・・・頭がガンガンする

「痛っ・・・」

 最近寝覚めが良くない
 ひどい脱力感と頭痛で目が覚める


「具合はどうだ?」

「デマンド・・・」

 目が覚めるといつも
 彼はあたしの横にいる

「また心配かけちゃったね」

「気にするな

もう少し休め」

「ううん

もう大丈夫」

 ゆっくりと体を起こした


「あたし・・・どうしてたんだっけ」

 記憶をたぐり寄せた


 ・・・・・・・・・


 ・・・・・・!!



 ・・・思い出した


「えっと・・・」

 急に意識して体が硬くなる



「セレニティ」

「は・・・はいっ」

 ・・・警戒されている


「そんなに怖がるな」

 そっと肩を抱きしめる


「・・・・・・」

 どきどきして落ち着かない
 どうしよう・・・


「さっきはいじわるが過ぎたな

・・・許せ」


 そのまま唇を引き寄せた

「ん・・・・・・はう・・・」


 優しく何度も重ねて唇をはさみこむ

 ・・・彼女の動揺が伝わってきた



「・・・・・・」

 唇を離した


「・・・・・・」

 透き通る瞳の中にはわたしだけが映っている


「・・・あの男はこういう事をしてくれなかったのか?」


「・・・何よ それ」


「おまえは色々な事を知らなさ過ぎる
どれだけ大事にされてきたかは分からないが

愛してるならすべてを奪ってしまいたいと思うはずだ


・・・そいつは本当におまえを愛していたのか?」


バチン!


「・・・・・・」

 頬に痛みが走った

 目の前で彼女がわたしを睨んでいる

「やめて・・・
そんなひどいこと言わないで!

・・・奪うだけが愛じゃないよ」



「・・・ククク」

 馬鹿にするように笑い出した


「結局おまえは
あの男に最後までこども扱いされていたという事だな」

「!!」

 顔を赤くしてうつむく

 これ以上つつくと泣きだすか?



「・・・なによ」

 青い瞳が睨み返す
 反論する気らしい


「・・・あなただってそうじゃない
あたしをこども扱いして

いつもからかってばっかり!
同じだわ」


 ・・・心外だった

 あの男と同じだと言われたのもそうだが
 わたしが加減をして接しているのは
 まだこどもだからだと思っていたのか


「それは違う」

「何が違うのよ」

「分からないのか

確かにおまえはまだ色々と幼い
だからついからかってしまう

それはくるくる変わる表情が可愛らしいから
もっと笑っている顔を見たいからだ」

「・・・・・・」

 可愛らしいなんて言われて
 不覚にもときめいてしまった



「わたしが今まで手加減していたのは
おまえがこどもだからではない

わたしにも理性がある


・・・違う男を想っている相手を本気で抱けるか」


「!!」


 顔が真っ赤になった
 予想もしていなかった答えに頭の中がぐるぐる回る
 ・・・心臓の音がうるさくて考えがまとまらない

 どうこたえたらいいんだろう



「わたしはおまえを一人の女として見ている」

「え・・・あ・・・あの・・・・・・」

 言葉がつまる
 ・・・動揺が隠せない


「おまえはわたしが今までで唯一愛した女性だ
わたしならおまえを一人の女として見てやる事が出来る


・・・おまえのすべてが欲しい」


 頬に手が触れた
 その指先が首筋を伝い
 鎖骨をなぞる

「・・・・・あ・・・」


「本当は骨の髄まで貪り尽くしてやりたい
こうしている瞬間も押し倒してやりたいとばかり考えている

いっそ何もかもすべて忘れておまえを溺れさせたい
・・・おまえに溺れたい」


 ・・・圧倒的な威圧感を前に体が硬直して動かない

 なんて強い想い・・・
 本当に全力でぶつかってこられたら
 今のあたしにはそれを受け止められる自信がない


「デマンド・・・」


「・・・・・・」

 肩が小さく震えている
 彼女が怯えているのが伝わってきた



 ・・・この顔を見るといつも何もできなくなる


 無理に欲求をぶつけても余計怖がるだけだ
 何も伝わらない



「・・・そんなに怖がるな
嫌なら何もしない」

 肩に触れていた手をそっと離した


「・・・・・・」

 デマンドの表情が穏やかになった
 いつもの顔に・・・戻った


「少し欲張りすぎたな・・・

おまえが傍にいるだけで奇跡なのに」


「デマンド・・・」

 その手が優しく頬に触れる


「こうして・・・手を伸ばせば触れられる距離にいるというのに

つい焦ってしまう
・・・すまない」


 もう・・・ずっと前から気がついていた
 強引に見えるけど本当はすごくあたしに優しい


 ・・・分かってる

 彼が一番欲しいのはあたしの心だって

 でも今はそれに応えてあげられない
 すべてをあなたには捧げられない



 ・・・・・・・・・


 涙が一筋こぼれた


「・・・泣くな」

「ごめん・・・なさい」

 何もしてあげられない不甲斐なさに
 涙だけが溢れて落ちる


「・・・・・・」

 唇を頬に寄せた
 わたしのために泣いてくれていると思うと
 流れる涙すら愛おしい


「セレニティ
おまえがまだ地球に未練があるのも分かっているつもりだ
・・・それでも悪いが帰す気は微塵もない

ずっとこうして閉じ込めておきたい
わたしだけをみていてほしい

・・・愛している」

 大切なものを宝石箱にしまいこんで
 愛おしそうに眺めるようなまなざし

 あなたのひたむきな想いが瞳からも伝わってくる
 それが嬉しいのにそれを返すことができない

 あたしは残酷な女だ



 どうしたらその心の未練を消し去れるのだろう
 どうしたらこの想いは伝わるのだろうか

 ・・・わたしにできることは何度も言葉に出して伝えることだけだ

「愛している・・・セレニティ」

 愛を語る唇があたしに触れる

 このまま彼の想いに甘えて
 ずっと包まれてまどろんでいたい気すらする
 でもあたしにはまだまだ彼を受け入れる覚悟が足りない


 ・・・結局わたしはこどもなんだ


「・・・ん・・・・・・」

 デマンドの唇が愛おしそうにあたしを求めてくる


「・・・前のようなキスは嫌いか?

・・・嫌ならもうしない」


「ううん

びっくりしただけで・・・いや じゃない」

「・・・・・・」

 意外だった
 少し前ならこんな答えは返ってこなかった
 何も言えなくて口をつぐむだけだったのに

 少しずつだが彼女も変わってきている気がする


「デマンド・・・

キス・・して」

 言われるままに唇を封じ込めた

 唇が何度も優しく触れてくる
 わたしに応えようとしているのが感じられた


「・・・はあ・・・・・・」

「・・・そうだ いいこだ

何も考えずにわたしだけ感じていろ」

 今だけはすべて忘れてこの唇に酔いしれていたい