オレたちの前に一直線に続く真っ暗い道
 その先に漏れる光の筋を頼りに歩みを進めて行く

 どんどん大きくなっていくオレ達を待つファンの声


「・・・見つかるだろうか」

「大丈夫だ
その為にオレ達はここまで来たんだから」

「見つけてみせますよ、必ず」

 そうだ・・・何に代えても見つけ出してみせる
 希望の光を

 もう前に進むしかない


「さあ行こう、時間だ」

 歓声で震える扉を開け
 光の溢れる世界へ飛び込んだ













「・・・いい天気」

 暖かい春の日差しが降り注ぐ
 ふわりとそよぐ風が頬を優しく撫でてきてすごく気持ち良い



 ネヘレニアとの戦いもようやく終わって
 やっと平和な高校生活が戻ってきた

 ・・・なのにあたしの心は沈みっぱなし


「まもちゃん・・・」

 さっきからずっと晴れた空を見上げていた
 どこまでも透き通っている青い海を
 白い筋がいくつも通り過ぎていく

 あのどれかにあなたがいるのかな・・




 アメリカに一年
 ・・・もしかしたらもう少し帰れないかもしれない


 躊躇いがちに言われた留学の事実

 本当はずっと傍にいて欲しかったけど
 まもちゃんの夢が一つ叶うんだもの
 ・・・あたしは応援してあげなきゃいけない

 そう思って空港まで彼を見送りに行った

 一生会えないわけじゃないし、あたしは大丈夫だって
 手紙も毎日書くねって
 笑って伝えようと決めていた

 なのに・・だめだなあ
 まだまだ修行が足りないよ
 精一杯頑張ってみたけど涙はやっぱり出てきちゃって
 少しだけまもちゃんを困らせた気がする



「・・・行っちゃった」

 彼が乗っているであろう飛行機が
 空に溶け込んで見えなくなるまで見送って・・
 そのまましばらく
 空を見つめてぼうっとしていた



 翼があったらいつでも飛んでいけるのに・・・


「・・・いけないっ

学校抜け出して来ちゃったから急いで戻らないと!」

 ふっと現実に戻って、慌ててその場を後にした

 その左手薬指には
 ついさっき彼から貰った約束の証が光っている











「・・・?
どうしたんだろ??」

 向こうで騒ぐ声が聞こえてきた

 ・・・そういえば
 さっきも空港の中が騒がしかった気がする
 気になって自然とその方向に足が向いた




 騒ぐ声を頼りに近づいたその先に
 ひと際目立つ人だかり

 しかも女の子ばっかり


「うーん、よく見えないや・・・なんだろう

芸能人か何かかな?」

 誰かがぐるっと囲まれているみたい
 気にはなるけど・・この中を掻き分けていく気力がない;



「んむむむ・・・
・・・・・・・・!!」

 少しの間、その様子を眺めていてはっと我に返った


「大変!早く戻らないとだったんだ!!
こんなことしている場合じゃないよっ

昼休みまでには間に合わないと・・・
お昼ごはん食べられなくなっちゃう;」

 騒ぐ女の子達の横をすり抜けて走り去る



「どいてくれないかな・・・迷惑だから」

「・・・困りましたね」

「・・っ!・・どけよっ」

 つい声が荒ぶった
 まとわりつく腕を振り切って前に出る




 その瞬間
 目の前をきらりとした金色の光が横切った




「!?」

 なんて眩しい・・・強い光
 この星にこれ程までの輝きを持っている者がいるなんて

 なんだかとても温かくて・・懐かしい


 不思議な感覚に惹かれてそれを目で追う

 ゆっくりと 流れていく時間の中で
 ふっと振り向いた青い瞳と確かに目が合った



「・・・っ!!・・」

「・・・?」


 永遠にも感じたその刹那はあっという間に通り過ぎ
 再び騒がしい雑音が耳の奥に飛び込んでくる






「まったく・・あいつらどうかしてるよ!」


「・・・・・・」

「星野?
どうしたんですか」

「・・・!!

いや、なんでもない」


 今しがたすれ違ったおだんご頭をした女
 ・・・一瞬、あの方かと思った

 そんなはずはないのに



「まさか・・な
どうかしてるぜ」

 軽く閉じた口の隙間からふっと笑みが漏れる


 あの方と勘違いするなんて・・・
 どうしたんだ・・オレは

 だけど、彼女から何かを感じた


 すれ違ったその刹那
 まるで二人の時が止まってしまったかのように
 とても長く感じられて


 オレ達の希望の光
 それを見たような気さえした



 あれは・・誰だったんだ











「まもるさんに指輪を貰うなんて」

 まもちゃんを見送った放課後
 いつも通りクラウンにみんな集まって
 とりとめもない話ばかりしていた


「それってもしかして・・・アレ?」

 意味深に笑みを浮かべるまこちゃん


「アレって 何?」

「・・・まさかあんた
本当に分からないんじゃないでしょうね
一応女の子でしょうが!!」

「そりゃあレイちゃんよりはプリティーよん☆」

 いつも喧嘩ばっかりしちゃうレイちゃん


「・・・なーんーですってーーー!」

「あーん
レイちゃんがいじめるう;」

「二人とも・・・お店で騒いじゃだめよ;」

 横から苦笑いをする亜美ちゃん
 こうしてみんなと一緒にわいわい騒いで過ぎていく放課後
 かけがいの無いあたしの幸せな時間


「それにしても
やっと平和になったな」

「今までなんだかんだと戦いばっかり続いてたもんね
こんなにのんびりしちゃうと
なーんだかだらけちゃうわ」


バン!!

 緩んだ雰囲気を打ち崩すように
 いきなりテーブルを叩く強い音がした


「美奈子・・ちゃん?」

「みんなだめよっっ
こんなだらだらしてたら!

健全な高校生らしい生活を送るのよっ
気ぃなんて抜いてられないわ!」

 拳を握り締めて力説する


「高校生らしい事 って?」

「そりゃあもう

彼氏とラブラブ☆でしょっっ
美奈子、本気出して行きまーす!!」



「・・・美奈子ちゃん、お勉強は?」

「お勉強ですって!
そんなものっっ

うさぎちゃん!!
一緒に追試受けようねー!!」


「美奈子ちゃん!!

補習もねっっ」

 強い連帯感で抱き合うあたし達


「あーあ
もう補習ペア結成しちゃってるよ;」

「まったく・・・」

 いつも一緒に騒いでくれる美奈子ちゃん

 繰り返されるみんなとの変わらない毎日
 こんな時間がこれからもずっと続いていくといいな






「もうすっかり暗くなっちゃったわね」


「おうち帰ってご飯食べよう!」

「あんた・・・あれだけケーキ食べてまだ食べるつもり?」

「なによっ文句あるわけっっ」

「まあまあ;
もう遅いことだし今日はそろそろ帰ろうか」


「明日また学校でね」

「うん!ばいばーい!!」


「うさぎちゃん
ちゃんと今日の復習するのよ」

「・・・ううっ;」


 クラウンの前でみんなと分かれて歩き出した


 夕焼けが辺りを包み込む
 電柱も 道も
 みんなオレンジの光で染まっている



「やっと・・戻ってきた」

 ずっと望んでいた 平凡で穏やかな日々
 何があるわけでもなく
 何気なく過ぎ去っていく時間
 それがこんなに素敵な事だったってしばらく忘れていた

 不安なんて特には無い


 なのに、どうしてかな

 一人になった時やこんな夕日を見ている時
 言いようの無い喪失感を感じてしまう

 みんなと過ごす楽しい時間の隙間をぬって
 ふっと冷たい風が心の中を通り過ぎていく



「・・・あっ・・・・・雨だ」

 小雨の雫がぽとりと頬に落ちてきた


 しとしとと降る春の雨
 アスファルトに染み込む雨の臭いが
 心の奥に封印した古い記憶を呼び戻す

 ・・・別れの季節を思い出させる




「分からないわけないよ・・・コレの意味」

 左手の薬指をぎゅっと握った



 あれからもう2年が経つ
 一度心が離れてしまったあたしを責めもせず
 まもちゃんはただずっと待っててくれた

 最近やっと元に戻った気がするのに
 どうしてまだこんなに胸の奥が苦しくなるんだろう


 忘れられてないのかもしれない
 ・・・あの人の事を



 ふと、足が止まった
 雨が振りそそいでくる空を見上げる

 いつの間にか夕日も沈み
 目の前の街灯にぽっと明かりがともった



「忘れ・・られるわけないよ」

 ぽつりと心の声が言葉に変わった
 誰にも言えない たった一つの隠し事

 でも、あたしは前に進まないといけない
 立ち止まってはいられないんだ



「・・・・早く・・帰ろう」

 濡れないように足を速めて家路に向かった