「あー疲れた・・・
一体どこまで来ちゃったのよ」
電車に揺られて1時間半くらい?
すごく遠くに来たような気分
辿り着いた駅の名前を見てびっくりした
「東武動物公園前駅・・・
って、埼玉まできちゃったの?!」
どうりで時間がかかったわけだわ・・・
「動物園と遊園地って行ったらここだろ?
おまえ、来たことあるか?」
「うーん・・・
子どもの頃家族と来たことはあったけど
もうあんまり覚えてないよ」
「じゃあ丁度いいじゃん、オレ初めてなんだ
楽しもうぜ!
ほらっ」
こっちに懐っこい笑顔を向け
目の前に手を差し出してくる
「何、その手は」
「デートって手を繋ぐもんだろ
それとも腕でも組むか?」
「はあ?
・・・これデートなのっ」
「何だよ今更
デートじゃなきゃ何だと思って来たんだよ」
「そっ・・そんなことあんたなんかとするわけないでしょっ
デートだって分かってたら来なかったわよ
あたしにはまもちゃんという・・・」
「はいはい、それは分かってるって
とりあえず動物園から回ろうぜ」
「ちょっと!
ちゃんと聞いてるの?
デートなんかじゃないんだからねっっ」
何考えてるのよ、こいつ
油断してたら危ないかも・・・
「・・・絶対気なんか許さないんだから」
「何ぶつぶつ言ってるんだよ
ロープウェイに乗って動物園エリアに行けるみたいだな
よし、行くか!」
「高校生にもなってちょっとはしゃぎすぎよ
・・・ガキなんだから」
「ガキで悪いか?
楽しければ何でもいいだろっ」
「もう・・・仕方ない奴」
「きゃははははっっ
何あの顔っ
かっわいいの!!」
白ふくろうの眩しそうな表情が
満面の笑顔を浮かべているみたいに見えて
お腹を押さえて笑い転げた
「おだんごーっ
こっちゾウがいるぜっ」
「なによー
もうそっち行っちゃうの?
勝手に先行かないでよ」
「待っててやるから早く来いよ
興奮し過ぎて転ぶなよー?」
「あいつ・・・
あたしの事何だと思ってるのよっ」
星野に付き合わされてデートまがいの事させられてるけど
気がついたら普通に楽しんでいたりして
結構わくわくしてるのかも、あたし
「はあー・・・
大きいわね、やっぱり」
「あいつら、何食べてあんなに大きくなるんだろうな?
おまえゾウに聞いてこいよ」
「あたしが小さいっての?
失礼な事言ってるんじゃないわよっ
・・・あれ、何だろ」
少し向こうで飼育員ぽい人がバケツを持って
ゾウをこっちに呼んでいる
「ゾウの餌やり、一回500円
・・・りんごとか食べてるみたいよ?」
「へえ・・・
よし!!
おだんご、あれやろうぜっ」
「えっ何々ー
やらせてくれるのっっ!」
「ほら、あーん」
りんごを突き刺した棒をゾウの口に差し出したら
あっという間に大きな口がそれを飲み込んだ
「でっかい口だな、おまえ
なあ?おだんご
なんだよ、その膨れた顔は」
「・・・結局自分であげるのね
やらせてくれないんだ」
「オレのおかげでこんなに近くで見れて良かっただろ?」
「あたしにやらせてくれたらもっと良かったわよ」
「やりたければ自分もりんご買えばいいじゃん?」
「・・・星野のけちっ
女の子には優しくしなさいよ
べーだ!!」
「キリンもこうやって近くで見るとでっかいなあ・・・」
「ねえ、
キリンってどうやって寝るのかなあ?」
「おまえ知らないの?
首を蛇みたいに丸めて寝てるんだぜ」
「ホント!?」
「・・かもな」
「なんだあ
もう、適当なんだから」
「でもそう思わないか?
あんなに長い首ずっと持ち上げてたら疲れるじゃん」
「そうなのかなあ?」
「おまえも
ろくろ首にでもなってみたら気持ちが分かるだろ?」
「なんで妖怪にならないといけないのよっ」
「おだんごが、ろくろ首
・・・はははっ」
「・・・そうなったら一番に星野の首絞めに行ってあげるわよ」
「そっか
オレの所に一番に来てくれるんだ?」
「あんたって
どうしてそんなに自意識過剰なのよ
・・・ねえ」
「ん?」
「さっきから何だか
あたしの方がはしゃいでる気がするんだけど
楽しんでる?」
「楽しいぜ?
おもしろい動物見れて」
「何が一番おもしろかった?」
あたしの質問に
ニヤニヤしながら指をこっちに向けてきた
「一番おもしろいのは、こいつだろ?
おだんご科の、赤点うさぎ?」
「・・・あーんーたーはーーっっ」
「大体一周したかな?
そろそろ遊園地エリア行くか」
「早くしないともう夕方になっちゃうよ」
「おだんご、何乗りたい?
決めてちゃちゃっと回ろうぜ」
「んー・・・
星野って絶叫系はいける?
やっぱ木造コースターのレジーナは乗りたいなっ」
「いいぜ、
あとは、・・・お化け屋敷か?」
「は?どうして??」
「デートといったらお化け屋敷だろ?
怖いならしがみついてろよ
好きなだけな」
「何それ・・・下心見え見えじゃん
そんな手には乗りませんからね!!」
星野の提案を少し怒った声で却下はしたけど
でも結局ジェットコースターにも乗って
お化け屋敷も入ってみて
やりたい事は全部やりつくした気がする
夕方近くなってきて
最後に観覧車に乗ることにした
「あーいっぱい遊んだね!
おもしろかったあ」
「おまえ・・・
よく食べたなあ」
「そんなに食べてた?あたし」
「何食べたか、思い出してみろよ」
「え?・・・んっと
アイス食べてー
みたらしだんご食べてー
綿あめも食べて
焼きソバ4人前食べて
あっラムネも飲んだよね
あとは・・・たこ焼き4人前?」
「・・・見てるだけで胸焼けしそうだったぜ」
「何か文句あるの?
ねえ、そのピンクのくまちゃんさあ」
「これか?
いいだろ、オレの戦利品」
得意げに胸元のブローチを見せられる
さっきゲーセンに入った時に
とるとるキャッチャーで星野がゲットした景品
あたしが欲しそうにしてたから
わざわざ取ってくれたと思ったのに
自分の服につけて自慢するだけでくれなかった
「本当に欲しかったの?
それともあたしへの当て付け?」
「欲しかったぜ?
かわいいじゃん」
「むうう・・・」
「今日さ
中々楽しかっただろ?」
「え?
・・・うん、まあね」
ふっと目線を逸らして外を眺めてみた
地上を歩く人達が見る見る小さくなって行く
少しずつ空が近づいて来る
そういえば・・・こんなに遊んだのは久しぶりだったかも
最近のまもちゃんとのデートは
いつも近くの公園を散歩したりお家にお邪魔してみたり
本を読んでいる彼の隣でその横顔を眺めている事が多かった
一緒にいるだけで幸せだったからそれでも良かったけど
こんな遠くまで遊びに来たのは・・・いつ振りだったかな
動物園なんて行きたいって言ったら
子どもぽく見えないかなって思って避けてたのかも
「久しぶりに来たよ、動物園とか遊園地とかさ」
「おだんご・・・」
物思いにふけるその横顔をじっと眺める
彼女がどうしてこんなに気になるんだろう
初めてすれ違ったあの時から
その輝きがずっとオレを引き付けて放さない
おまえは・・・一体何者なんだ
その理由が知りたくて、二人で出かけようと誘ってみた
彼女の星の輝きがオレ達に必要ならば
それを知る事で利用する事だって可能になるかもしれない
すべては使命を果たす為
ただそれだけのはずだった
それなのに・・・
一日一緒にいてみて、もっと分からなくなった
その無邪気な笑顔を見ていると
心の奥がどんどん温かくなっていく
彼女に接しているとどうしていつもこんな風に感じてしまうんだろう
使命の事までほんのひと時忘れてしまっていた
この気持ちは何だ?
オレは・・・こいつの何に惹かれているんだ
「ねえ、何でいきなり遊びに行こうなんて誘ってきたのよ
こーんなとこ写真に撮られたら大変なんじゃなあい?
新たな恋人出現!なーんちて」
「いいけど?
・・・オレは」
「・・・は?」
会話がそのままぷつっと途切れる
シンとした狭い空間
そういえば、観覧車って恋人同士が乗るもんだよね
・・・何だかいきなり二人きりを意識して緊張してきた
真剣な眼差しがさっきからずっとこっちを見つめてくる
何?
あたしの反応を待ってるの??
そんなの・・・困るよ
目を伏せて時が経つのをひたすら待つ
そのうち観覧車が一番上に到達した
何もしゃべらないでいると
過ぎていく時間がやけに長く感じる
あと半分も、空気が持たない
「あははっ
・・・いい眺めだね」
はぐらかして話題をかえてみる
「おだんご、
ちゃんと聞いてるか?オレの話」
「何よっ
いきなり真剣ぽくなっちゃってさ
いいけどって何よ
・・・あーそっか
女の子なら見境ないんだっけ?」
「誰がっ・・・オレは」
「あたしは困るから!
・・・言っとくけど」
「・・・っ!・・」
かけようとした言葉を遮られた
最後まで言わせないのは・・卑怯だろ
「・・・おだんごの彼氏
海の向こうだって言ってたよな?」
「うん 毎日手紙書いてるの
離れていてもあたしの事ぜーんぶ分かるように
だけどちっとも連絡ないんだ・・・まもちゃんから
大学の研究とか・・・色々忙しいみたい」
「薄情な奴だな
おまえ、そいつに騙されているんじゃねえの?」
「・・・そんなことないよ?」
「だってさ」
「そんなこと・・・ない
まもちゃんはいつでもあたしの事・・・
どうして、そんな言い方するの?」
「・・・・・・」
確かに、オレには関係ない事なのに
なぜだろう・・・
その遠い横顔を見ていたら
彼女を悲しませている相手に無性に腹がたってくる
「ごめん・・・」
「あははっ・・・別に気にしてないのよ
あたしとまもちゃんは心が繋がっているもん
何も心配なんてしてないんだから・・」
心配していない
・・・なんか自分に言い聞かせているみたい
でも、本当に信じているから送り出せた
どんなに遠くに離れていても
あたし達の心はいつでも一つなんだよね?まもちゃん
そうこうしているうちに
地上がどんどん近くなってきて
すぐ目の前でドアを開ける人が待っているのが見える
「なんか、観覧車に乗るともう遊びも終わりって感じがするね
ありがと、今日結構楽しかったよ?」
開いたドアからぴょんと少しジャンプして着地する
「・・・おだんご?」
「ん?」
振り返ったら星野に頭をぽんと叩かれた
「元気出せよ
いいとこ連れてってやるから」
「は?いいとこ??」
「まだまだ帰さないからな
子どものデートはここまでだ
ここからは大人の時間さ
・・・ナイショだぜ?」
「うわっすっごい音!!
何、ここ」
扉を開けたらいきなり光と音の嵐が押し寄せてきた
ここってライブハウス?
高校生がこんな所来ちゃっていいのかな・・・
「おだんご!
こっちこっち」
星野に呼ばれてそのままついて行ったら
個室みたいな所に案内された
「専用の部屋まであるんだ・・・
さっすがアイドル」
「まあ、入れよ」
バタン とドアが閉まると
今までの音の洪水が嘘のようで
シンとした静けさが耳の奥まで響いてくる
「・・・・・・」
「さて、と
・・・どうした?」
「えっ?
いえ、何でもないよ・・・」
こ・・・これは
ちょーっとヤバイのかな
気がついたらこんな部屋に二人っきりなんて
あたし、軽率だった?
ついさっき掛けられたはるかさんの忠告が頭に思い浮かんできた
大人の時間とか言ってたけど・・・何かされるの?
「・・・おだんご」
いきなり真後ろから声が届く
それに体が過敏に反応して跳ね上がった
「なっ・・・何?」
「何か、飲むだろ?
どれがいい?」
「え?
あ・・・えーっと・・」
「おまえ、何緊張してんだよ」
「だ、だって・・・こんな所あんまり来ないし
どうして来たの?」
「どうしてかな
おまえの、すべてが知りたいから かな」
「じょっ冗談やめてよ!」
「冗談言ってどうするんだよ
そんな事言ってさ
ははーん、さてはおまえ・・・初めてだな?」
「はああっ?
そんな事聞くってどういうつもりっ
はっ・・・・・初めてなんかじゃないわよ」
最後の方はもう消えそうなくらいか細い声しか出てなかった
「うっそだー!
じゃあ、
・・・なんでそんなに硬くなってるんだ?」
「はは・・・は」
「・・・おだんご」
「!?」
いきなり強く手を握られる
「大丈夫、オレがしっかりリードしてやるって
結構上手いんだぜ?これでも
始めはちょっと緊張するかもだけど
慣れれば何てこと無いから・・」
強い言葉に縛られて
もう、声が出ない
どうしよう・・・このままじゃ
「体の力を抜けよ
最高に気持ちいいぜ・・」
「あ・・・や
やっぱだめっ!!」
堅い意志を貫いて
その手を振りほどき後ずさった
「おだんご?」
「あっあたしには、まもちゃんという大切な人が・・・」
「おまえ・・ここまで来て何言ってんだよ
クラブに来たんだから踊らないでどうするんだ?」
「・・・は?
踊り??」
「そうさ
初めてなら教えてやるから、やってみろよ」
「お、・・・踊りとは
ダンスの事でございますか?」
「おまえ、おもしろいなあ
ダンスじゃなかったら何だ?
盆踊りか?
ははははっ」
「あははははっ
・・・なんだあ、ダンスの事ね」
急にほっとして腰が床に落ちる
「まあ、実践するのが一番だな
部屋を出て向こうでやってみようぜ!」
あたしがちょっと元気なくしちっゃたのを見て
星野なりに気を遣ってくれたのかな?
こういう所は結構いい奴なんだよね
よしっ
踊りまくって楽しんじゃうんだからね!
ドアを開けたら
その向こうは真っ暗だった
音楽も止まっててすごく静か・・・
さっきまであんなにうるさかったのに
「どうしたんだろ?
もう終わっちゃったのかな」
「・・・・・おだんご」
「ん?」
「オレの傍から離れるなよ」
「何かあったの?
・・・っ!?」
暗闇の中
肩を引き寄せられて抱き締められた
「・・・星野?」
どうしたんだろう
雰囲気が、変わった?
肩を掴む指にぎゅっと力がこめられていく
「みーつけたっ」
弾む声と共に暗闇から浮かび上がる小さな白い影
あれは!?
まさか、また誰かのスターシードを狙って・・・
「あなたのスターシードを貰いに来たの!
星 野 君?
うふふふっ」
星野がターゲット!!
どうしよう・・・どうしたらいいの?
「おだんご逃げろ・・・
早く!!」
「・・・っ!
・・・うん、分かった・・」
その場から後ずさって全力で走り去った
「逃がさないわよっ
今日こそスターシードを見つけて
朝一で持って帰らないとなんだからっ」
星野一人残して来た事は気がとがめるけど・・・
でも、ここは逃げるフリをしてすぐ変身よ!
待ってて、星野
「ムーンエターナルメイクアップ!」
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