「ねえ・・・デマンドって何歳?」
回廊の隅で彼女に寄り添い、穏やかなひと時を過していた
そんな時
ふとあどけない瞳がわたしを覗いて尋ねてきた
「何だいきなり・・・
そんな事聞いてどうする」
「別に
・・・ただ気になっただけよ」
「・・・18だが」
「ふーん・・・」
納得したように頷く
「あたしと4つ違うのね」
・・・どうりで大人っぽいわけだわ
「・・・・・・」
深紫の瞳をじっと見つめた
デマンドはいつも自分の事は多く語らない
もう結構長いこと一緒にいるのに
・・・そういえば彼の基本的な情報すら知らされていない
好奇心が募ってくる
「ねえ
誕生日は?血液型は??好きな食べ物は???」
「・・・っ・・」
好奇の眼差しをこちらに向けて
次々と質問を投げかけてくる
若い女特有の騒々しい活気に少々戸惑った
「・・・わたしのことがそんなに知りたいのか?」
「うん!」
「・・・・・・」
生き生きとした瞳が答えを期待して待っている
わたしに興味を持ってくれる事自体は嬉しいが
このような会話には慣れていない
慣れていないというよりは・・・苦手だ
自分の戸惑う姿はあまり見せたくない
・・・こういう時の彼女の黙らせ方はもう熟知している
「もうおまえは知っているではないか
わたしのすべてを」
「え?」
彼女の肩を腕の中に引き寄せた
「なっ・・・何」
そのまま耳元で囁く
「毎晩わたしの体の隅まで・・・おまえに見せているだろう?
何なら今すぐにでも教えようか」
「ちょっ!・・・んんっっ」
「・・・・・・」
有無を言わさず唇を塞いだ
「・・・ん・・
・・・!!」
背筋にそって指先を這わせていく
始めのうちは冗談混じりだったがそのうち興が乗ってきた
「セレニティ・・・」
「・・・っ・・・んん・・」
手加減のない激しいキス
何度も重ねて動かしてくる
その強い唇に・・・身が溶かされそう
「や・・・ん・・・
・・・・・・もうっっ」
必死で腕を振りほどいた
切れる息を落ち着けて言い放つ
「なんでいつも・・・
どこででもそういう雰囲気に持っていこうとするのよ
・・・このエロプリンス!」
膨れた顔で睨みつけてやった
「・・・・・・」
「何よ・・リアクションしてよ
いつもみたいに笑って
からかい甲斐のある女だな
・・・とか言わないの?」
「・・・からかってなどいない」
真剣な眼差しがじっとあたしを覗き込む
「好きな女とこんなにくっついていて
したくならない男がいるか?」
「・・・・っ!」
真面目に返された
やだっ・・・なんでそういう事言うのよ
思わず顔が火照ってくる
頬が・・熱い
いつも恥ずかしげもなく
まっすぐと想いを伝えてくる
そういう正直な所はつい感心させられてしまう
「できることなら一日中
ずっとベッドの中で裸のまま抱き合っていたい
おまえの肌は滑らかで触り心地がとても良い」
「・・・・・・」
言葉が詰まった
乙女の口からはそんなことに
はい、なんて言えるわけがないよ・・・
デマンドがそれを悟ったかのように
ふっと笑った
「このまま無理に押し倒したい気もするが
・・・おまえが嫌なら今ここでは会話だけでとどめておこう
お楽しみは夜まで取っておく」
「!!
ちょっと!
それでも夜までの保留なのっ」
真っ赤になってその言葉に食って掛かった
「はははっ」
無邪気な笑みが向けられる
・・・この笑顔にあたしは弱い
「・・・セレニティ」
「何よ・・・」
ふわっと包み込むように抱き締められた
穏やかな声があたしの耳元で囁く
「もう・・・
おまえを抱きしめていないとわたしは眠れないのだ」
「デマンド・・」
そのままあたしを抱き締める腕が強くなっていく
抵抗する理由もなく
彼の胸の中に顔を埋めた
自分の心臓の鼓動が早い
胸の奥が・・締め付けられる
「・・・寝かせる気は元からないがな」
いたずらっぽい瞳であたしを覗き込んだ
「なっ!?」
「くくく・・・」
「・・・もう」
いつもそう
強引さに押されてあたしの言葉は塞がれる
なんだか上手く丸め込まれている感じ・・・
自分の好きに行動する彼に毎回翻弄させられる
我が侭なのはプリンスだから仕方ないのかな?
そういえば・・・
ふと思った
「ねえ 前から思ってたんだけど・・・」
「何だ?」
「あなたって・・・
感謝の言葉がない!」
指を刺してずばりと指摘した
「・・・・・・」
「あたしに
ここに残ってくれてありがとう、とか言えないの?」
ずっと思っていたことだけど
今やっと言う事ができた
「・・・おまえは自分からここに留まると言ったではないか」
そっぽを向いて少し膨れた顔をした
・・・その態度にこっちもちょっと意地になる
「何よっその反抗的な態度はっっ
デマンドがあたしに傍にいてくれないと夜も寝れなーい
っていうから残ってあげたのよっ
ありがとうとごめんなさいはとっても大事な言葉よ!
ほら、言ってみてよ
あ り が と う」
「・・・・・・」
目線を横に逸らし口をつぐんだ
そのまま沈黙を守る
意地でも言わない気ね・・・
むむむっ
「・・・言ってくれないと地球に帰っちゃうわよ」
つい、いじわるを言ってしまった
「・・・っ・・」
ぴくっと 眉が僅かに反応する
今ちょっと動揺したみたい
「・・・やれるものならやってみるがいい
また出口を探して彷徨うか?
付き合ってられないな
・・・ふんっ」
少し声を荒げてそっぽを向く
そのままマントを翻して歩き出した
あたしからどんどん離れていく
心なしか靴音がいつもより荒い
「なっ・・・
なによあれっっ」
その態度に呆然とさせられる
なんて勝手な人なのっ
・・・本当に帰ってやろうかしら
あたしだってやる時はやるのよっ
べーだ!!
その背中に向けてこっそりと舌を出した
そんなことをされているなんて知らない背中が遠ざかっていく
「全く・・・」
気まぐれで困った人ね
・・・でもあたしは知っている
口ではあんなことしか言えないけれど
本当は強がってるだけだって
その背中はあたしに引き止めて欲しがっている
帰るなんて言ったから
心は不安でいっぱいのくせに・・・
素直だったり意地っ張りだったり
意外と子どもっぽいんだから
「もうっ
・・・仕方ない人ね」
ため息をつく
振り向いた顔がどんな表情かも気になるし
今回はあたしが折れてあげようかな
その揺れる心を笑顔で迎えて安心させてあげるわよ
デマンド!
その後姿を呼び止めようとした
声をかけたつもりだった
・・・・・・?
言葉が・・・でてこない
唇ばかりが動く
どうして?
「・・・・・!?」
今までに感じた事のない強烈な眩暈が体を襲ってきた
体の平衡感覚が崩れて膝がその場にがくりと落ちる
う・・・そ・・・・
こんなに急に・・・?
「・・・っ!」
視界がぼやけてくる
焦点が・・合わない
必死に首を振って頭を覚醒させようとした
それもむなしく全身からどんどん力が抜けていく
冷たい床に頭が落ちた
「はあ・・・・・・くっ!・・」
息が・・・重い
呼吸が上手くできない
わずかな空気を求めて肩が必死に上下している
まさかこのまま?
・・・・・・いやだ!
こんな終わり方・・・いやよ
「・・・ん・・・・・・」
手を伸ばす
彼に・・・届くよう震える手を必死に伸ばした
「・・・っ・・」
・・・届かない
デマ・・・ンド
深い闇が意識を呑み込んでいく・・・
・・・・・・・・・
「全く・・・」
本当に・・・なんと思い通りにならない女だ
いつもこちらは振り回されてばかりだ
わたしまでつい意地になってしまうではないか
・・・最近わたしは冷静さに欠けている気がする
彼女と一時でも離れていたくないのに
帰るなどと言われて勝手に足が動いてしまった
少々大人気がなかったと反省はしているが
彼女なら引き止めてくれるとなぜか自信があった
その呼び止めてくれる声を密かに心の中で期待していた
なのに・・・いつまでたってもそれがこない
コツ・・・・・・
足を止める
「・・・っ・・」
少しむくれながら振り返った
・・・・・・?
視界の先に彼女がいない
少し見回すように目線を動かした
そのまま視線が下に落ちる
「セレニ・・・ティ・・・
・・・!!」
倒れている彼女の姿
その光景に釘付けになった
急いで駆け寄って抱き上げる
「!?」
体が・・・冷たい
肌の色が真っ青で・・・
ぐったりとしていて息をしているのかすら分からない
心臓が凍りつく
「セレニティ!!」
声を荒げて名前を呼んだ
「・・・・・・」
いつもの発作とはあきらかに違う・・・
「とにかく・・・寝かせないと」
早る心を抑えて部屋へ連れ帰った
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