「膝の上・・・座っていい?」

「おまえのためだけの特等席だ

・・・いつでも空いている」


 椅子から立ち上がり自分から近づく
 少しずつ距離が縮んでいく度に鼓動が速くなっていく


 ゆっくりと膝の上に腰を下ろした

「・・・」

 いきなり緊張する
 目が泳いで視点が定まらない
 どうしたらいいんだろう


「おまえ・・・
今どれだけ自分がかわいいか分かってるのか?」

「・・・え?」

「これから何されるんだろうと
そわそわしているのが伝わってくるぞ

・・・何をして欲しい?」

「・・・別に何もしなくていいもん」

「意地っ張りな女だな」


 優しい手が髪を撫でる

 そのまま体を引き寄せられた


「・・・・・・」

 何も言わず腕を回してあたしも抱きしめる


 彼女のぬくもりは
 いつもわたしの心を優しく暖めてくれる

 静かな空間に響く心臓の音がとても心地よい
 お互いの鼓動が重なっていくのが分かる



 体がそっと離れた
 デマンドの手のひらがあたしの頬を包み込む

 そのまま熱いまなざしが近づいてきた

「・・・ん」

 瞼の上に唇が触れる

 ・・・そのままおでこに軽くキスされた


 指先が首筋を伝っていき
 唇がその後を追う

「・・・はあ・・・」


 ・・・中々唇にキスしてくれない
 じらされるとなんだか胸がすごく切ないよ

 頬を撫でる手から
 愛おしさが伝わってくる


 唇が頬にも触れた

 優しすぎるキスに体がどんどん溶かされていく


 セレニティの瞳をゆっくり見つめてみた
 とろんとした眼差しが可愛らしくてたまらない

「デマンド・・・」

「・・・愛している」


 その唇があたしの唇に軽く触れた

「はうっ・・・」


 体に電気が走る
 軽く触れただけなのに
 なんだろう
 ・・・頭の芯が溶けそう

 そっと
 唇に触れるか、触れないかの軽いキスが繰り返される



 それが段々と長く・・・強くなっていく


「・・・んんっ・・」


 緊張して体に力が入る

「・・・唇の力を抜いてみろ」

「うん・・・」


 優しく唇を挟み込む
 それに応えようと彼女も唇を動かしてきた

 何度も何度もお互いの唇を離しては合わせる


「・・・・・はあ・・・・・・んん・・」

 一方的じゃない
 ちゃんとあたしのペースに合わせてくれている

 ・・・背筋がぞくぞくしてくる



「・・セレニティ」

 デマンドの舌先があたしの唇をなぞる


「舌を・・出せ」

「・・・・・・ん」

 ためらいつつ それに従う


 舌先がそっと触れ合った
 優しくつつかれ撫で回される

「はう・・・」


 漏れる息が舌先にかかった
 彼女の酔いしれている表情が衝動を掻き立てる

「・・・・・・」

 髪の毛にゆっくり手を通す



 不意に頭を撫でていた手に力が加わった

「・・・んんっ・・!」

 舌が押し戻されると同時に口の中にデマンドの舌が侵入してきた
 そのままねっとりと舌をからませてくる


 ・・・キスが急になまめかしくなった

 舌の動きはゆっくりなのに 激しい


「はあ・・・・・・ん・・んんっ」

 息が出来ない・・・
 必死について行こうと頑張っても追いつかない

 夢中になっちゃだめ・・・流される

「・・・・・・」

 もつれる舌先に感覚が集中する

 もう・・・
 頭の中が真っ白


 思考も停止してただひたすらお互いを貪り合う

 吐息と体温がどんどん溶けあってゆく・・・




「・・・・はあ」

「・・・・・・はあ・・・はあ・・はう・・・」

 唇から舌先が離れた


「・・・大丈夫か?」

「ん・・・ちょっと休めば・・大丈夫」

 体が痺れて手の先まで力が伝わらない

「このまま少し休め・・・
わたしもさすがに疲れた」

「うん・・」

 デマンドの胸に抱かれたまま息を整える



「・・・だめだったあ;」

「どうした?」

「またデマンドのペースに流された

・・・悔しい」

「何を言っている?

わたしに敵うわけないだろう」

「何よそれっ
随分と余裕じゃない

・・・そのうち足をすくってあげるから覚悟しなさいよっ」

「くくく・・・
こういう勝負ならいつでもしてやるぞ」

 膨れている彼女の頭を撫でてなだめる

「・・・むう」



「もう落ち着いたか?」

「ん・・・
キスだけでこんなに時間がゆっくり流れたのは初めて

夢中になりすぎて途中からよく覚えてないよ」

「わたしも最後は少し加減を忘れてしまったが・・・
それで良い

こういう事は体で感じて覚えるものだ」

 確かに・・・これは経験を積まないと分からないわ
 妙に説得力がある


「あたしは・・・やっぱり色々とまだこどもみたい

もうちょっと大人になれば・・・」

 ・・・あなたを受け入れられる気がする


「そんなに急に大人になって貰っては困るな」

「どうして?」

「からかい甲斐がなくなるではないか」

 頬をひっぱられた

「ひゃにふんのよ

・・・もうっ」

「はははっ」

 いつもいきなり予測もしないことでわたしを翻弄させる
 今度は何をしでかすのか
 つい期待してしまう


「すぐに大人になる必要はない
少しずつ色々と教えてやろう

ゆっくりと時間をかけて」


「うっ・・・・・・

お願い・・・します」

「・・・・・・くくくっ
やけに素直じゃないか」

「なによっ

今に見てなさいよ」

 彼女との勝負はこれからも続くらしい