学校にもついに敵が現れた
 平和だった日常が
 じわじわと戦いの日々にすり替わってきた気がする

 セーラー戦士なんだから戦うことはあたしの使命

 ・・・だけど
 ごく普通でのどかな高校生活はすごく魅力的で
 つい、このまま普通の女の子でいたかったなと思ってしまう

 こんなんじゃだめなのに・・・
 心に迷いのあるまま戦っていても
 また変身ができなくなってしまうだけ


「・・よし!
頑張れ、あたし」

 迷いを振り切るように強く頬を叩いた
 これからみんなで作戦会議だし
 悩んでいる暇なんてないよ

 急いで下駄箱から靴を出し履き替える






「・・・あ、先輩」

「!!」

 向こうも帰る所だったのか
 下駄箱を出た所でばったりと鉢合わせた

 少しの間、無言のまま顔を見合わせる



「・・・こんにちは」


「・・・ああ」

「先輩も、今帰り?」


「そうだが」

「ふーん・・・」

 そっけなく返されて相槌しか打てなかった
 そのまま外へ向かおうとする
 当然、方向が同じであたしも後を追うように歩き出した



 外を出ても校門まで一緒なのは変わらない
 自然と並びあって歩いている光景が
 まるで待ち合わせてたカップルみたいで
 ・・・変なカンジ


「・・・・・・」

 なぜかさっきからぎこちない
 会話も全く無くて・・
 二人の靴音だけがやけに地面に響く

 心なしかいつもより余所余所しい・・・?

 校門までの距離がやたとら長く感じて
 たまらなくなって話題を振った



「生徒会の帰りですか?」


「・・・・・・」

 左手薬指に光る指輪
 それを軽く横目で確認する

 そのいまいましい存在から瞬時に目を逸らし
 前を向き直した



「そうだ・・・」


 会話が終わった・・
 なんでこんなに話が続かないんだろう
 わざと切られている気すらする

 負けずに明るい調子で話しかけた


「先輩さ、
今日も屋上への階段で生徒会さぼってたんじゃないんですか?

あたし今日はちょっと野暮用でお邪魔に行けなかったから
ゆっくり寝れたでしょ?」



「生徒会も忙しい
そうそう行ってられるか」


「そう・・なんですか」

 なんだ、行かなかったんだ

 顔を出せなかった罪悪感から少しほっとした反面
 約束を破られたような複雑な気分になった


 やっぱりおかしい・・・
 雰囲気がいつもと全然違う

 ずっと前ばかり見て
 まるであたしが目に入ってないみたい


 ・・・避けられてる?



「・・・っ・・」

 今日は行っていないなど・・嘘だった
 本当は彼女が来るかもしれないという可能性を捨てきれず
 人知れず少しの間留まっていた
 そのような間抜けな様子を知られたくはない


 こいつは・・・
 なぜ外へ出ても隣にひっついたままなのだ
 無視を決め込んで
 わざと冷ややかな対応で返しているというのに
 めげずに執拗に話しかけてくる

 付いて来れないように歩調を速めて先を急いだ


「!!」

 急に彼の歩幅が大きくなって
 あたしとの距離をどんどん伸ばしていく
 その後姿は怒っているようにすら感じられた



「ま・・・待って!!」

 たまらなくなって大声で叫ぶ

 その声に、彼の足が一瞬止まった



「ねえ、・・・あたし何かした?」

 こっちの問いかけに
 少し間をおいて後ろを振り返る



「・・・何もしていないが?

なぜそう感じる」

「だって・・・なんか変だよ!
いつもより冷たいっていうか、すごくそっけない

あたしの事・・・避けてるみたい」


「・・・・・・」

 目を伏せてしおれた顔をする

 わたしの変化に気づいたことは素直に褒めてやろう
 だが、その心髄までは理解していない
 それがこいつの浅はかさだ


「元々わたし達の関係など
そう親密なものではなかっただろう
ただの上級生と下級生

・・・それ以上でも以下でもない」


 冷たい瞳があたしに突き刺さる
 そう言われると何も返せない


「そう・・・だけど

・・・でもっ!」


「うさぎーーっっ」

「!!」

 校門の向こうからあたしを呼ぶ声


「レイ・・・ちゃん」

 みんなも・・・
 既に集まって最後のあたしを待っている

 言い出した言葉がタイミング悪く止まってしまった



「お友達が待っているぞ・・・月野さん」


「え・・と・・・
じゃあ、また」

 結局何も言えないまま・・・
 促されてこの場を立ち去るしかない


 彼の前を通り過ぎる瞬間
 ぼそっと呟くように声をかけられた



「おまえ、もう遅刻をするな」


 威圧感のある 低い声


「・・・え?」


 あどけない瞳が驚いた風でこちらを振り返る
 それを冷ややかな様子で見下ろしてやった


「いつもいつも
凝りもせず遅刻者名簿に載ってばかりではないか

さっさとわたしの目につかないようにしろ
・・・目障りだ」

「・・・っ・・」

 遅刻を注意するというよりは
 もうあたしを目にも入れたくない という風に聞こえる

 そこには優しさの欠片も無くて・・・
 乱暴に放たれた言葉が容赦なくぶつかってきた



「気を・・・つけます

さよなら・・」

 今度こそ、足早に彼の前から立ち去った






「うさぎっ遅いわよ!」

「ごめんごめん
ちょっと支度に手間取っちゃって」

「これからクラウンで作戦会議だろ」

「ちゃんとみんなで今後の事を相談しないと・・・」

 レイちゃんがちらっと後ろを向いて
 小声で話しかけてきた


「あの人・・・かっこいいわね」

「でしょーっ!レイちゃんも中々お目が高い
うちの生徒会長は校内のイイ男の中でもダントツぴか一よ!」

「ちょっとうさぎ?
まもるさんがいないからって浮気してるんじゃないわよ」

「そんなんじゃないよっっ」


「会長っさよーならー!!」

 美奈子ちゃんが彼に大きく手を振った
 それに対して言葉ではなく
 軽く手を振って反応している

 後ろを気にしつつ、みんなと学校を後にした
 何度か振り返って彼の姿を確認したけど
 ずっとこっちを凝視して立ち尽くしたままだった




「・・・・・・」

 一時騒がしかった校門がすぐにしんと静まり返る
 5人揃って仲良く帰る様子を
 見えなくなるまで眺めていた

 いつもつるんでいる3人と、それにあともう一人
 他校の女生徒
 その後姿には見覚えがあった


 彼女を囲んで集まる、4人の仲間達・・・



「なるほど・・・
あいつらは、セーラー戦士か」

 未来のクリスタルトーキョーを守る4人の守護戦士達
 彼女らと戦った記憶が鮮明に思い出された

 あいつらがいたせいで
 中々クリスタルパレスの侵略が進まなかったのだ

 ・・・今更、どうでも良い事か


 あいつの周りには、いつも仲間が集まっている
 皆あの明るい光に惹かれているのだろうか
 前も今も、彼女は一人ではない

 これで、良かったのだ


 もう、おまえの心はわたしの元に無い

 今のわたしはただの無力な人間で・・・
 おまえを闇の世界へ連れ去ることも
 そこに閉じ込めて留め置く事も不可能だ

 わたしに力さえあれば・・・
 おまえを再び奪い去ってしまえるだろうに

 新たに転生したこの場所は、毎日が腹立たしいほど平和で
 闇が付け入る隙など微塵も無い
 何もかもが違う世界・・・
 柔らかい日差しが万人に平等に降り注ぎ
 人々は生ぬるい人生に満足している

 あんなに焦がれていた光の世界を
 これ程までに憎らしく思う事になるとは・・・


 ・・・いつもそうだ
 一番欲しいものは絶対に手に入らない

 なぜわたしは転生した?
 この時代に、おまえの傍に


 今も昔も変わらずわたしを惑わす優しい光
 おまえは、なんといまいましい存在なのだ・・・











「また、新しい敵ね・・・」

 クラウンに移動して、みんなとの作戦会議が始まった


「しかも今度は敵までセーラー戦士だなんてっ」

「目的は何だったんだ?
何かを探している様子だったみたいだけど・・・」

「まさかまた、銀水晶を・・?!」

「その可能性もあるわね・・・」


「そして、あの途中から
乱入してきた奴らは・・敵なのか?味方なのか?」

「セーラースターライツ・・・とか言ってたわよね」


「あいつらも、セーラー戦士・・・」

「・・・どうしてセーラー戦士同士で戦うのかしら?」


「ねえ、うさぎちゃん
この間の戦いはどんな感じだったの?」


「・・・・・・・・」



「・・・うーさーぎーーーっ!」

「・・・!!
あっ えーと

・・・何の話だったっけ?」


「あんたはもう・・・何やってんのよ!」

「大事な相談をしていたのよ?」


「・・・ごめんね」

「・・・どうしたんだい?
さっきから元気ないよ」


「えっ・・・あ・・
いやーなんだかさあ、ちょっとおセンチモード?

また戦いが始まっちゃったんだなあ
・・・って思ったらちょっと寂しくなっちゃった」

「・・・うさぎちゃん」

「せっかくみんなとの楽しい高校生活が始まったのに・・・
なんだか、ちょーっと残念だなあって」


「・・・・・・・・・」

 辺りがしんと静まり返った



「まあ、仕方ないわよね」

「それがあたしたちの使命だし!」

「みんなの平和を、この地球を守るためですもの」

「誰かがやらないとな!」


「うん、そうだよね
束の間の平和なひと時だったけど・・・楽しかったね」


「・・・あんた、何言ってるのよ!」

「それはそれ、これはこれだろ?」

「これからもあたし達の楽しい時間は続くのよ」


「そうよっ高校生活だってエンジョイして
戦いと恋を見事両立させるのよ!!」

「・・・やっぱりそこにお勉強は入らないのね;」

「あたし達には、大切な夢だってあるんだから
立ち止まってなんかいられないわよっ」

「弱気なうさぎちゃんなんて、らしくないよ」


「みんな・・・うん、そうだよね!!

あたしったら
なーに深刻になっちゃったりしてたのかなあ
いつも、どんな戦いもみんなで乗り越えてきたのにね」

「そうよ
こんなに心強い仲間がいるのに・・・忘れちゃイヤよ?」

「楽しい高校生活を邪魔するヤツはこの愛野美奈子がっ
みーんなやっつけちゃうんだから!!

おーほっほっほっ!」


「美奈子ちゃん;」

「テーブルに足をかけちゃだめだってばっ;」

「あはははっっ」

 みんな・・・ありがとう

 元気のないときは励ましてくれるし
 いつもあたしの傍にいてくれる
 かけがえの無いあたしの大切な仲間達


 これから始まる戦いに比べたらこんなこと・・・
 悩みのうちに入らないよね


 ・・・・・・・・


 さっきから、どうしちゃったの?
 ・・・あたしの心は
 ぽっかりと穴があいて塞がってくれない
 胸の奥がずっともやもやしている


 さっき彼と交した会話の中で
 どうしても気になる一言が頭から離れてくれない


 月野さん・・・って

 どうして今更あんな呼び方・・・
 いきなり距離が遠くなった気がした


 目障りだなんて・・・
 あたし、何か彼を怒らせることをしたのかな?

 いくら考えても、原因が分からない

 あんな蔑む瞳を向けられるくらいなら
 いつもみたいにからかってくれた方がずっといいのに
 もう・・・そうしてくれないの?


「・・・っ・・」

 分からない
 どうしてこんなにあの人の事が気になるんだろう


 理解不能な自分の心をみんなに説明する事ができなくて
 ただカラ元気を見せて笑うことしかできなかった