銀水晶が光輝かなくなった

 前みたいに温かい力が全く感じられない
 あたしの呼びかけにも反応しない

 まるで銀水晶に持つ資格がないと言われてるみたい


 眠っているの?それとも もう力が残っていないのだろうか
 ・・・あたしもそのうち力尽きたらこうなるの?



「なんて静かなの・・・」

 どこまでも果てのない闇の回廊

 身を乗り出して見渡してみても
 城の外は漆黒の闇が広がるばかり

「こんな星があるなんて・・・」

 ここに連れ去られて来るまで知らなかった
 今までどれだけ光の溢れる世界で守られて生きてきたか

 ・・・自分の甘さを思い知らされる



「怖いか?」

「デマンド・・・」

 いつの間にか後ろに立っていた

「この星も昔は小さな植物くらいなら生えていたのだが

邪黒水晶の暗黒パワーに当てられて枯れ果て
今はもう死の星と化している」

「邪黒水晶
なんて強いマイナスのエネルギーなの・・・」

 すべての力を奪い尽くす強力なパワー
 銀水晶ですら今はただの冷たい石・・・


「わたしはずっとこの星で
わずかな一族の者とひっそりと暮らしてきた

夢も希望もなかった」

「デマンド・・・」

「だが今は違う
セレニティ

おまえはわたしの希望だ」

「あたしが・・・希望?」

「そうだ
おまえといると心が温かくなる」


「・・・ありがとう」

 そんなに真剣な瞳で見つめられると恥ずかしくなる
 思わず目線を下に向けた


「・・・セレニティ」

 後ろから包み込まれるように抱きしめられた


「・・・・・・」

 なんだか緊張する
 今まで彼に何度抱きしめられたか分からない
 なのに毎回どきどきして落ち着かないよ




「・・・・・・」
「・・・・・・」

 静かな時がしばらく流れた





「あの・・・もう離して」

 沈黙と緊張に耐えられなくて
 腕をほどいて横に移動した


「・・・おいで」

 伸びてくる腕から逃れようとまた一歩横に反れる


「えへへ・・」

「なぜ避ける?」

「別に避けてるわけじゃ・・」

「避けているではないか」

 わたしの腕をすり抜けてどんどん後ろへ下がっていく
 鬼ごっこのつもりか


 デマンドが近づいてくると足が勝手に後退する
 それでもどんどん近づいてこようとする


「あっ」

 遂には壁に追い詰められた
 ・・・もう後がない


「やっと捕まえた

どういうつもりか知らないが
逃げたって余計燃えるだけだぞ」

「・・・・・・」


「大人しく抱かせろ」

 捕らえた獲物を腕の中に収めた


 彼のぬくもりを感じると
 どうしてこんなに胸が苦しくなるんだろう




「・・・心臓の鼓動が速いな
どうした?」

「あたしにも分からないよ・・・
なんだか落ち着かないの」

「わたしの腕の中がおまえの居場所だ

いい加減慣れろ」


 デマンドの手が髪を撫でる
 唇が優しく頬に触れそのままあたしの唇を塞いだ

「ん・・・・・・」



 その唇が首筋に移動する

「やだ・・・こんな所で」

「・・・誰も見ていない」


 敢えて抵抗もしないで彼の愛撫を受け入れる

「はう・・・あっ・・・」

 体の力が抜ける
 ・・・立っていられない

「デマ・・ンド」

「おまえは変わったな

奪い取って来た直後は
少し触れただけで激しく拒絶していたのに」

「だってあの時は・・・
一方的に強引であなたの気持ちも分からなかった」

「おまえは色々な表情を持っている
あどけなかったり 時には妙に大人びていたり

・・・不思議な女だ」

 連れ去られてきた時のことなんて・・・
 もうずっと前の事のように感じる
 あの時
 気が付いたら着飾られてベッドに横になっていた


 ・・・・・・

 今更になって気が付いた
 気になって仕方がない


「ねえ・・・デマンド」

「どうした?」

「あたしがここに連れ去られて気が付いた時
ドレスに着替えさせられてたよね

・・・誰が着替えさせたの?」

「さあ どうだったかな」

「まさか・・・あなた?」

 顔が真っ赤になる

「今更聞く事か?
おまえの事は体の隅々まで知っているというのに」

「あの時は違ったでしょ!

もうっ・・・信じられない」

 くだらないことですぐにむきになる
 こういうところはまだ子供だ


「・・・幼いな」

 デマンドが呟く

 聞こえないと思っていたかもしれないけど
 あたしにはしっかりと聞こえていた



「・・・離してよ」

 腕を振りほどかれた
 むっとした表情でこちらを睨んでいる


「・・・いつもからかってばかり
子供扱いしてばかにしてるでしょ
あたしだってもう立派なレディよ

あと2年したら結婚だってできるんだから!」

「おまえは子供だろう?
つまらない事ですぐにむきになる

体つきだっておとなの女には程遠い」


 ・・・なんか今遠回しにペチャパイってばかにされた気がする

「何よ・・・
そんなのすぐに成長するんだから!」

「くく・・・それは楽しみだな」

 いつも余裕な態度で接してくる
 ・・・悔しい


「あたしがまだ子供だって言うのなら
あなたはロリコンじゃない

いたいけな乙女に手を出して
変態だわっ」


「・・・・・・」

 ・・・なんかきょとんとした顔してる


「・・・くくく

はははは!」


「な・・・何よ」

 声を出して笑うところは初めて見た


 笑いがとまらない
 いつも突拍子に面白い事を言う


「おまえは本当に見ていて飽きない」

 ・・・また笑われた
 でもこんなに屈託のない笑顔するなんて
 ちょっと意外

 そのまましばらく笑っているのを眺めていた


「くく・・・・・・

・・・・・・」

 いきなり止まった



「セレニティ・・・」

 手が頬に伸びてくる

「そんなに子供扱いするなと言うのなら
おとなのする事をしてやろうか?」

「!!」

 口車に乗せられて墓穴を掘った気がする

「あの・・・

遠慮しておきます;」

 身をひるがえして苦笑いを浮かべた


「・・・逃げるな」


 いきなり周りの空気が変わった
 言いようのない威圧感

 体が固まって動かない
 背筋がぞっとする


「やだ・・・何むきになってるの」

 笑顔がひきつる

「いつもされていることがすべてだと思うな


・・・うさぎ」

「!!」

 わざとその名前を呼ばれた

 うさぎのあたしは中学生のまま
 たくさんの人に守られて暮らしていた
 ただの中学生に戻る・・・


「今までおまえを壊さないように
わたしがどれだけ優しく接してきたか分かるか?

・・・あの男にもされなかったことをしてやろうか」

「・・・あっ・・・」

 強引に体を引き寄せられた


「ひどいよ

忘れようとしていた事を・・・言わないで」

「好きなだけ比べてみろ
どちらが良いか体に聞けばいい」

 耳たぶを唇が優しくはさみこむ
 漏れるため息が耳元に吹きかかる

「や・・・あん・・・」

 背筋がぞくぞくして体が反る



「わたしにキスしてみろ」

「デマンド・・・」

 恐る恐る唇を重ねた


「・・・ん・・・・・・はあ・・・」



「・・・くくく」

 デマンドが嘲笑う


「教えてやろう

大人のキスはこうするのだ」

 言うが早いか唇を塞がれた


「ん・・・・・・んん!」

 触れるというよりも食べられるような感覚
 激しく触れ合う唇の隙間から熱い息が漏れる



「・・・・・・ん・・・・・」

 腕の力が抜けてだらりと落ちた





「・・・や・・・・・・はうっ・・・

!!」

 口の中に舌が侵入してきた
 それがねっとりとあたしの舌にからみつく


「・・・・・・はあ・・・・・んん・・・・」

 何度も何度も離れてはからみついて
 たじろぐあたしの舌を弄ぶ


 抵抗もできずに
 一方的にされる事を受け入れるしかない




 もう・・・頭の芯がとろけて
 何も思い浮かばない


 意識が遠のいていく





「・・・・・・・・・」

 唇をゆっくりと離す

「・・・・・・はあ」

 荒い息を落ち着かせる
 腕の中でセレニティがぐったりと目を閉じていた


「全く・・・」

 ・・・少し本気を出しただけでこんな風になるというのに
 何が大人だ


「おまえはわたしを知らなさ過ぎる」

 ただ弄ぶだけならこんなに悩んでいない
 どれだけ大切に扱ってきたか彼女は気づいていないだろう

 それでなくともエナジーも残り少ない彼女の体
 己の欲望をすべてぶつけたら本当に壊れてしまいそうだ

「・・・結局はずっとわたしの一方通行だな」

 わたしの想いが伝わる日は来るのだろうか