「・・・え?」

「わたしと・・・一生寄り添うつもりはないか?」

 デマンドは一体今何を・・・
 状況がよくのみ込めない

 どういうことだろう
 その言葉の本当の意味がよく掴めない
 まさかもしかして・・・


 ううん 違うよね?
 あたしの勘違いかもしれない



「え・・・と・・」

「・・・・・・」

 その、こたえをじっと待つ瞳と沈黙が重い
 何て言ったら・・・



 あたしが混乱しているのを悟り
 言葉を足してきた


「わたしの妻になって欲しい
ずっと・・・傍にいて欲しい」

「・・・!」

 思い違いじゃない



「それって・・・プロポーズ?」

「そうだ」

 彼があたしにひざまずいている光景だけでも異様なのに
 その口から出てきた言葉にはもっと驚かされた


 プロポーズって・・・

 あたしに?


 今この状況で??

 何を考えてこんな事・・・
 あなたの意図が読めない






 ・・・・・・・・

 ・・・初めて言われた

 ずっと夢見て 憧れていたその言葉
 いきなり過ぎて戸惑ってはいるけど
 それに対しては素直に嬉しいと感じた


 でも・・・
 デマンドを愛しているのかと問われると言葉が詰まる



「・・・・・・」

 いつかまもちゃんのお嫁さんになる事・・・
 それがずっとあたしの夢だった
 きっと叶うと信じていた

 なのに、今目の前でその言葉を向けてきたのは違う男性
 ・・・夢と現実のギャップに心が沈んでいる


 二人の仲を引き裂かれ
 無理矢理連れ去られてここにきた
 あたしのささやかな夢を壊したのは目の前のあなた
 そのやり方は間違っていた

 なのにどうしてだろう



 ・・・あたしおかしい

 彼の言葉に対して
 胸の奥がどんどん熱くなっていくのが分かる

 道ならぬ事をしてまであたしを望んでくれた
 強い想いとそれをひたむきに伝えてくれた誠意を前に
 敬意にも似た感情が湧き上がってくる


 今現在も彼の想いすべてに応えることはできない・・・

 だからと言って
 すべてを拒絶する事もできないのは確かだ
 すぐに返事を返せないのがその証拠・・・


 あたしは・・迷っている
 悩む余地があるという事に自分自身驚いていた

 どうしよう・・・
 いくら考えてもこたえが出てこないよ





「・・・・・・」

「・・・・・・」

 ずっとあたしの様子を見守っていたデマンドが
 静かに口を開いた


「ここに一生身を置くために

・・・おまえには邪黒水晶の力を受け入れて貰いたい」



「邪黒水晶の力を・・・受け入れる?」

 思わず目が大きく開いた
 その言葉に驚きが隠せない


 ・・・あたしが?
 その力を・・受け入れるって・・・・
 それは銀水晶のエナジーを捨て去るということ・・だよね

 今までずっとこの温かい力に支えられてきた
 このぬくもりに守られて生きてきた
 それを捨て未知のパワーを受け入れる

 ・・・その提案に一瞬心が怖気づく


 このまま暗黒パワーに力を吸い取られ
 力尽きる覚悟はしていたけれど
 その覚悟は・・・



「・・・・・・」

 彼にもその迷いが伝わっているのだろうか
 少しためらいながら言葉を続けてきた



「死を待つか
闇の力を受け入れて永遠にここへ閉じ込められるか
残酷な決断を強いているのは承知している

・・・わたしもかなり悩んだ
おまえをわたしの身勝手な想いから
縛り付けて良いのだろうかと・・・
このまま安らかにさせた方が良いのだとさえ思った
だがそれをどうしても受け入れられない

わたしは・・・おまえを失いたくない
どんな形になろうとそれでも良い
ずっと傍にいて欲しい」

「デマンド・・・」

「セレニティ・・・
この力をおまえ自身の意思で受け入れて欲しい」

 なんて・・・切ない瞳
 あたしを助けたいがためにこんな事を・・・



 あなたは変わった

 前だったら自分の考えだけで行動してきたのに
 今はちゃんとあたしの気持ちを聞いてくれている
 断ったとしてもおそらくそれを尊重してくれる気なのだろう



 あたしも 変わった

 ここへ連れ去られてきた時は絶望しかなかった
 力尽くであたしを手に入れようとするあなたを恨んだ時もあった

 でも・・・
 最初は何も言ってくれなかったあなたが
 心を開いて想いを伝えてきてくれた時はすごく嬉しかった

 優しく触れてくれるようになって胸がときめいた
 愛の言葉を囁かれる度、心が熱くなっていった

 最初の手段は間違っていたかもしれないけど
 あたしを想ってくれているその心は真実だ


 あたしの心はあなたをどう思っているんだろう・・・





 ・・・・・・・・

 現実的な事を考えてみた

 暗黒の力をこの身に受け入れる・・・
 それ自体考えるだけで身震いする
 未知の力を前にして恐れているのは当然の事だ

 ・・・あたしはどう変わってしまうのだろう
 この巨大なマイナスエネルギーを支配することなんて
 本当にできるのだろうか


「・・・っ・・」

 とてもできそうにないよ・・・
 心が怖気づいて後ろに引いていく




「セレニティ」

 あたしの手をデマンドが強く握ってきた


「!?」

 唇がそっとその指先に触れる


「愛している
例えすべてを捨ててしまっても
たった一人のおまえを選ぶだろう

この気持ちは一生変わらない自信がある」


「・・・・・・」

 熱く見つめてくる瞳にどんどん吸い込まれていく
 それは一心にあたしだけを見ている

 ずっと もうかなり前からあたしだけを・・・


 目が離せず見つめていると胸が高鳴ってきた
 いつもこの瞳に見つめられると
 体だけではなく、心まで縛られて動けない

 何もかも忘れてしまいそうになる





 ・・・そうだよ

 できる できないじゃない
 こういうことは頭で決められる事じゃない

 感情はいつも勝手に動き出すもの
 そしてそれを止めることは自分にもできない



 なんだ・・・
 あたしのこたえは始めから決まっていたんだ


 デマンド・・・
 あなたの傍にいてあげたい
 ずっと 傍らで守って支えてあげたい

 それって多分恋心に近い想い

 あなたの一途な想いに惹かれ始めているのかもしれない
 その、少し寂しそうだけどあたしだけを見ている熱い瞳に



 今初めて自分の心と向き合った気がする
 デマンドにそれをどうやって伝えればいいの?
 揺れる心をどうやって安心させてあげればいいのかな・・・




「・・・・近くに来て」

「・・・・・」

 こたえを聞かせてくれるのだと覚悟して近寄った



「・・・・デマンド」

「!?」

 セレニティが腕を回して抱きついてきた
 突然のその行動にどうしたら良いのか一瞬戸惑う


「・・・・・・」

 弱々しいが
 力を振り絞って抱き締めてくれているのが伝わってきた
 自分の手をそっと彼女の背中に添える


 そのまましばらくその状態が続いた



「・・・・」

「・・・・・・」

 過ぎていく時間がとても長く感じる・・・
 ずっと 何も言ってはくれない


 返事はどちらなのだ
 心が不安で今にも押し潰されそうだ





「セレニティ」

 痺れを切らして名前を呼んだ


 わたしにしなだれかかるように抱きついている
 その体を優しく引き離し、瞳を眺めた

 どこまでも深く 澄んだ青い瞳
 その眼差しは何を想っているのだ・・・



「返事を・・・聞かせて欲しい」


「・・・・・・」


 なぜ何も言わない
 拒絶の言葉を捜しているのか?

 ・・・やはりわたしの想いは通じないのだろうか
 言葉を待つ不安と恐怖に
 ほんの一瞬でも もはや耐えられそうにない


「・・・・・・」

 デマンドったらそんな瞳をして・・・
 あたしから拒絶されたらどうしようって思っているの?

 なんだかすごく可愛く見えてきてしまう
 そんな場面じゃないのに笑っちゃいそう


 ・・・大丈夫だよ
 そんなに心配しないで

 切なそうに細める瞳に
 とびきりの笑顔を向けてあげた


「!!」

 彼女がふっと笑顔を見せた
 すべてを許し 包み込もうとするようなその微笑み



 まさか・・・

 ゆっくりとその瞳が近づいてくる



「・・・いいよ」