「キスもいいが・・・
そのままじっとしていてごらん」

「・・・?」

 これから自分がどうなるのかも知らない瞳が
 きょとんとこちらを覗き込んでいる





 デマンドの指先があたしの唇をなぞりそのまま首筋を掴む


「!!」


「この細い首に指を食い込ませたらどんな感じがするだろうな

・・・このまま締め上げてやろうか」


 強い殺気・・・
 あたしの本能が危険だと警笛を鳴らしている
 全身に鳥肌が立った


「・・・あ・・・」

 鼓動が急に速くなる
 恐怖からなのか緊張しているからなのかは分からない
 ・・・冷や汗で手がにじむ

 首筋を締め上げるような指先の動き
 そこに少しずつ力が加わっていく


 あたしの耳元でささやく低い声

「・・・おまえを殺したい程愛している」

「!!!」

 背筋がぞっとした

 全神経が首に集中している
 脈のドクドクとした動きが浮き立つ
 声が・・・出ない


「・・ん・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 緊張が頂点に達した時
 ふっと指の力が抜けた


「・・・はあ」

 心に安堵が広がる





 ・・・それも束の間だった



ガシッ

「あうっ!!」

 両脇の間から胸のふくらみをつかまれた
 ほっとした途端に襲ってきたいきなりの衝撃に電気が走る

「やっ
な・・・何するのよ」

「・・・・・・」

 返事が返ってこない

「・・・ん・・・」

 無言のまま胸をまさぐられる
 ・・・心臓ごとわしづかみにされているみたい


 布を通して間接的に愛撫が伝わってくる
 胸の先端を集中して撫で回された


「や・・・やだっ・・・」

 恥ずかしそうに顔を赤くする
 
 しなやかな手が手持ち無沙汰そうに彷徨う
 それを捕らえて指を絡めた

「デマ・・ンド

・・・はうっ」

 首筋を唇が這う
 そのまま舌先が耳元を伝い 頬にも軽く触れる


 いつもなら言わなくても分かってくれるのに・・・



「・・・して・・・・・・キス・・して」

「・・・・・・」

 指先が顔に触れた
 そのまま優しく頬を撫でてあたしの唇を誘導する


 ・・・舌先が唇に触れそうな寸前で止まって逸れた

 キスしてくれない・・・
 唇が唇を求めて空を食べる


「・・・いじわるしないで」

「いじわるなどしていない

気持ちよくしてあげているだけだ」

 指先で唇を弄びながらも一方で愛撫は続けられていた


「やっ・・・・・・あう・・・」

 ・・・布が邪魔して指先の感触がちゃんと伝わってこない


「・・・こんなのやだよ
ちゃんとして・・・じらさないで

・・・足りないよ」

 切なそうに漏れる甘い吐息
 わたしを求める声にぞくっとさせられる

「もっとわたしを求めろ

おねだりしてごらん」

 いじわるそうに微笑を浮かべた
 翻弄されるあたしを見て楽しんでいる


「・・・・・・

お願いします・・・してください」

「・・・だめだ」

「!!

ひ・・・ひどいよ」

「わたしの心に火を付けた

・・・おまえが悪い」

「や・・・やだよ・・・もうこんなの・・・」


「・・・目を閉じて唇だけを感じていろ」

「・・・ん」

 きゅっと目をつむる

 耳元に優しく舌が這う

「・・・あっ・・・んんっ」

 息がかかる度に言いようのない快感が全身を走る


 もう 立っていられない
 足の力が抜けて腰が落ちそうになる


「まだだめだ

立っていろ」

 強い腕に体を支えられた

「あう・・・・」

「どこを触ってほしい?」

「・・・分からないよ・・・何も」

「なら 好きにさせて貰う」


「んんっ・・・やっ・・・・あっ・・」

 噛み付くようなキスが首筋から肩に伝う

 体を支えていた腕が腰の線を伝い
 太ももを撫で回す


「!!
・・・そこは・・・だめえっ」

 直接肌には触られていないのに
 体が過敏に反応する

 どこが気持ちいいかなんて分からない


 頭が真っ白



 もう・・・だめ




「はうっ・・・・いやっ・・・ああん

・・・!!!」


 絶頂の快感と痺れが全身を突き抜ける


 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・




「・・・・あ・・」

 体中の力が抜け
 ひざまずくように床に倒れこんだ



「・・・・・・はあ・・・はあ・・・」

 動悸が治まらない


「・・・・・・」

 何も言わずそっとあたしを抱き寄せた
 温かい腕の中で呼吸を落ち着かせる




 ・・・・・・・・・

 興奮が冷めて我に返った
 ・・・なんかあたしかなり恥ずかしい事を言っていたような

 今更ながらに赤面する



 小さな体をしばらく胸に抱きしめる

 ・・・少しやりすぎた気もする
 わたしを求める甘い声につい乗せられてしまった


「・・・・・・」

「・・・・・・」

 ・・・沈黙が重い



「・・・なんで」

 その静けさを破る声

「なんでそんなにいじわるな瞳ができるのよ」

 悔しそうな瞳がわたしを見つめている
 いつもと変わらないその様子に調子が戻る


「あきらめろ
わたしに勝てるわけがないだろう

いじめられたくなければ
もうくだらないいたずらは仕掛けない事だな」

 ・・・相変わらずの態度にむっとした

「負けないもん・・・」

「・・・懲りない女だな」

「べーだ!」

 舌を出してこちらを睨む

「・・・もう落ち着いたようだな」

 肩を抱いていた腕を離す
 立ち上がって埃を落とした


「・・・いつまでへたり込んでいる?」

 何か言いたそうにこちらをずっと凝視している


「・・・立ちたくても立てない」

「どうした?」

「・・・こ」

「こ?」




「・・・腰が抜けたあ;」


「・・・くくく

ははははっ!」

「むうう・・・」

 どうしてこんなにすべてが愛おしく見えてしまうのだろう
 くるくると表情が変わるその瞳から一時も目が離せない

「おいで・・・」

 助けを求める彼女を抱き上げた

「・・・ありがと」




「・・・覚えているか?」

「何を?」

「さっき言っていただろう?

ちゃんとして・・・と」

「うっ・・・

覚えてないもん」

「確かに聞いたぞ」




「・・・言った・・かも」

 顔を赤くして目を伏せる

 抱き上げたままベッドまで運び優しく下ろした


「望みどおりちゃんとしてやる

・・・最後まで」

「・・・ん」

 潤んだ瞳がこちらを少し見つめて そっと閉じた

「セレニティ・・愛している」

 そのまま愛しい唇をキスで封じた