「うーーん・・・」

 あたしは悩んでいた

 あのまっすぐな瞳に押されて
 気が付いたらいつもデマンドのペースで流されている
 あたしはされるがままに従うしかない

 それがすごく悔しい


 色々と彼の方が大人なのは認める
 その時点であたしは既に敵わない


「・・・第一経験の差の時点で違い過ぎるのよね」


 経験・・・


 ・・・・・・・・・



 ・・・想像しちゃった
 勝手に一人で顔を赤くする


「うん・・・

決めた!」

 せめてキスくらいまともに出来るように
 練習しておこう

「特訓よ!!」


 特訓・・・

 一人意気込んでみたけど どうしたら良いんだろう


 ・・・・・・・・・

 よくさくらんぼの茎を舌で結べるようにする
 とか言うわよね

 さくらんぼ・・・・・・


 ・・・ない

「ううっ・・・」

 初めから挫折しそう;

「・・・こんなんでくじけちゃだめよ!」

 代わりのものを探してみよう

 ・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・


「だめだあ;」

 ふと
 視界の隅に自分の髪が揺れているのが見えた

「あっ!」

 一本引き抜いて

 半分に折って
 折って
 折って・・・

 おもむろに口に放り込む

 そのまま目をつぶってイメージしてみた

 ・・・・・・


「うーーん・・・」

 ・・・難しい
 これはすぐにできるもんじゃないわ



「・・・何をしている?」


ごくん


 飲み込んじゃった・・・

「急に話しかけないでよ!
びっくりしたじゃない


・・・いつからそこにいたの?」


「・・・?

来たばかりだが」

「・・・・・・」

 とりあえず気づかれてはいないみたいね

「食事を持ってきた

食べるか?」

「うん・・・ありがと」

 一緒にテーブルについた

「・・・いただきます」

 ぼーっとしたままパンを口に運ぶ


「・・・・・・・・・」

 つい意識して彼の唇を見てしまう


「どうした
食欲だけはいつもあっただろう?
足りないのか

・・・こちらも食べるか?」

「余計なお世話です!」


 あたしどうしちゃったんだろ・・・
 気が付いたらデマンドを見つめている

 彼の食べる姿がなんだか妙に色っぽい
 同じ唇があたしに触れてくると思うと
 なんだかどきどきして変な気分


「・・・・・・」

 さっきから様子がおかしい
 やたらとこちらを気にしている気がする



「おまえ・・・

今欲情してるだろ」


ボトッ


 動揺して手からパンが落ちた


「そそそんなことないわよっ」

「なんだ図星か」

 デマンドがニヤリと笑みを浮かべる

「うっ・・・」

 なんか嫌な予感


「さっき何をしていた?
わたしが部屋に入ってきた時、挙動不審だったぞ」

「何もしてなかったわよ」

「・・・言わないなら体に聞くぞ」

「!!


・・・笑わないでよ」

「聞かないと何とも言えないな」



「・・・・・・

練習していたの・・・」

「何の?」


「だから・・・・・・キスの」

「・・・・・・」

 また馬鹿にされるよ



「・・・なぜそんな
おいしい事を一人でしている?」

「なっ・・・」

 デマンドの意外な言葉に心臓がどきっとした


「わたしで試せ」

「それだと練習にならないでしょっ」


「・・・・・・

くっ・・・ははは!」


「もう・・・」


 この女はいつも予想だにしないことで笑わせる

「確かにそうだな

・・・くくく」

 彼の笑顔は結構無邪気でかわいい
 それに最近気が付いた


「まさか
キスされる事を期待してくれていたとは」

「そんなことしてないよっ」

「練習までしてくれたのに?」

「・・・むう・・」

 なぜこんなにやる事すべて
 愛おしく見えてしまうのだろう



「いくらでも実践で教えよう

おいで」

「え・・・あの
おいで と言われましても・・・

心の準備が・・」

「いまさら何だ」

「・・・・・・」

 確かに今更だけどやっぱりどきどきするよ


 ・・・そうだ
 いつもこの時点で既に負けている

 ま・・・負けない



「膝の上・・・座っていい?」