・・・ここは どこ?

 白い霧に閉ざされた 何もない世界
 いつからここに立っていたのかも分からない
 
 あたしは どこに行けばいいの?
 道が見えない・・・


 一歩も動くことができなくてその場にへたりこんだ




「・・・セレニティ」


 ・・・・・・!

 後ろから聞き覚えのある 優しい声

「・・・まさ・・か」

 俄かに信じることができない
 そんなこと・・・あるはず ない

 ・・・体が硬直していて後ろが振り向けない


「会いたかった」

 ふわっと覆いかぶさる なつかしい感触

「・・・デマ・・ンド」

 ・・・どうして?
 頭がふらふらして思考がまとまらない
 ここはどこなの?
 あたしは・・・

 ・・・そんなことどうでもいい
 今は何も考える必要などない

「会い・・たかった」

 涙が一筋流れた
 堰を切ってどんどん溢れだす

「デマンド!!」

 温かい腕の中で泣き叫ぶ

 胸がいっぱいで言葉が出ない
 そんなあたしを
 何も言わずずっと強く抱きしめてくれる

 もう 何もいらない
 ずっと離れない
 あたしのデマンド


「・・・そんなに泣くな」
 泣きじゃくるあたしの頭を優しくなでる

「最後にどうしても会いたかった」


 ・・・その言葉の意味をすぐに理解した

「・・・あたしも一緒に行く
あなたを一人にはしないよ」

「・・・・・・」

「・・・あの時
ネメシスが消え去る瞬間
あたしの背中を押したのは あなたでしょ?
ずっと傍にいるって約束してたのに

どうして?」

 少し困った顔をする
 ・・・それから静かに話し出した

「セレニティ
今までわたしのわがままで留め置いてすまなかった
光も届かぬ闇の世界に一生閉じ込めようとして」

「ううん・・・あたしは自分の意志でいたんだよ?
あなたの寂しさを、孤独をあたしが包んであげたくて」

「ありがとう
でも もう大丈夫だ
・・・わたしの最後の願いを聞いて欲しい


地球に戻るんだ」

「!!やだ!
あなたの傍にいる

・・・一緒にいたいの・・いさせて?」

 絶対に離さない

 彼の腕を強く掴んだ

「セレニティ・・・
君は温かい光の中で笑っているのがふさわしい
そんな姿にわたしは惹かれたのだ」

「・・・ずるいよ・・・好き勝手言わないで!
あたしの気持ち・・・分からないの?」

 震える声で懇願する

「わたしの事は もう忘れるのだ」

「そんなこと・・・できるわけないよ!
無理だよ!!」

「無理なら長い夢だったと思え
・・・夢は必ずいつか覚める

閉ざされた世界にいつまでもいてはいけない 
前に進むんだ」

「あたしのこと・・・キライになっちゃったの?
迷惑・・なの?」

「・・・愛してるから言ってるんだ」

 デマンドの愛情が痛いほど伝わってくるのは分かる

 でも、感情が理性についていかない
 どうしたらいいのか分からない・・・

「セレニティ」

 優しく頬に触れあたしの涙をぬぐう

「君を・・・彼に返そう
愛をはぐくみ、お互いを尊重し合い
・・・そうすれば
いつか全力で守ろうとした愛しき存在に会う事ができるだろう」

「・・・デマンド・・・」

「笑ってくれ
きみの笑顔はわたしの孤独な冷たい心を温かく照らしてくれた

すべてを包み込むその笑顔にどれだけ癒されたか」

 ・・・笑ってあげたい
 でもこの涙を止めることはできないよ


「・・・ごめんなさい・・・
あたしは・・

あたしはあなたに愛されている事実に甘えて
何もしてあげられなかった」

「そんな事はない
ほんのひと時だけだったがその笑顔を独り占めできて幸せだった

・・・最後にきみの気持ちも聞くことができた
それだけで満足だ」

 瞳が・・・
 涙で溢れてあなたの顔がよく見えない


「もう・・・会えないの?」

「もしまた出会う事ができたら

その時はまた最初からはじめよう」

 ・・・胸が苦しい
 言いたい事はいっぱいあるのに・・・
 何を話せばいいの



「・・・デマンド

愛してる
多分、初めて会ったときから
ずっと惹かれてた

あなたの孤独な心を
あたしが温めてあげたかったの」

「・・・・・・」

 あたしの告白に何もこたえず
 ただ優しく抱きしめるだけだった


「・・・キス・・して」


「・・・セレニティ」

 そっと触れる唇

 今まで何度も触れ合った
 なつかしいぬくもり




「最後までそばにいてくれてありがとう

きみの幸せを心から祈っているよ」