話しかけてみた



「おーい、おだんごっ」


「星野・・・」

 驚きの眼差しがこっちの姿を捉える


「いやーごめんごめん
ちょっとはぐれちゃっていたな」

 見下ろして肩をぽんと叩いてやった



「・・・・・・」

「どうしたんだよ?元気ないぞ」



「・・・・・ばかっ!!」

「!?」

 見上げるその顔がキッとこっちを睨む

 ・・・怒っているのか?
 予想もしていなかった反応に少し戸惑って後ろに引いた



「・・・どこ行ってたのよ」


「ごめん・・・」

「ごめんってもう・・・
怪我とかしなかったの?大丈夫?」

「ああ、まあ別に何とも」


「良かった・・・無事で」

 こっちの無傷な様子を見て安心したのか
 やっと表情が緩んだ

 青い瞳が少し潤んでいるように見えるのは気のせいだろうか・・



「おまえ、
どうしてそんなに心配してくれるんだ?」

「心配するに決まってるでしょ!
あんな事に巻き込まれて・・・
逃げろって言われて
びっくりしてそうしたけど

もう、気が気じゃなかったのよ」

「おだんご・・・」

 おまえをあの場から離したのは
 オレ達の戦いを見られたくなかったからなんだ

 今まで悲惨な戦いを何度も繰り返してきた
 オレは戦士だから、戦うことが使命だから
 それは普通の事で何でもない事なのに


 ・・・そんな顔するなよ
 こっちが悪い事をしたみたいじゃないか




「・・・ごめんな
心配かけさせて」

 そっと頭に触れて優しく撫でてやった


「もういいよ、無事だったんだし
でも、あたしだけに逃げろなんてもう言わないで

誰かを犠牲にしてまで助かりたいなんて・・思わないよ」



「・・・男だったら
自分を犠牲にしてまで守りぬきたいと思うんだぜ?

それが自分にとって大切な存在なら尚更な」


「大切な・・存在?」

「ああ、おだんごはおれにとって大切な・・・」

 その言葉の先は敢えて言わなかった
 戦士であり、使命がある身で
 軽々しく無責任な事は言えない



「そっか、・・・ありがとう

大切なお友達だもんね!」


「・・・まあな」

 にこっと笑うその笑顔に
 こっちも微笑で返した


 今日一日一緒にいて気がついてしまった
 彼女の存在が
 いつの間にかオレの中でこんなに大きなものになっていた事に

 戦士としての使命を果たす為にこの地に降り立った
 自分を偽って アイドルにまでなって
 プリンセスに想いが届くようにと
 必死に声の限り歌い続けて
 それでも届かなくて・・・

 そんな張り詰めた気持ちを
 彼女がいつも和ませてくれた

 オレに向けられたその笑顔
 心配そうに見上げる瞳を見ていると
 つい期待してしまう



「まだ
オレにもチャンスあるかな?」


「チャンス?」

 きょとんとした顔が不思議そうにこっちを眺める


「・・・何でもない」

「ふーん・・・?」



「なあ、おだんご」

「だから、
おだんごって呼ぶのやめてよ」

「オレがそう呼びたいから呼ぶんだよ
文句言うな

・・・さっきから何握っているんだ」

「ああこれ?

はい、返すよ」

 手渡された物に目をやると
 それはさっきゲーセンで取った景品のブローチだった


「おまえ、どうして・・・」

「だって、大事にしてたじゃない?」


 そういえば・・・
 ふとある事を思い出す

 さっきの戦いの最中
 落ちていたこれに駆け寄って行って
 エターナルセーラームーンが呟いた言葉
 あれは・・・



『これ・・・星野の』

『!?』

『どうなったの?
まさか・・・ファージにされちゃったんじゃっ』



「・・・・・・」

 彼女はなぜあのブローチの事を知っていたんだろう
 何者なんだ・・・




「・・・星野?」

「・・・!」

 ぼうっとしている頭に彼女の声が響いてくる


「どうしたの?」


「何でもない・・・」

 目の前のおだんごを眺めていたら
 一瞬その姿が彼女と重なって見えた気がした

 ・・・いや、もしかして




「ははっ
どうしたんだろう、オレは」

 まさかそんな事が、あるわけない
 心の中に浮かんだ疑惑をすぐに掻き消した


 でも、こんな物を
 わざわざずっと持っていてくれたのか・・こいつ



「・・・?」

 さっきからこっちをただひたすら見つめてくる
 何か言いたそうだけど、どうしたんだろう

 掛けられるだろう言葉を待ってしばらく沈黙していたら
 ふいに前を向いて一人歩き出した



「星野・・・帰るの?」

 それに返事もしないで歩みも止めてくれない


 聞こえてないのかな・・





「・・・おだんごっ」

 後ろを向いた拍子に
 こっちに向かって何か投げてきた


「!?」

 いきなりの行動に少し慌てたけど
 なんとかそれを手でキャッチする



「それ、やるよ」

「え?これって・・

くまちゃんのブローチ
・・・いいの?」


「今日一日付き合ってくれたお礼さ」


「お礼って・・・別にそんなの」

「今日はありがとう

おだんごと一緒に過ごせて良かったよ」

 改めて真剣に言われると少し恥ずかしい
 こっちもちょっと畏まった


「うん、こちらこそ
・・・ありがと」



「また明日、学校でな」

「うん、じゃあね」

 去り行く後姿に手を振る
 しばらくそのまま見送っていたけど
 そのうち街に溶け込んで見えなくなった




「・・・変なやつなんだから」

 今日だって最初から最後まで振り回されてばかりだった
 急に遊びに誘ったり
 突然いなくなったと思ったらまたふっと現れたり
 あんなにあげないって言ってたブローチをあっさりとくれたり
 すごく真剣な顔でお礼なんかも言っちゃったりして

 何であたしにちょっかい出してくるんだろう・・・


 手元に残ったくまちゃんをじっと眺めてみる



「せっかく貰ったんだし
明日、鞄に付けて行こうかな・・」

 多分星野がまたからかってくるんだろうけど
 それもなんだか悪くないかも



「ふふっ
明日からよろしくね!」

 新しいお仲間に挨拶をして
 家路へ足を向けた