『ファンタスティック国際音楽祭チケットは
完売いたしました』

 電話の先から流れる自動音声が
 横にいるあたし達の耳にも入ってきた


「完売・・・」

「えーっ!!」

「やっぱり、倍率が高かったのね・・・」

「せっかくスリーライツが出るのに
チケットが取れないなんて」


「いやだいやだいやだいーやーだーー
絶対行くのーっ!!」

「美奈子ちゃん・・・子供じゃあないんだから;」

「完売かあ・・・」



 新学期が始まってもう2ヶ月

 制服の衣替えも終わっって
 みんなの新品の夏服が春の日差しを浴び
 キラキラと輝いている


 スリーライツの出るコンサートがあると聞いたあたし達は
 チケットをゲットしようと
 みんなで電話を掛けまくったけれど
 結局購入することが出来なくて・・・
 公衆電話の前で立ち尽くしていた


「うーん、行きたかったなあ・・・」

「うさぎは元々スリーライツに興味なんてなかったじゃない」

「えーだって・・なんか楽しそうじゃん!
みんなとお出かけしたかったよう」

「その程度の情熱で電話が繋がると思ってんの?
あんたがそんなだから買えなかったのよっ」

「何よっ八つ当たり?
運に情熱なんて関係ないわよっ」

「あるわよっ
あたしが気合で福引の特賞当てた事あるの忘れた?
豪華客船のクルーズのチケット!
運なんて気合で何とでもなるんだから!!」

「あれは霊感で当てたんでしょ!
インチキレイちゃんっ」

「何ですってー!」


「ああもう
・・毎度の事すぎて止める気すら起きないよ;」




「ごきげんよう」

 レイちゃんと喧嘩している後ろから
 聞き覚えのある声が話しかけてきた

 落ち着いた 大人の女性の優しい声


「・・・みちるさん!?」


「よう、おだんご達」

「はるかさんも!
・・どうしたんですか?」


「ドライブをしていたら貴方達を見かけたのよ 
ねえ、
お目当てのチケットって・・これの事かしら?」

 そう言われて目の前に差し出された
 人数分のチケットにみんなで釘付けになる


「こここれって・・・
ファンタスティック国際音楽祭の・・・チケット?!」

「嘘っっ」

「頂いちゃっていいんですか?」


「どうぞ
皆さんでいらしてね」

「いらしてね・・・って・・?」

「そうえいば
なんでみちるさんがチケットを?」

「しかも招待券なんて・・・」

「なんだ、
・・・騒いでいる割には何も知らないんだな」

 ふふっと
 意味ありげに微笑むみちるさんをちらっと見て
 はるかさんが脇に挟んでいた一冊の雑誌を開いて見せてくれた


「スリーライツ、海王みちる

・・・ジョイントコンサート?!」

「ええええーー!!」

「みちるさん、スリーライツと共演するのかっ」

「すっごーーい!」

 みちるさんがいきなり有名人に見えてきちゃって
 つい目の前の本物と雑誌を何度も見直してしまった



「あ、そういえば・・・

はるかさん達って
今、どこで何しているの?」


「なんだい?・・・藪から棒に」

「いやあ、ただの素朴な疑問というか
・・・高校に通ってるの?」

「そういえば、無限学園崩壊以来
制服着ているところ見たこと無いかも・・

みちるさんとコンサート開きながら世界一周豪華旅行とか
やっちゃってるんですかー?」

 美奈子ちゃんと興味津々に詰め寄ってみる


「・・・そんなに、
ボク達に興味あるのかい?子猫ちゃん達」

 囁くような優しい声で笑いかけられた
 その視線がすごく色っぽくて
 女の人だと分かっているのに・・変にどきどきしてしまう


「ええ、まあ
・・・女子高生の好奇心がむくむくと」

「大人の世界が気になる年頃なんですう」


「いいのかい?
知ってしまったら、もう戻れなくなるかもしれないぞ?」

「はははるかさんたらっ」

「じょ・・・冗談ばっかり」



「はるか
だめよ、からかっちゃ」

 真っ赤になるあたし達に助け舟を出してくれたみちるさんが
 くすくす笑いながら答えてくれた


「4人で暮らしているのよ」


「・・・4人?」

「プルートと、ほたるもな」


「外部の皆さん
一緒に暮らしているんですか!?」

「ええ、何かあった時にすぐ行動できるでしょう?」

「いつも一緒にいる方がお互い楽なのさ」


「へえー・・・」

「なあに?その反応は」

「いやまあ、
あたしはてっきり二人で
ラブラブに暮らしているもんだとばかり思ってました」


「ははっそんな事
・・・こうして、なりたければいつでも二人きりにはなれるからね」

「もう、はるかったら・・・」



「はあ、そうですか;」

「相変わらず周りの空気が違う人達・・・」

「完璧二人の世界に入り込んじゃってるよ;」



「・・・あのー」

 花畑が二人を取り囲む雰囲気の中に
 美奈子ちゃんが恐る恐る割って入っていく


「みちるさんを見込んでもう一つお願いが・・・」












「それにしても良かったな
人数分チケットが手に入って」

「まさかみちるさんも出演するなんてね」

「コンサート、すごく楽しみね」


「ねえねえ美奈子ちゃん
・・・どうして一枚多く貰ったの?」

「ふっふーん!
・・・いい考えがあるのよ
この愛野美奈子にまかせておきなさい!

・・・まだ放課後は終わっていないわよね
行くわよっうさぎちゃん!!」

 あたしの腕を掴まえるといきなり走り出した


「ちょっと、待ってよ美奈子ちゃん
どこ行くの?」

「学校に戻るのよっっ」













「では、会長また明日・・・」

「ああ、・・鍵を頼む」

 つまらない定例会議がやっと終わり
 最後まで残っていた副会長と共に生徒会室を出た

 そのまますぐに動き出すのも面倒で
 彼女の後姿を何の気なしにぼうっと眺めていたら
 それを見送っているのだと勘違いしたらしく
 何度もこちらを振り向いて頭を下げてくる

 それにいちいち反応するのも面倒で
 見えない振りをして視線を逸らした


「毎日毎日、くだらない事ばかりだ
・・・つまらんな」



「・・・そんな会長に
愛の女神が朗報をお持ちしました〜」

「!?」

 いきなり真横から声をかけられ
 不覚にも体がびくりと反応してしまった

 すぐにその方向を確認する
 金色の豊かな髪を揺らした少女が
 ニヤニヤとした視線をこちらに向けていた


 ・・いつの間に近づいてきた?
 一切の気配も感じられなかったぞ

 この女・・・あなどれない


「愛野さん・・・だったね
何か用かな?」

「毎日生徒会のお仕事も大変でしょう
そりゃあ気も詰まりますよね〜

たまには気分転換も必要・・・だと思いませんか?」

「一体・・何が言いたいのかな」

 異様な雰囲気に少し警戒しつつ聞き返す


「こーんな素敵なコンサートがあるんですけど
・・・どうですか?」

 そう言うと一枚の紙切れを目の前に差し出してきた


「ファンタスティック国際音楽祭・・・?」

「クラシックもあるし、スリーライツも出るんですよ
すっごくおもしろいコンサートなんです!!」


「いや、わたしはこういう物は興味がないのでな
誰か他の者を・・・」

「会長!!」

「・・・っ!・・」


「これ・・・滅多に手に入らないプレミア物なんですよ?

しかも招 待 券
行かないと損ですって!」

 ずずいっと
 前のめりになって攻めてくる
 威圧感に圧倒され、思わず後退した

 そのままチケットを強引に握らされる


「18時、開場です」

 不適な笑みが有無を言わさず約束を取り付けた



「ま・・・待ってよ美奈子ちゃん
はあ、やっと追いついた・・

あっ・・先輩」

「うさぎ・・・」

 心が一瞬動揺したが、すぐに冷静さを取り戻す

 目線が瞬時に彼女の指先に降りた
 指輪の存在をしっかりと確認する

 ・・机の上に置いておいた物を無事に見つけたようだな



「うさぎちゃん、遅いわよっ」

「ごめんごめん
そこの曲がり角で女の先輩にぶつかっちゃってさ
謝ってたの」


「またか・・・
少しは懲りて廊下くらい大人しく歩いたらどうだ」

「・・・すみません」

「おまえなんかにぶつかられるとは
・・・副会長も不運だったな」


「・・・誰 ですって?」

「今角を曲がって行ったのは、副会長だろう?」



「・・・・・ええええーーー!!」

「・・・っ・・
何だ、その反応は」

「だ、だって
・・あれが?!」

 副会長って確か
 黒縁眼鏡にきっちりと編んだミツアミがトレードマークだったのに

 あたしが今ぶつかっちゃった人・・・

 眼鏡もしていなかったし、すっきりとしたショートボブが
 くるんと内側にカールしていてすっごくかわいかった


「はあー・・・よくもまあ
あそこまで急に変わったもんですね」



「そんなに変わったか?」

「・・・はいい?
一緒にいて、気が付かなかったんですか??」


「・・・どうでも良いことには関心が無い」

 しれっとした態度で答えられた


 あきれた・・・
 女の子の変化に
 ここまで気が付かない人って、いる??


「・・・何だ、その間抜け面は
文句でもあるのか?」


「いえ・・・別に」

 この人・・本当に彼女なんて一生できないわ



「それで
当日はあたしとうさぎちゃんと
あとお友達が一緒に行きますので

じゃあ、そういうことでお待ちしてまーす!」

「・・っ・・・待てっっ」

 呼び止めようとした時には
 既にうさぎを引き連れて遙か遠くまで走り去っていた


「18時に入り口前集合ですよー
時間厳守でーす!」

 曲がり角から顔を覗かせ釘を刺す

 顔を引っ込めると手だけ出してこちらに振り
 そのまま消え去っていった



「なんてやつだ・・・」

 好意を無理矢理押し付けて
 こちらの意向を聞こうともしない

 あの手のタイプには今まであまり接した事が無かった
 対応に戸惑って、つい相手のペースにはまってしまった・・・


 手元に残った紙切れを眺める
 彼女の迫力に押し切られて受け取ってしまったが
 ・・・どうする?

 少し考える

 セーラー戦士達と、うさぎと
 仲良くコンサートだと?

 かつて戦った相手達と馴れ合うような事をすれと言うのか
 ・・・複雑な心持ちだ


 すっぽかすか?

 だが、行かなかったら何をされるか
 よくは分からないが
 ・・・何か嫌な予感がする
 それは止めた方が良いと直感が己を説き伏せてくる

 かと言って、今更断るのも面倒だ


 なぜわたしを誘った?
 あの女・・・読めない


「全く・・・」

 自然とため息が漏れる
 悩んだ所で最良の案は既に浮かんでいるのだ



「仕方ない・・・顔くらい出すか」

 厄介な事に巻き込まれた気がする

 あいつら・・・
 何かに付けてわたしの周りをうろうろする
 なぜだ・・

 不可解なやつらだ












「美奈子ちゃん
せんぱ・・会長にあのチケットあげたの!?」

 一緒に歩きながら
 事の経緯を聞かされて思わずびっくりしてしまった


「そうよう
だって、こんなチャンス滅多に無いわよっ
距離をうんと縮めるチャンスじゃない?」


「来るのかなあ・・・?」

「来なかったら、どうなるか
この美奈子様を甘く見たらいけないわよ
ふふふふ・・・」

 不気味な笑みを浮かべる
 何するかは分からないけど・・・なんか怖い;



「ねえ、美奈子ちゃん」

「なあに?」


「まだ、会長の事狙ってるの?」

「当たり前じゃない!」


「・・・スリーライツは?」

「もちろんよ!!」

「一体誰が本命なのよ〜;」


「・・・うさぎちゃん!!」

「はいっ!!」

 真剣な眼差しで詰め寄られ
 思わず畏まった



「・・・二兎を追うものは、一都六県よ」


「・・・・・はいい??」

「健全な女子高生たる者
男の一人や二人や三人や四人
さばけなくてどおするのっっ
最高のいい男をゲットするには時に掛け持ちも必要なのよ!!

・・・分かった?」


「えっと
よく分かんないけど・・・頑張って ね;」

「ありがとうっっ
うさぎちゃんなら分かってくれると思ったわ!」


「は・・・ははは;」

 手をしっかり握られてぶんぶんと振られる
 乙女パワー大全開の美奈子ちゃんは誰にも止められない


 それにしても
 みんなと・・・先輩も一緒にコンサート観に行くなんて


「本当に来るのかな・・」

 最近なんだか冷たくあしらわれている気がする
 胸の奥がずっともやもやして、落ち着かない


 来てくれるといいな・・・
 変に期待してしまう



 ちゃんとじっくり話をしたら何かが変わる

 そんな気がする